見出し画像

巻き込まれないように?

プロとして失格

セミナーでのアンケート

先日出講したあるセミナーでのアンケート結果の抜粋です。

・事業に向かう姿勢、熱意を感じた。行政職員として見習うべきことばかりであった。
・PPP/PFIの事例や手法について知ることもさることながら、いち行政職員がどのように「一歩」を踏み出したか、そして周囲に波及させたか、職員目線での話に関心があります。
・一部の職員だけでなく庁内すべての職員(特に若手職員)にPPPの良さ、手法を理解してもらえるようにこのような講演会に参加すべきと感じた。
・しっかりと意図を持って仕組みをデザインすること、実践に繋げることの需要性を改めて感じました。我が市でも打てる手を打っていこうと思います。

あるセミナーでのアンケート結果(抜粋)

ほとんどの出席者の方には「何かが刺さった」と感じられる非常に嬉しいものでした。(ただ、こういうところで「学ぶ」のは大切ですが、学んでいるだけでは「通信教育の黒帯」「意識だけ高い系」でしかなく、まちは何も変わりません。)

そんななかで非常に残念だったのは、自分にゆかりのある自治体職員の自由記入欄で書かれていた言葉です。

勉強になりました。実践したいですが、上からは「巻き込まれないようにしないとね」と何度も言われます。本日のセミナーと真逆の状況です。

あるセミナーでのアンケート結果(抜粋)

正直、空いた口が塞がりません。この自治体は数年前まで公共施設マネジメント、PPP/PFIの先進自治体と言われていたまちです。現在もこの分野に限らず15〜20年前に掲げた政策が実を結び、マスメディアなどで相当にチヤホヤされている「表面上は先進自治体」です。

上司の「巻き込まれないようにね」はプロとして失格、問題外です。あなたの怠慢・スキル不足で世の中のストリームから背を向けること、まちを衰退させることは許されません。あなたを養うために行政があるわけではありませんし、市民の方も必死になって働き納税しているわけではありません。

同時に「実践したいですが」と嘆いている担当も、嘆いているだけではまちは何も変わりません。あなたは本気になってそのアホな上司に向き合い、声を荒げてでも「自分たちがやるべきこと」を主張したことがありますか。あらゆる手段を駆使してやりたいことの決裁を得ようとしましたか。
アホな上司のせいにして結局自分も諦めていないでしょうか。

忙しくてできない

実際に相談を受ける自治体の職員からは「言ってることはわかるし、やってみたいんだけどマンパワーが不足して。。。」「今、ルーティンワーク(や他の事業)で忙しくて新しいことに手が回らない」といったお悩みをいただくことも多々あります。

確かに自分が公務員をはじめた20数年前は、もっとおおらかでしたしスマホもない時代、地方分権一括法が施行された時期でしたが、まだまだ「国に言われたこと・決められたことをやっておけばいいや」といった感じの空気感が漂っていました。
その時代とは比較にならないほど、現在は難しいだけでなく同時に業務量・質も求められています。少子高齢化・ニーズの多様化・中心市街地の衰退といった一般論に加え、コロナ・物価高騰・ウクライナ問題など、一自治体ではとても太刀打ちできないけれども、自分たちで創意工夫していくしかない課題も次々に発生しています。
追い打ちをかけるように、過剰なコンプライアンスや17時に帰ることが目的化された短絡的な働き方改革、紙決裁や予算書すらいまだに無数に印刷しているなかでのDXなど、実態を伴わないにも関わらず「何かしている」ように取り繕うことも求められています。

「忙しくてできない」と言っている人たち・まちは、いつになったらできるゆとり・時間が生まれるのでしょうか。ルーティンワークに忙殺され続ける生活を永遠に続けるのでしょうか。

わからない

「ESCO、包括施設管理業務、随意契約保証型の民間提案制度。。。興味あるけど、やったことがないからどうやれば良いのかわからない」といった言葉をいただくことも多いです。
確かに「やったこと」はないかもしれないですし、そのまちの内部にノウハウも蓄積どころか存在していないでしょう。当然、過去の起案文書を探っても上司に聞いても意味がありませんし、糸口も掴めないかもしれません。

「やったことがないから」は、できない理由にはなりません。やったことがないことを理由にしていたら、何も変えることはできませんし、手をこまねいている間に物理的・時間的・財政的な選択肢が狭まっていき、実施するための与条件がより困難なものになっていってしまいます。

短絡的に答えを求める

他のまちの事例はいいから、うちのまちでどうやったらできるのか(何をすればいいのか)教えてほしい

ある政令市での職員研修アンケートの結果

これも唖然とするような意見ですね。
はじめて訪れたまち(や数回しかいったことないまち)で、そのまちのごく一部しか見ていないのに、そのまちの文化・風土・職員のモチベーションやスキル・地域コンテンツ・民間プレーヤーの存在やビジネスも全くわからないのに「どうすればいいか」はわかりません。(アホコンサルなどは、まずは。。。といった一般論をドヤ顔で話すかもしれませんが、無責任だしノーリアリティでしかありません。)

自分がセミナー・職員研修で話すことは「経験してきたこと、直接見たり聞いたりしたこと、様々な事象から自分なりの解釈」でしかありません。しかも時間も限られているので全てではなく、断片的な情報にしかなりえません。
「答えを知る場」ではなく、「考えるきっかけ」がセミナー・職員研修です。

「どうやればいいか教えてほしい」と平然と言ってのけるあなたの存在価値はどこにありますか。あなたのプロとしての役割はなんでしょうか。

自分たちでやるしかない

忙しいからこそ

ルーティンワークに忙殺されたり、無駄な議会答弁の想定問答集づくりなど「その場を取り繕う上司のための使わない資料」や、何も使うことのない行政評価シートなどの「作業のための作業」で限られた時間を浪費していないでしょうか。

「忙しいからこそ」これまでのやり方を変えたり、自分たちが結果的に楽になるためのプロジェクトを構築していくのです。公共施設やインフラの包括施設管理業務はまさにその典型例です。
庁舎管理だけでも電気工作物、消防用設備、エレベーター、受水槽、空調、清掃、12条点検。。。など多くの保守点検業務がありますし、多くの施設数がある小中学校では、毎日のように各校から寄せられる修繕依頼と不足する修繕費に頭を悩ませていないでしょうか。

包括施設管理業務を事業化するまでには庁内理解、予算の一本化、議会対応、地元事業者対策、要求水準書作成など数多くの「小さな作業・調整」が求められます。マネジメントフィー・フルコストなど単年度会計現金主義の思考回路・行動原理とは異なる概念も、(少なくとも必要十分な人たちの間でI共有していかなければいけません。
しかし、これらの準備行為に投下する時間と労力に対して、発注・伝票・現場との調整などに要していた時間のほぼ全てがなくなるという事業化してからのリターンは圧倒的に大きいわけです。数ヶ月、何人かの職員が少しずつだけ包括に向けた検討をする時間を捻出することが、結果的に何年にもわたって全庁的な施設管理に要する時間を大きく削減することにつながります。

いろんな人たちの知恵を集める

行政という非合理的な組織の中で、ひとりの力で単独突破しようとすると肉体的にも精神的にも辛い場面が多くなる、効率的でないだけでなく、現実的にはプロジェクトの実現まで辿り着くことは非常に困難になってしまいます。

藤沢市_生活・文化拠点整備事業検討の様子

まちみらいで支援させていただく場合には、プロジェクトベースで必要十分なメンバーに集まってもらい、タスクフォースとして短期間で集中的に「全集中」の議論でまとめていきます。
ここで集まったメンバーはプロジェクトごとに作成する検討フォーマットに沿ってひとつずつパーツを整理し、全てのシートの検討が終わると全体像が自然と完成している形となります。「後戻りない」「論点が明確」なディスカッションをしていくことが、限られた時間で複雑に絡みあう様々な与条件ややりたいことを整理していくうえで大切です。

確かにこの期間は、職員の方々に1日のうちでかなり長い時間(上記の藤沢市では約4ヶ月で15回、基本的に9:00-17:00)を拘束させていただき、地獄の缶詰作業で禅問答のようなことも含めてやっていくこととなります。更に毎回の検討状況は各課に持ち帰り共有してもらうことも行いますので、体力・気力ともに大きな負担がかかります。

一見、非常に大変な方式に見えますが「短期間」で「集中的」にやってしまうことが大きなポイントです。行政では「長い時間かけて検討すること」が評価されることもありますが、その時間を全てそのプロジェクトにかけているのではなく「片手間」になっているに過ぎません。更に時間をかけていると、その間に市場や社会経済情勢が変わってしまったり、メンバーが異動で変わってもう一度振り出しに戻ったり、責任感が希薄になったりと良いことはありません。

また、主たる担当課(+α)だけで検討してしまうと、どうしてもバックボーンを知り過ぎていたり、関係者への忖度や自分たちの業務負荷などの余計なバイアスがかかってしまいます。そのプロジェクトには直接関係しないピュアな視点を取り入れ、多角的な視野で検討していくうえでもメンバーの枠を広げることが大切です。
同時にこうしたプロセスに必要十分なメンバーを巻き込んでしまうことで「聞いていない・俺はそうは思わない」といった非合理的・非生産的な反発を予防することにもつながります。

内部だけではありません。
サウンディングも「しっかり使えば」視野を広げたり、市場性を確認したりするうえではもちろん、実際にプロジェクトを一緒にやっていくパートナーの発掘・選定や信頼関係の構築にも役に立ちます。

ある自治体では、「この土地には(駅前の一等地にも関わらず)市場性がないから公共施設を集約」といった案で市長をはじめ幹部職の考えは凝り固まっていました。しかし、担当が「きちんとした」民間事業者へ営業しながら真摯に対話を繰り返したことで「公共施設は他のところに集約して、当該地は民間事業者に使ってもらうのも良いかもしれない」と、大きく方向性が変わっていきました。

「いろんな人たちの知恵」とは、自分たちでビジョンを掲げたうえでこのように庁内や庁外で共感を得ていくことです。他事例の劣化コピーしか持ってこないコンサル、机上の空論・理想論しかない学識経験者、謎の理論を振りかざす評論家は不要です。

テクニカルなことはなんとでもなる

行政の様々なプロジェクトでコケることは多々ありますが、少なくとも自分の公務員時代から多くの自治体とともにプロジェクトを構築してきた経験、テクニカルな理由でコケたことは一度もありません。
コケた理由の全ては「誰かが・どこかで」「言い訳したり・知らん顔したり・諦めたり・嘘をつく」からです。行政の職員は「やれ」と言われたことはグレードや良し悪しは別として必ず期限までにやることができます。なぜなら、強烈に高い事務処理能力を持っているからです。

法律がどんなに複雑でもそれを読み取ることができますし、条例・規則をつくったり都市計画上の制限を変えたりすることもできます。

「やったことがない」ことは、テクニカルな理由ではないのでやらない理由にはなりません。きちんとした体制・マインドがあれば乗り越えることができます。わからないことは聞けば良いのです。
実際に自分も公務員時代にESCOをやった際には、空調のシステムでEHPとGHPの違いすらわかりませんでしたが、ESCO事業者に聞いてしまえば一発で解決です。包括施設管理業務でも「浄化槽のブロワーのファンベルトが。。。」とか言われてもわかりません。これも、それが何か聞けばわかりますし、必要なことはネットで調べれば見えてきます。

自分たちのまちなんだから

結局、自分たちのまちのことですし、結果責任を取るのも自分たちでしかないわけです。
だからこそ、「巻き込まれないように」ではなく、きちんとしたストリームの中に自ら入り込んでいきますし、周囲も巻き込んでいかなくてはいけないのです。

公共施設の老朽化・陳腐化、少子・高齢化、財政状況の悪化、中心市街地の衰退、空き家・空き店舗。。。様々で複雑な問題が目の前には無数にありますが、共通する根本的な問題は「まちの衰退」です。しかも、その衰退を引き起こしている大きな要因はそれぞれのまちの「経営感覚の欠如」です。

自分たちのまちのことは、自分たちで考えて手を動かし、とにかく試行錯誤していく。自分たちだけではマンパワー・ノウハウ・資金等が不足するなら、外部も含めてプロとして連携していく。
やはり自分たちの「覚悟・決断・行動」です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?