『はちどり』そっと手のひらを見つめて

繊細な映画だった。
はちどりのように常に羽を動かし、もがいている。そうしないと落ちてしまうから。そんな思春期特有の危うさを繊細に描いた作品。そして監督は、男尊女卑を強調することなく日常にさりげなく織り交ぜて描く天才。

兄の暴力の場面がビンタしかなくてよかった。ほっとした。

私にとっての救いは、兄がウニにビンタした時、父親が兄を叱ってくれたこと。(父親の前でという言葉が引っかかるが。)
でも、それ以前に夕食時「兄に殴られました」と言った時は「ケンカしないで!」とお母さんに言われてしまい、お父さんも叱ってくれませんでしたよね。あれ、ものすごく辛いと思います。ウニはそこまで辛そうにしていないけど。
まず、親にチクれるのが凄い。私はあんな状況じゃ言えませんでした。それから、「ケンカしないで!」なんて言葉、今では信じられません。親がそれ言っちゃいけないでしょ。どんな理由があろうと、殴っちゃダメでしょ。今で言うセカンドレイプでしょ。かわいそうに。でも、おかしいって気づかないうちは、そんなもんかなと思ってしまうんですよね。ケンカする自分らが悪いのかなって。

中盤、お母さんに呼びかけて聞こえないところはゾクッとする怖さがあった。

でも、病院に来てくれたり、心配してくれたり、ちゃんとご飯作ってくれたり、思ってたより愛されてる…という印象。

先生に「殴られたら、黙っていてはだめ。立ち向かうのよ」と言われてから、ウニが言い返したり立ち向かったりすることが多くなったと思う。年下チャンに、塾の校長に、両親に…

つまり間違いなく、先生はウニのメンターだったのだと思う。人は誰しも、その「存在」を認めてもらうことを欲してる。ちゃんとウニを見て聞いて触れてくれた初めての人が、先生なのかもしれない。

でも、殴られて立ち向かうのは本当に大変だし、危険もある。どちらかと言えば、逃げていいと言って欲しかった。でも、この先生の言葉が新しい時代の微かな光な気もする。

あと、先生の教えてくれた「指を1本1本動かす」ということ、とっても素敵でしたね。大事なことはいつも目の前にあるのに、当たり前になりすぎて時々ぜんぜん見えなくなってしまう。でも、指が動くこと自体がものすごい神秘なわけで。小さな小さなアクションですが、大きな大きな効果があるものだと思います。

14歳という年齢設定がまた絶妙。
1番揺れ動く時じゃない?
ウニが美人さんで、年下チャンが惚れるのもわかる。

幸か不幸か、まだ日本にも男尊女卑や家父長制が残ってる部分がある。おそらく韓国にも。

病院の先生が、証拠になるから診断書を書こうかと聞いてくれたところで泣いてしまった。


ただの日常と言ってしまえばそれまで。でも、全編通して辛くて、美しくて、繊細。それがこの作品の魅力かなと。

最初に映ったたくさんのドアの向こうで、たくさんの人が、今日もはちどりのようにせわしなく羽を動かしているのだろう。
落ちないように。


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