『結婚祝い』

休日、知らない街で安い酒場を飲み歩くのが好きだ。その街に銭湯かサウナがあればなお最高だ。
ひとりぼっちで、ただひたすら酒とつまみを楽しむ日もあれば隣に居合わせた方と雑談に興じることもある。

その日は後者で年の頃は僕とそう変わらずに僕より清潔感のある男性とふとしたきっかけで話しはじめた。
その方も僕と同じくひとりでの飲み歩きが好きということで話が合い独身貴族同士気が合いそうだなぁと嬉しい気持ちでいたのだけれど
「僕、もうすぐ結婚するんです」
なにやら結婚相談所に登録していて、そこで知り合った女性とめでたくゴールインするらしい。
ほんの少しガッカリした気持ちはあったけれどめでたいことに変わりはない。
これはささやかながら祝ってあげなければ、とその店の勘定は僕が払う、そして
「もう一軒いこ!めでたいし!」
近くにあったエスニック立ち飲み屋で二人きりの宴会、そこに居合わせた、おじさんとおじいさんのちょうど間くらいの男性にも
「この人、結婚するんですよ!」
と幸せのお裾分け。
「そりゃ、良かったね!」
とおじ(い)さん。
これくらいからの記憶はあいまいで
目が覚めたら地下鉄に乗っていた。
まるで知らない駅。
スマホで検索するとギリギリ終電で家に帰れそう。
だけどメガネとサウナセットがない。

サウナセットなんて、タオルとゴシゴシタオルと巾着くらいのものだからどうでも良いんだけど
メガネは、やっと似合う形を見つけたお気に入り
かなり惜しい

翌日、目覚めた駅に電話して確認してもらうとサウナセットは乗っていた地下鉄の終点に届いていた。しかし、メガネはない。

もしかしたら近々結婚をするという幸せな彼に僕の眼鏡をプレゼントしたのかもしれない。
僕はそういうくだらないことをするやつだ。
だとしたら、僕は諦めがつく。自分の愚かさには慣れているから。
彼にそのメガネが似合うとは思えないけれど。

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