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【連載企画】竣工即負債#07〜負債としないために(その3)〜

前回までと今回

市民生活を支えたり豊かにするための「資産」であるはずの公共施設が、なぜか自治体経営上の「負債」として扱われ、旧来型行財政改革の思考回路のもとに短絡的な総量縮減を迫られています。
残念なことに多くの公共施設は「竣工即負債」となってしまう構造があり、それをこのマガジンにおいて連載形式で分析するとともに、そこから脱するための必要条件について考えてきました。

今回は最終回、現時点で考えられる論点と竣工即負債に陥りそうな(陥りかけている)ハコモノに打てる手を考えてみたいと思います。

負債としないためのポイント(続き)

補助金・交付金・起債に依存しない

単年度会計現金主義の思考回路では、予算書に計上される一般財源ベースのハコモノのイニシャルコストのみが関心事となります。
「見掛け上の総事業費」を安くするため、社会資本整備総合交付金や公共施設適正管理推進事業債などの各種補助金・交付金や各種起債制度など(行政用語でいうところの)「有利な特定財源・起債」に依存し、財政部局・上層部・議会・市民へ最もらしい説明をしていきます。
前段で述べたように、これが身の丈を超えたハコモノが簡単にできてしまう理由なのですが、残念ながらいまだにこのような(コンサルも加担する)財源を確保した職員・ハコモノ事業が評価されてしまうのです。

大切なのは前述のようにフルコスト・LCCベースの事業費を見つめ、自分たちで適正なキャップをハメていくことです。単年度会計現金主義の思考回路なら、なおさらキャッシュベースで勝負していくこともリアルな選択肢になります。

このような意味では、高浜市庁舎のように債務負担行為を設定してリース方式で「ハコモノ及び公共サービスを役務として一括調達」することも有効な手段といえます。

補助金・交付金は手をつけたら抜け出せない、自分の立ち位置がわからなくなる、取り返しがつかないという性質上、「麻薬」と揶揄されることがあります。補助金・交付金を活用することで(包括承認制や地域再生計画などの手段はありますが、)補助金適正化法が貸付など財産処分上の支障にもなりかねません。
ただし、プロジェクトを進めていくために「わかっていて」部分的に使うのであれば、特に小規模な自治体では不可避の資金調達方法となる場合もあるでしょう。

実際に弊社が関与しているプロジェクトでも土地の造成に過疎債を充当して、それ以外の建築物・維持管理運営はイニシャルコストの回収を前提とした独立採算で検討している案件もあります。
忘れてならないのは補助金・交付金や起債に「依存しない」ことです。

アラートが効くように

公共施設は運営段階になると施設所管課に業務が移管されます。指定管理者制度、PFI法に基づくPFIやDBOなどではモニタリングが行われますが、残念ながらほとんどが「形式的」なものにとどまり、日常的な経営改善や抜本的な経営改革に結びつくことはありません。

モニタリングなる名の下に(悪いことをしていないか)「運営事業者を監視」しようとする時点で間違っています。民間事業者は公共サービスを提供する、エリアの価値を高めてくためのパートナーなので、行政は様々なデータを共有しながら日常的・経常的に見直しやサービスの向上を図っていかなければなりません。
そのためにも企画段階から特に注視すべき指標≒「リアルなKPI」を設定し、常にこの指標を意識しながら経営していくことが求められます。例えばESCO事業では、すべての室内機・室外機にリアルタイムのログが蓄積され、使用状況によってアラートが働くことから光熱水費の削減保証額を遵守していくことができるのです。

他のプロジェクトでも同様にアラートが効く仕組みをビルトインすることが、相互の共通認識・モチベーションを保っていくためにも有効です。

段階的にやっていく

行政のハコモノ事業は「いきなりゴール」を設定し(その事業に対する)全ての経営資源を投下するから、竣工時点で「燃え尽きて」しまうのです。
追加投資や変化に対する余力が残っていないだけでなく、図体が大きすぎるから小回りも効かず、議会や市民へも「賑わい」を約束してしまっているので「こんなはずではなかった」の事実を認めることも困難です。八方塞がりとなって言い訳を探したり、悪い場合には臭いものとしてフタをしてしまいます。

「いきなりゴール」ではなく、段階的に整備していくことが大切です。
何の実績もないのに銀座のど真ん中に500坪のレストランを構えることはできません。地方で小さく始め、少しずつ経営ノウハウや味を磨きながら、固定客や商圏を拡大しながら事業規模を大きくしていかなければ、客が来てくれないどころか金融機関も融資してくれません。
行政も同じようにいきなりゴールを目指すのではなく、サウンディングやトライアル・サウンディングをしながら、あるいはコンテンツを精査しながら何が市場・市民に求められているのか、どのぐらいのニーズがあるのか探りながら、またファンを拡大しながら徐々にやっていくこともできるでしょう。

盛岡市_動物公園再生事業計画(2021年12月修正版)

盛岡市動物公園再生事業計画ではまさに「段階的にやっていく」ことが記されています。第2、第3フェーズに移行するためには「第1フェーズの価値」が必要となるので、当然に行政も民間事業者も竣工後即負債とするわけにはいかず、強烈な緊張感がそこには存在します。

柔軟に変化する

上記の「段階的にやっていく」こととも関連しますが、従来のハコモノは竣工時点から同じようなサービスを延々と提供し続けます。時代の変化に対応せず貸し舘中心の「待ちの姿勢」だからジリ貧になり、決まった人たちしか使わなくなります。

時代とともに提供するサービスを柔軟にブラッシュアップするとともに、指定管理者制度を導入している施設では自主事業を積極的に展開していくこと、「攻める姿勢」が必要です。この時代に応じたサービスを提供していくために必要があれば段階的に投資をしていくこと、物理的な要素として内装・設備等の改修や増築などを行っていけば良いのです。
「いきなりゴール」となってしまっては、このような選択肢を取ることはできません。

時代やニーズの変化に合わせて随時サービスや物理的な要素を変化させていくことができれば、負債となるリスクを低減できます。逆に、硬直化したまま時代やニーズと乖離してしまうと、最後に残る選択肢は「魔改造」か「爆破」しかなくなってしまうのです。

損益分岐点・重点投資ラインの設定

このように段階的にやっていくためには、その判断基準が必要となります。その判断基準が損益分岐点と重点投資ラインです。

当該サービスが当初想定していたベースラインに届かなければ、当該サービスを抜本的に見直す・廃止します。例えば自主事業を多く展開しうる生涯学習センターでは行政の支出が20,000千円/年以内であれば無条件にサービス・施設ともに継続するが、これを1円でも満たさなければ見直しの対象とする。
経営の問題なので、このようなシビア・客観的・わかりやすい指標を設定し、事前に公表することで関係者の理解を得ていくのです。

流山市_流山ぐりーんバス等地域公共交通等導入の手引き

流山市のコミュニティバス(ぐりーんバス)ではこの方式を採用することで様々な路線の改廃を行なっていますが、知る限りでは「ルールが明確」で「事前に公表」されていることから、10年以上にわたり路線の改廃を理由として炎上をしたことは一度もありません。

この損益分岐点に加え、同様に2期、3期以降の投資判断をするための「重点投資ライン」をポジティブな指標として定めておきます。
2期以降の投資額も含めて、第6回で示したように債務負担行為を設定しておくとともに、契約書でもその旨を記しておけば良いのです。

このように行政・民間事業者ともに緊張感を保つ仕組み・アラートが発生する仕掛けをビルトインすることでも負債になるリスクは低減できます。

設置管理条例・契約・協定を定期的に見直す

竣工即負債から脱却するためには「柔軟性」や「有機的に変化」していくことがポイントとなります。
当該施設で提供されるサービスの内容・プロバイダ・利用料等も変更していくことが前提となるので、例えば「3年ごとまたはサービス内容に変更が生じたとき」には「設置目的も含めて設置及び管理に関する条例を見直す」ことを行政としてルール化することです。
特に設置及び管理に関する条例の「設置目的」は、本来「その場で何をしたいのか≒ビジョン」が記されるはずなので、みんな・賑わいなどのマジックワードに頼ることなく、具体的な表現で記しましょう。あわせて前段の損益分岐点や重点投資ラインなどの考え方、可能であれば具体的な計算式や数値も条例で明記しておけば、政治に左右されることなく「まち」として判断することが可能になります。

また、行政は(ものによっては議決対象にもなるため)契約変更を極端に嫌う傾向がありますが、様々な要素の変化を前提としている以上、契約変更や指定管理者の場合は全体協定・年度協定も見直していく必要があります。このあたりの見直し条項も当初契約の時点で明文化して共通認識としておくことが大切です。

魂を紡ぐ

竣工とあわせてプロジェクトの検討組織・体制が解体され、施設所管課に「維持管理・運営業務」だけが引き継がれることも竣工即負債となる要因の一つです(「なんとなく」の場合はこの部分も「なんとなく」でしかありませんが、)魂が引き継がれません。何の思い入れもないから「なんとなく」与えられた事務分掌に基づき「なんとなく」管理するのです。

Oの入ったPFI法に基づくPFIやDBOでは、オペレーションの事業者が企画段階から入っているので中和される要素はあるかもしれませんが、直営や仕様発注に近い指定管理者の場合、更に前述の損益分岐点や重点投資ラインが定められることもなく、「運営」の思考回路の場合は更に危険です。

施設の竣工と同時にプロジェクトチームを解散するのではなく、そこからがスタートです。企画段階から関わっているメンバーを中心として、一部は入れ替えがあっても良いでしょうが、企画〜建設までよりも遥かに長いオペレーションの期間を必要十分な組織・体制でマネジメントしていくことが重要です。専属組織が難しければプロジェクトチームでも良いでしょう。
違う表現をすれば、企画段階からこの部分まで見越した組織・体制・人員を準備することが必要なので、「身の丈」とはイニシャルコストだけでも総事業費だけでもなく、そのまちの人・モノ・カネ・情報の経営資源全般で支えられる範囲を指すのです。

紫波町のオガール・プロジェクトは企画段階から担当課とそのメンバーがほぼ固定されており、職員が自ら芝刈り機に乗ったりすることも含め「場」を自らも楽しみつつ、マネジメントしています。

負債だと思ったら(負債になりかけたら)

まちは現在進行形

今回の連載企画は「企画段階から考えてほしい」ことを主たる意図としていますが、既存の公共施設についても応用できると考えています。

なぜなら、まちは常に現在進行形なので「その瞬間」が一番新しいわけですし、「そこに存在している」ので言い訳さえしなければ、なんらかの「手を打つこと」が可能です。
今回示した段階的な投資を設定すること、損益分岐点・重点投資ラインを設定すること、設置管理条例等を改正すること、魂を紡ぐことなどもやろうと思えば法的な規制も何もありません。
「覚悟・決断・行動」でなんとかなる可能性があるはずです。

手を打つ(トライアル・サウンディング等)

手を打っていくための手段の一つとしてやりやすいものがトライアル・サウンディングでしょう。

「公共R不動産のプロジェクトスタディ」に掲載され、常総市のあすなろの里を皮切りに全国各地で広まり、現在では一般的なものになっています。
「無料貸出のイベント」ではなく、あくまで「将来的な本格的利活用のための市場性を確認するための暫定利用」であることを理解して、地域コンテンツ・プレーヤーと連携して竣工即負債となっている(なりかけている)公共施設で実施したら、その場の可能性や次に打つ手が見えてくるかもしません。

現在お手伝いさせていただいている阿南市では、庁舎・科学センター・中林保育所をフィールドとして数十にも及ぶ民間事業者の方々と可能性を探っています。

津山市では、指定管理委託料だけで約110百万円/年もキャッシュアウトしていたグラスハウス(温水プール)を(事業手法は問題ではないのですが)コンセッション方式を用いることでGlobe Sports Domeとして地域プレーヤーとともに再生≒魔改造しています。

試行錯誤し続けること

竣工即負債、今回まで全7回にわたって様々な論点で考えてきましたが、経営感覚やリアルな未来を持たないまま「なんとなく」作ってしまい、「愛されない施設」となって関係者が「他人事」となってしまい、見捨てられることで負のスパイラルに陥る構図が見えてきました。
同時にPPP/PFI(だけではないですが)プロジェクトはオーダーメイド型なので「こうすれば成功する」という方程式はないでしょうが、「これをやってしまったらコケる」ネガティブリストも明らかになってきました。

まちや市民に求められているのは、華美で巨大なハコモノではありません。「いきなりゴール」になってしまうから熱が冷めてしまうのです。
自分たちのまち・そのプロジェクトにふさわしい規模で、自分たちの手の届く範囲で、地域コンテンツ・プレーヤーとリンクしながらスタートを切り、時代やニーズの変化と合わせて試行錯誤しながら柔軟に変わっていく。言われてみれば当たり前のことです。

公共施設は市民生活を支えたり豊かにするためにあるはずで、決して「負債」ではなく、ましてや「竣工即負債」であってはなりません。
市民生活に役立つモノであり続ければ、そして提供するコンテンツが適正で充実していれば点としてはもちろん、エリアの価値を向上させていくはずです。
「リセールバリュー」の意味、改めて考える必要があるでしょう。

まちは常に現在進行形です。手を動かし続ければどこかに可能性がありますし、諦めた瞬間が負債として確定する瞬間です。その諦める瞬間・熱が冷める瞬間が竣工時では悲しすぎます。

まちみらいで現在携わっているプロジェクトもいくつか大型案件がありますが、この連載企画での論点を踏まえながら、リアルなプロジェクトにしていきたいと思いますし、今後も多くのまちで柔軟で可変性のある有機的なプロジェクトを構築していきたいと考えています。

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