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「アナログ日本」

区役所に行った
今さらながらの
マイナカードの申請だ

無料タダで写真も撮ってくれ
申請がそこでできる という

本来なら12月末で「特典」付きは終了
それが来年2月までに延びた―

慌てるこたぁない
そう思いながら
ちょっと早い正月休み中
無聊な日々のぼくは
気分転換も兼ね
歩いて役所に行った

「マイナンバーカード専用窓口」の貼り紙
何枚もあるそれが ぼくを迎える

貼り紙に従い 部屋に入る
時刻は朝9時半すぎ
10時開始かと思っていたら
9時からとっくに受付をしていた

部屋には
マイナポイントの付け方やら
カードの磁気が消えたやら…
70代80代の諸先輩方が続々と来られる

ぼくは
ゼロからのマイナカード申請
自宅に申請書が送られていたのも忘れ
それに記入することもなく
手ぶらで役所にやってきた

受付で写真撮影の番号札「4」をもらい
その間に 申請書を書く

臨時雇いのおばさんが
何人もせわしなく
アクリル板の向こうで動く

ぼくの番がきた
「中野」という名札を下げたおばさん

いきなり
「身分のわかるもの 免許証とかある?」

ぼくに聞く

酒焼けしたような
下町のスナックのママのような声で

タメ口で聞く

ぼくの心の内に
「?」が浮かぶ
差し出した書類 免許証を一瞥し
中野さんは
「あいよっ」
と応じ 免許証を返して寄こす

ここは下町だ
「あがんなっ」
「早くやんなよっ」―
の世界である
でも
役所で
そんなくだけた言い方をされるとは…

まあ いい
一瞬の辛抱だ がまん
これ以上の 下町対応があれば
ぼくの得意な
クレームメールを役所に送るだけだ

数分のいら立ちを抑えるうち
写真撮影の担当者に声をかけられた
別のおばさん
「こちらにかけてお待ちになってください」
打って変わって丁寧な物腰のお方

彼女
小さなコンパクトデジカメを手に
こちらへ こちらへ
と手招きする 部屋の隅っこ
撮影スペース

あ この人が撮るんだ 写真

まあ 今どきのカメラで失敗はない
顔写真なんて青色の無背景と
照明に十分な光量があれば
問題はないものである

彼女 2人ずつ待たせ
デジカメで撮影していく
そして
取って返し
そのデータを
キヤノンのプリンターで印刷
それを見せながら
「これでよろしいですか」と尋ねる

えー ぼくこんなですかぁ~
などと言うわけもない
61歳のぼくが
頭髪の薄くなったぼくが
そこには写っており
「結構です」と応じる
何の問題もない

その写真を彼女は
目見当ではさみで切り
専用の器械に入れて
カチャン
とカット
タテヨコがちょうどいいサイズの
顔写真を完成させる

ふむ
ずいぶんとアナログ
アナクロなことをする
作業を見ながら
ぼくはそう感じる

彼女はさらに
顔写真の裏にぼくの名前を書き
のり付けして申請書に貼る
そしてそれを封筒に入れて封もしてくれた

「はい これを役所を出た左にあるポストに お帰りに入れてください」

ありがとう
すばらしい仕事ぶりです

―今まで何百人も写真撮ったんでしょうね
とのぼくの軽口にも
うふっ
と返した山口さん
下町スナックママの対応とは 大違い

ひとりを落とし
ひとりを上げる
そんなメールを役所に送ろうか
いや やめておこう―
上げるのはともかく
下げるのは大人げないだろう

封筒を受け取り ぼくは腰を上げた

まだ
マイナンバー専用窓口には
デジタルとは縁の薄い
ぼくより年かさか
普段パソコンを使わないような人たち
次々やってきて
居心地の悪そうな表情を浮かべる

にしても
申請書を手書きし 窓口担当者が入力
それをプリントして内容を確認
デジカメで撮った画像を紙にプリント
顔写真を確認
写真のサイズを合わせてカット 貼付
封をして郵送―

なんという作業
なんという時代錯誤
何十年前と変わらない

本来
自宅でぼくは
パソコンでできたことを
役所にやってきた
やってもらった―
それを見て
今の日本の遅れぶりを実感した

役所にいたのは50分弱
ほとんど待たずに済んだのが
個人的には救いだ
だから
クレームメールはやめておく


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