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こよみの引き出しが開く映画|『土を喰らう十二ヵ月』

作家・水上勉の料理エッセイ「土を喰う日々 わが精進十二カ月」が原案の映画『土を喰らう十二ヵ月』を11月に鑑賞しました。
料理研究家の土井善晴さんが劇中に登場する料理の数々を手がけたということで、映画に出てくる食事シーンを収集している者としては観なければ!とわくわくしながら劇場に向かいました。

沢田研二演じる作家のツトムは長野の人里離れた山荘で1人で暮らす。山で採れた実やキノコ、畑で育てた野菜などを料理して、四季の移り変わりを実感しながら執筆する日々を過ごしている。ときどき担当編集者である、歳の離れた恋人・真知子が東京から訪ねてくるが、ツトムだったが、13年前に他界した妻の遺骨を墓に納めることができずにいた。

映画.comより一部引用

映画は冬から始まり、春、夏、秋を描きます。季節の移ろいと共に生活の様子を捉える作品というと『リトル・フォレスト』を思い出しますが、本作は2時間で1年を描き切るので「旬を逃さない」というような潔よさを感じます。過去に書いた『リトル・フォレスト』のnoteはこちら👇

いまを味わう、いまを生きる

美しい自然の中で、旬の食材を使いながら悠々自適に生きている……ように見えそうですが、劇中のツトムさんは自然に振り回されていました。
冬は腰まで雪が積もるし、夏の畑仕事は想像するだけでも辛いし、蒔いた種を食べられないように鳩と格闘はしたくない。しかもこれを毎日毎年、同じ作業を繰り返す生活なのです。
ただやはり映画を観ていて羨ましさを感じてしまうのは、自然を理解して生きることは正しいことで、それが暮らすということなんだと我々は知っているから。

精進しながら、土を喰らうこと

本作でその美しさを表現するのは、精進料理の数々です。9歳〜13歳まで禅寺に住み、精進料理を身につけたというツトムさん。
料理研究家の土井善晴さんが初めて映画料理に挑んだということでも話題ですが、精進料理がここまでフィーチャーされた映画も珍しいのではと思います。

本作のパンフレットで作家の平松洋子さんが寄せている、水上勉の原作に触れたエッセイを読むと、「精進料理は修行であり、土を喰らうことを考えながら生きねばならない」ことが見えてきます。至極当たり前のことではあるのですが、スーパーで季節を問わず、いつでも好きなだけ食材を買える時代に改めて諭された気持ちになりました。
ただそんな難しいことだけじゃなく、スクリーンに映る料理はどれも本当に美味しそうで、観ていてとても楽しい作品です。

▼▼『土を喰らう十二ヵ月』に登場するごはん▼▼

【立春】
東京からやってきた真知子を、干し柿と抹茶でおもてなし。
網焼きする小芋は、洗いすぎず皮を残すのがポイント。温めた酒とつまむのは最高な時間に思える。

【啓蟄】
雪の中から取ってきたほうれん草はよく泥を洗い、胡麻だれかけに。
羽釜で炊いたごはんが美味しそう。

【清明】
山菜を楽しむ春。芹ごはん、わらびの味噌和えとおひたし、こごみの胡麻和えでいただく。緑が美しい。

【小満】
新たけのこを炊いて、山椒の木の芽をたっぷりとかける。観ているだけで、たけのこの食感まで口と頭に広がってくる。

【小春〜処暑】
毎年、梅干しを漬ける。
子供の時は飲ませてもらえなかった梅ジュースで、夏は涼む。

妻の母親チエの通夜。振る舞う料理も京都の禅寺で覚えたもの。胡麻から育てた胡麻豆腐、ミョウガごはんはおにぎりに。畑で取ってきたキュウリや、ミョウガはそのまま味噌を添えて出す。
通夜の準備を手伝った真知子へ、栗の渋皮煮で労をねぎらう。

【寒露〜冬至】
体が弱っている時は、羽釜でじっくり炊いたお粥と梅干しを。
また巡ってきた長い冬に備え、ふろふき大根、大根の葉の炒めもの、味噌だけの味噌汁、梅干し、ごはんの冬の食卓。

(C)2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会

劇中で「こよみの引き出しが開く」という台詞が印象的でした。美味しいものを食べた時、身体が作られていく感覚。田舎暮らしは無理だとしても、季節とともに感じたいなと思います。
また本作のパンフレットに、劇中に登場する料理の説明が丁寧に記載されているので、ぜひ劇中のごはんに興味がある方はご覧ください!

パンフレットはぜひご購入を


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