見出し画像

「兵隊のつとめ」

兵隊さん 兵隊さん
「生きて帰ってくださいね」
いやいや
そんなことは 誰も言えませぬ 言えませぬ
80年近く前
われわれは ひとしく
「武運長久を祈ります」

兵隊さんを送り出しました

人が死ねば―
 ご愁傷さまです
 おくやみ申し上げます
そう そういうでしょう
それと同じように
「武運長久を祈ります」
兵隊さんは 武士と 侍と同じ
勝利の運命が長く続くことを
戦地に赴くこともない者たちが
そう祈り続けたのです
それは
「生きて帰って…」
と言わぬ 言えぬ 同調圧力という空気
今を生きるわれわれには想像できない時代があったのです

戦地に 戦闘の前線近くに
慰安婦という人びとがいました
大日本帝国の公娼私娼 日本人 日本人となった朝鮮人 中国その他の国々の女たちが慰安婦として「そこ」にいたのです

彼女たちは 何と兵隊さんに呼びかけたのでしょう

兵隊さんたちは さまざまな気持ちで彼女らと向き合ったのです
限られた時間空間
彼と彼女との間には 即物的な性欲 一方的な性欲の充足だけではない
感情の交流もあったはずです

兵隊さんたちは こういわれたのです

「立派に死んでください」

薄暗がりの中
彼女らが発するこの言葉が空を漂ったのです
それが最大限の
彼女らによる 贈る言葉なのです

「立派に死んでください」
戦の中で兵隊さんたちが求められる
ただひとつの仕事は
昔も今も きっとそれなのでしょう


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?