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【本の感想】女性ライターのノンフィクション3冊

「文学」と「作家」への道(35)

読む本のほぼすべて、図書館で借りている。昨年2023年に僕がお金を出して買った本が何冊あるだろうか。ハードカバー、ソフトカバーなどの単行本で片手に満たないだろう。その一方で図書館で借りた本は150冊はゆうに超えると思う。もちろんすべて読んでいるわけではなく、最後まで読了したのは6割あるかどうか…。
本は、ほとんど新聞(朝日、読売、日経、毎日、産経、東京)の書評で紹介されたものをチェックして図書館に予約。専門的なものであまり読まれないものならすぐに、エンタメ系だと何百人と予約が入り、完全に忘れたころ…何カ月もたって順番が回ってきて読む…という感じだ。
相変わらず、あまり詩の本は読んでいない。読んだとしても感想を書きたくなるような詩集もない…。
そんな中で、最近立て続けに読んだノンフィクション3点についてサラリと感想をまとめたい。

◇石井妙子「原節子の真実」(新潮文庫、2019年2月刊)

内容

小津との本当の関係、たったひとつの恋、空白の一年、そして引退の真相-。丹念な取材により、伝説を生きた女優・原節子の真実を鮮やかに甦らせた、本格評伝。写真も多数収録する。

図書館データ

ぼくの感想
石井さん、以前も小池百合子の学歴詐称などを追ったノンフィクション「女帝」を読んでいるが、あれもそこそこ面白かったが、この著作もなかなかのものだった。最後に触れる沢田研二についてのノンフィクションと比べると格段によい本だ。対象に対して客観的に迫っていて、伝説の女優にぐいぐい迫り、その謎が解けるように感じた。

◇伊澤理江「黒い海-船は突然、深海へ消えた」(講談社、2022年12月刊)

内容

2008年、太平洋上で碇泊中の中型漁船が突如として沈没、17人もの犠牲者を出した。“沈みようがない状況”でなぜ悲劇は起こったのか。海難史上まれに見る未解決事件の謎に挑む。『SlowNews』連載を加筆し書籍化。 

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ぼくの感想
誰もが記憶にとどめてもいない一漁船の沈没死亡事故。その原因に迫っているのだが、著者は漁船が衝突した後に沈没した、と推理。その相手について取材を重ねてひとつの結論を示している。確かに、彼女が指摘するとおりなのかもしれないが、国や海外当局が完全否定するのは当然として、他マスコミがほとんど彼女の推論を後追いすることがなかった――というのもひとつの事実である。事実に迫ろうとする筆致と意欲は買うが、似たような内容、証言が何度も出てきて、どうしても自分の論に落とし込みたい必死さが伝わる。援軍がないために、今一つ支持できない内容。

◇島崎今日子「ジュリーがいた-沢田研二、56年の光芒」(文藝春秋、2023年6月刊)

内容
ザ・タイガースの熱狂、ショーケンとの友愛、ヒットチャートから遠ざかりながらも歌い続けた25年間…。共に「沢田研二」を創り上げた69人の証言で織りなすノンフィクション。『週刊文春』人気連載に大幅加筆。

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ぼくの感想
3冊の中で一番新しい本。週刊誌連載中にチラリと読み、単行本になったら読んでみようと思っていた。そして読んでみたが――。

筆者はジュリーと同じ京都市生まれで、彼より6歳年下だが、GS(グループサウンズ)世代ど真ん中といっていいだろう。
筆者は、ご本人に取材をせず(できなかった?)、周辺取材とジュリーの過去の発言を集めてその人物像を描いているが、それが成功しているとは思えない。
書いている本人が思い入れがあり、取材対象を客観化している風には思えないのだ。
確かに、1960年代末から80年代初頭までジュリーは歌謡界をけん引するトップアイドル、トップスターだった。それはまったくその通りなのだが、過去40年はそれ以前の貯金だけで存在しているような人なのだ。
もっと突き放して、今の本人にも肉薄するような内容がないから、まったく後に残らないのだ。
天下の文春も、こんな内容の本をよく出したもんだ、と思った次第。

これに比べたら、今日から読み始めた脚本家・橋本忍について書かれた「鬼の筆」が百倍面白いと思う。読み終わったらレビューを書きたい。

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