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■新聞記者の書く原稿は読みやすい

マスコミってナニ?(58)ニュースの存在を考える 「マスコミへの道」改

◇なぞの女性の正体に迫るノンフィクション

武田惇志/伊藤亜衣「ある行旅死亡人の物語」(毎日新聞出版 2022年11月)

行旅死亡人(こうりょしぼうにん)とは、病気や自殺などで亡くなり、身元が判明せず遺体の引き取り手がない死者のこと。通常遺体は火葬され、遺骨と現金その他資産などの管理は市町村が行い、相続人が名乗り出ないと国庫に納められる…。毎年結構な数、そういう死者がおり、その詳細が官報にも公告される。そうしたものに着目して取材した記事を元にした単行本が本書だ。

内容
現金3400万円を残して孤独死した身元不明の女性。あなたは一体誰ですか? 「名もなき人」の半生を追った、記者たちの執念のルポルタージュ。『47NEWS』掲載記事を大幅に加筆し再構成。

図書館データ

共同通信が運営するニュースサイト『47NEWS』で昨年2月に掲載され、ヤフーほかでも転載されて話題になった。
その年の11月に単行本となったものをその後図書館で予約。ようやく順番が回ってきて一気に読んだ。面白かった、読みやすかった。
当時の記事「現金3400万円を残して孤独死した身元不明の女性、一体誰なのか」


取材時にキャリアが5年、6年という男女2人の若手記者が丁寧に現場と関係者を回って記事にした。

◇共同通信記者の力量がわかる

当該の女性は、実際より12歳も年齢をサバ読みしていたり、なぜそれだけの現金があり、つましい生活をしていたのか。結婚歴はないものの長年男性と生活していた痕跡があるなど、ミステリアスな人物像に2人の記者が迫るのである。
結局は女性の身元を突き止め、警察当局もDNA検査によって元広島市議の男性が甥にあたることを認定している。
ただ、彼女と関係していた男性の身元が分からないままで、北朝鮮とかかわりがあったのでは…などという推測も本書内にはちりばめられている。

自社で発行する媒体を持たない共同通信。北海道から沖縄までの各地の新聞はもちろん、日経や産経、NHK、民放などもその配信ニュースがないと成り立たないほど存在意義のある会社である。
契約社からの金によって運営され、利益を追わない社団法人という性格もあり、自社の媒体がない。ニュースサイト『47NEWS』も契約社に遠慮しいしいやっているような印象。
共同と契約する新聞社の社員だった自分からすると、共同通信が出過ぎたことをしないのは当然なのだが、こうした面白いネタ、本を出しながら、あまり注目もされないのはちょっともったいないな、と思う。

日本のマスコミ=報道の世界で優れた企業を挙げると、朝日新聞、NHK、そして共同通信の3社である。組織的にも個々人の記者のレベル、記事のレベルはやはり同業の中では頭一つ上を行く。通信社は同業他社は時事通信(ルーツは共同と同じ)しかないが。
新聞記事は、5W1Hという要素と、重要なネタから先に逆三角形で原稿を書く――という基本が押さえられている。
新聞社で記者をやればそれが普通は身に着く。
その経験なしに、いくらネットや雑誌に書かれても、やはり取材が荒かったり、文章がヘタくそだったり…。
基本がしっかり備わっている共同記者の記事、読みやすかった。それでいて内容があり、面白い。改めて共同通信の底力を認識した。


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