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「その時を待つ」

彼女はすっかり萎びて
ぼくもしっかり萎びて
まだ
60代だから
80代後半の彼女よりは
それでも
ましかな

気づけば老境にあって
人間生きてりゃ
年もたてば
水気も脂っ気も失せて
皮膚はしわしわで垂れてきて
いや ぼくは違うけど
80越えて
認知症も入ってきて
自立した生活もできなきゃ
どんどん萎びてきちゃう
見た目が寂しくなる

ああ
お迎えがそこまで来てるの
本人はその自覚が薄い
でも 時々
思い出したように

早く死ななきゃ
長生きしすぎたね

我に返ったように漏らす

体はもちろん
その中 心も
萎びちゃって
張りってもんがなくなって
次の世界はすぐそこよ

立つのもやっと
自分でものを口に運べず
あとは
ただその時を待つだけの日々

それでも世の中は
萎びた人たちを生かし続ける
すぐには逝かせない

本人たちは
もういいんだ――って
思っているのにサ

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