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「文化」も「財源」とは不可分だという身もふたもない話。

 興業業界の損失額が4月末時点でおよそ3000億円に達しているというのは既に広く知られていることだが(私も、先日別の記事にて触れさせていただいた)、一方で現状日本国内でほぼ唯一、無観客という条件付きながら〈カレンダー通り〉に開催されているのが「競馬」だ。個人的には、二十年近くにわたって楽しませていただいているし、最近は一口出資で何頭かの競走馬に出資もしており、非常に身近な娯楽でもある。

 興業のほかにもギャンブルとしての側面も強く持っている競馬だが、市中のパチンコ店のほとんどが営業ができないか、あるいは稼働率を大幅に下げざるを得ない中、ギャンブル愛好家の選択肢が狭くなったことでの流入も相まって、5月5日にゴールデンウィークに統一JpnⅠ競走「かしわ記念」が行われた5月4日~5月8日の船橋競馬は4日間合計の売得金が94億1934万5260円にのぼり、これは船橋競馬1開催あたりの歴代最高額となった。

 コロナウイルス禍であらゆる業界の売り上げが落ちている中を逆行するような状況であるが、なぜそのような状況を生んでいるかといえば、公営ギャンブルの収益は、上述の地方競馬の場合は主催している地方自治体に納付され(主催をしていない地方自治体にも、地方公共団体金融機構の貸付金利引き下げによって還元)、行政サービスの財源となっている点が唯一の理由であると言える。地方競馬全体(日本全国で14場)の昨年1年間の売上金はおよそ4000億円ほどであり、その1割が自治体への納付となり、総額およそ400億円の地方財源となるが、これは地方財政の知識が少しでもある方ならばお分かりいただけると思うが、本当に馬鹿にならない金額だ。

 政府出資の特殊法人「日本中央競馬会(JRA)」主催の中央競馬にいたっては、その収益は国庫に直接納付されるため、さらに行政への影響力が大きく、こちらの売り上げは昨年1年でおよそ2兆8000億円にものぼり、競馬法の定めによってその1割が国庫納付金となっていることから、年間当たりおよそ3000億円の財源となっているのである。これだけでアベノマスクが5~6回配布可能な金額であるといえば、その大きさをお分かりいただけるだろうか。興業業界の損失も、4月末時点で3000億円であるが、この損失がなかったとして国に入ってくる税金などおそらく100億円を超えるかどうか、だとすると、行政がさしたる興味を示さない理由も、残念ながらよくわかるのである。

 海外に目を向けると、5月11日よりフランスでも無観客開催で競馬が再開された。一方で、競馬発祥の国であるイギリスの競馬は引き続き開催を中止している。この違いについても馬券収益の行政貢献度が密接にかかわっており、イギリス競馬は馬券売り上げこそ日本に次ぐ世界第2位ではあるものの(ちなみに、日本はイギリスにダブルスコア以上の差をつけての世界第1位である。カジノ云々以前にすでに我が国はギャンブル大国なのだ)、その売り上げのおよそ97%がブックメーカーによるもので、実は行政財源への貢献度は極めて低い。一方で、フランス競馬はブックメーカーを一切排除しており、加えてPMU(Pari Mutuel Urbain・フランス場外馬券発売公社)による場外馬券販売網の整備により、日本でいえば宝くじやtotoと同等の手軽さで馬券購入が可能で、しかも日本同様に全馬券売り上げの収益の一部が国庫に納付される制度を取っている。要するに、日本同様に行政財源への貢献度が高いというわけだ。なお、昨年のフランス競馬の馬券売り上げは邦貨換算でおよそ1兆円弱。人口当たりの売り上げ単価では日本に匹敵する。

 身もふたもない話ではあるが、興業・エンターテインメントといえども政治経済とは独立した世界ではない、ということはしっかりと学んでおきたい。もちろん、客前に出されるコンテンツが政治とは独立しているべきだという考え方を否定するつもりはないが(同時に、コンテンツが政治プロパガンダの要素を含んでいたところで私は一切否定する気はない)、このあたりをわからずにあれこれ騒ぎ立てるのは誰にとっても得じゃないですよ、というのはわかっておいた方が精神衛生上大変よろしいと思うのである。

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