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【滝口優さんインタビューVol.2】男性の子育てと地域活動の「壁」を超えるには? 女性が主役になりがちなフィールドで父ができること

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流山市総合運動公園砂場付近での「machimin4」


第1回目は大手メーカーからコンサルタント会社を経験して、乳幼児教育の新しい潮流に興味を持ち、市内の保育園で専任職員のコミュニティコーディネーターとして働く滝口優さん。

「自分にはビジネスは向いていない」と感じていた日々から一念発起して飛び込んだ保育園の仕事は、人対人の世界。最近は、machiminに参画し公園事業も実行しています。現在の仕事を始めて4年目を迎える滝口さんに、 “普通の人生”から“脱線”した日々をどう過ごしているのか、聞いてみました。

滝口さんプロフィール:農機メーカー、IT企業を経て、保育関連事業を運営するナチュラルスマイルジャパンに勤務。その後、同社とアライアンス(提携)を結んだTX流山セントラルパーク駅近辺の「Kanade流山セントラルパーク保育園」に入職。牛久市在住の二児の父。今年に入ってからは、公園に椅子を置くだけではじまる「machimin4」を軸に、流山市との公園活性化のあり方の模索を目的として「公園をまちのお庭に」協定を締結、運営も行う。

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(左が北島さん、右が滝口さん)

◆生き方自体を変えたからこそ、見えてきたこと

(進行)北島:
滝口さん、本日はよろしくお願いします。地域で活動したいけどまだ動き出せていない男性が、「そんな働き方もありかも!」と思えるような、暮らし方・生き方を伝えられる話ができたらと思っています。そういう私も仕事人間なので…

滝口さん:
自分自身は親がそうだったこともありますが、“一般的なレール”の上で受験して、大学に行き、社会人になり…そういった流れから脱線したことがありませんでした。農機メーカーのクボタから転職して東京のIT関係のコンサルタント会社で働いていた時に、「とにかくクライアントの前にパリッと立つのが向いていない」「オフィスで働く生き方自体を変えた方がいい」と思ったんですよね。

北島:
そうはいっても重い腰をあげないとなかなか踏み出せないのでは?簡単にできることではないですよね。

滝口さん:
まず、保育園の枠を超えた、まちぐるみの保育を仕掛ける「ナチュラルスマイルジャパン」に転職しました。現在働いているKanade流山セントラルパーク保育園とナチュラルスマイルジャパンが、子どもの環境やコミュニティづくりについて、共に学び、実践を深めていける学びあいのネットワークを実現するアライアンスを結ぶタイミングで、こちらの職場に入職しました。

保育園に対しては、保育士と子どもが楽しくダンスをするようなイメージしかなくて、よく知りませんでした。初めてナチュラルスマイルジャパンが運営する「まちの保育園」を見学した時、その空間や考え方に驚愕しました。

居合わせた子どもたちについていくと、保育園内の「アトリエ」という空間に案内してくれました。自分は何気なく入ったのですが、保育士の方から子どもたちが興味のあることに集中して取り組んでいるので配慮してほしい旨を説明されました。子どもたちを真剣に尊重して保育する保育士や環境に感動したのが、保育業界で働き始めるきっかけです。そこからKanade流山セントラルパーク保育園の職員として、立ち上げを経験します。

北島:
今年で4年目を迎えたんですね。最初とは仕事の内容や向き合い方も、変わってきましたか?

滝口さん:
やっと見えてきたこともあります。対子どもとの関わりについては、瞬間瞬間にそれぞれが対応する必要があり、マニュアル対応は基本的にはありません。それでも理念を浸透させるために、自分自身も含めてもがきました。

北島:
実は私も義理の母と妹が保育士で、帰省すると保育のあり方を議論しているのを見ます。

滝口さん:
子ども主体の保育は保育指針の改定もありましたが、小学校以降の全体としての教育の流れは、「先生が教える」から「子どもたちが主体的に学ぶ」という流れに変わってきています。具体的に何をするか正解はなく、「どう考えたか」等のプロセスを、大人も子どもに対しても大事にしています。

保育園にいるから、子どもたちと関わるからこそ、様々なことに興味を持ちました。例えば、秋の新米の時期に稲穂が頭(こうべ)を垂れている様や、季節ごとの花が咲いていることを知りました。そうしたときに、子どもたちと一緒に五感をフルに使って本物を実体験できると「深い学び直し」になりますよね。そういったことを、四季折々の自然の変化やそれに伴う生活の中で感じられるか、面白いと思えるかで人生の楽しみ方は何倍にも変わるでしょう。

便利な世の中にあっても「生きることを楽しむ」方向にシフトしたいですね。そのヒントが、子どもと向き合う中に隠されているような気がします。

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上は『最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方』(著:工藤勇一・青砥瑞人、SB新書)保育園には本を置いている。意外にも男性で借りていく人が多いという育児書。ビジネス書と書いてあることが似ているそう。「すぐ身につく認知能力よりも、時間がかかる非認知能力は一生役に立ちます。上の本の著者工藤勇一先生や汐見稔幸先生さんの育児書を読むことで子どもに対する考え方が変わったという人も少なくないのではないでしょうか」と滝口さん。


◆保育園から公園に

保育園での勤務も4年目を迎えるいま、滝口さんは流山市内の総合運動公園「machimin4(市との協定による実証実験)」を運営するなど、保育園の外に出た活動にも積極的に取り組んでいます。

北島:
最近は保育園の活動と並行して、machiminと公園で積極的に活動していますよね。

滝口さん:
ようやく時間に余裕を持てそうな見通しがたってきたので、あえて「週7日勤務でも、土日は子どもと一緒に仕事(遊び、暮らす)する」とか、新たな働き方にチャレンジできるんじゃないかと。

流山市内にはコンビニより保育園が多く、ターミナル駅に各保育園への送迎サービスもあり、それが市としてPRポイントにもなっています。待機児童対策、きれいな街並み、都心へのアクセス等、いいこともある一方で、こんなにたくさんの子どもがいる中で、開放されておもいっきり遊べる場所は制限されていないか、子どもたちの目線でまちを見たときにまだ課題もあるのではないかと思っています。

北島:
確かに、通勤に便利なTX沿いの物件に対して大人の生活を中心に考えた施策が多く感じました。魅力を感じましたが色々と考え、流鉄沿線に引っ越したんです。

滝口さん:
人口が増えていくことは、もちろん非常に大切ではあるので、そこに否定の気持ちはないのですが。

北島:
流山市内にはマンモス化している小中学校もいくつもありますね。

滝口さん:
豊かさや、”Well-Being”の点では、こんなことも考えます。例えば「回らない寿司屋」に日常的に行けることを成功とする考え方もあるけれど、直接顔の見える農家さんから美味しいお野菜を買える幸せがある。そのお野菜を工夫してさらに美味しく食べる幸せも、その気持ちを伝える幸せもあります。お金のあるなし関係なく、人との繋がりにヒントがあるんじゃないか。

流山市内には豊かな資源(ヒト、モノ、コト)がたくさん残っています。保育園の子ども達と田んぼ(machimin3)へ遊びに行くと、自然の中で開放されたとても豊かな姿が出てきました。その体験を日常にどう落とし込むか。文句や愚痴を言うんじゃなくて、自分もやってみようと思っています。

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2021年12月18日にmachiminも出店した、流山おおたかの森駅前のマルシェの様子。子どもや学生らと商品を作り、販売しながらまちを案内する。利益が家賃に変わると知っているため気合が入る。


北島:
初めてお会いした時も、”Well-Being”がキーワードでしたね。仕事と子育てもするなかでゆとりを持てないパンパンな状態の人が多いのかもしれないですけど(笑)

滝口さん:
流山ではビジネスの業界の最前線で働いている人もきっと多く、日々の仕事などで得た知識や経験は豊富で、地域活動を行う上でのポテンシャルは高いと思います。育休中、産休中、土日などに地域活動をしてみると、一人一人の暮らしに返ってくるんじゃないでしょうか。地域活動はつくる側にまわればまわるほど面白いし、その余白は実はたくさんあると思います

視点を変えると、私は流山市民ではなく牛久市民なので、流山で仕事をしていて、牛久では市民活動も地域活動もしていません。地域活動をしている方は女性が多いと聞きます。男性の自分が流山で地域活動をしているのは、仕事と繋がりがあるからかもしれません。私にとって保育園やmachiminは、仕事と地域活動の両方の要素があります。

私は家計を担っている責任感で、 “物理的にお金を稼がなければければいけない”という意識が強いと思います。逆に言うと、自分の得意だけでなく、自分の仕事を活かして地域に入れる仕組みがあれば、参加しやすいかもしれません。他にも、子どもと一緒に遊ぶ場所づくり等、日常の一部が地域活動に繋がることから始めてみるのもいいかもしれません。

◆インタビュー中、たまたま手塚さんが通りかかりました

手塚さん:
滝口さんは、以前から公園事業に興味をお持ちでしたよね。3年前に市が再開発にあたり公園のあり方についてサウンディング調査したタイミングで、2年前に保育園として近隣にある土地を管理しみんなで公園として使えるようにするタイミングで、ご一緒しませんかと言ってくださいました。

その時はうまくはいかなかったけれど、1年前には公園に関する流山市との協定の締結をmachiminとしてやることを提案してくださり、運営をされている…。いい意味で滝口さんは「しつこい人」だと思います。

滝口さん:
保育園の延長線上に、machiminが掲げている「まちを学校と捉える」という視点を導入した時、僕が思う学校は福祉の世界(保育園)だけでは厳しいと思いました。保育園が園の外で事故を起こすと保育園の責任になります。どうしても危ないからできないことも出てくる。だからmachimin3では、福祉的な空間だけではどうしてもできない体験も学びにしたいですね。

例えば、machiminでは子どもたちが商品開発を行ったりしています。まず、すごいと思うのは「子どもがつくったものだから」という考えは一切ない。その内容でどれだけ市場評価されるか本気で向き合ってやっている。

その本気の過程で原価計算等も経験します。そこで初めて、学校の算数は大切なんだと子どもも気づけるのではないでしょうか。遊びや仕事の中では、学校で習うこともたくさん活きています。machiminのいいところは一人の人間として子どもを見ていて、保育園の理念とも共通します。

次に「なぜ公園か?」と聞かれれば、「私的と公的」、「老若男女」、あらゆる人やモノが混ざり合う場所だからです。そこにコミュニティの深さがあり、他者と出会う場所として様々な可能性を持っていて、遊ぶ場所、学ぶ場所として最高です。

北島:
machimin4を、滝口さんはどんな観点で見ているのでしょうか?

滝口さん:
最初は、公園を活性化しようと思っていました。でも、単に公園で「何かをやってほしい」と思って来てもらっても意味がありません。公園自体を活性化するのは手段であり、市民の方の主体的な自己実現の場所なのかもしれません。

公共という視点でも、その自己実現が誰かの幸せにもなっていて、それが自分の幸せにも繋がり循環するような場所になればと考えています。それが一周して、僕自身の暮らし方、生き方のアップデートになっていくと、いいなぁって(笑)

◆編集後記

第1回の滝口さんには、「地域活動」の先輩だと思って突撃したのですが、自分のやっていることは「『地域活動』や『市民活動』ではないのかも?」というまさかの発言が印象的でした。

それまで働いていた職場を辞めて新しい仕事を始めることも、その足跡を人に語るのにも勇気が必要だと思います。ある面では重さがあり、ある面では軽やかなお話でした。そのお話を受け止めきれていたのか、面白い話を聞いたことの責任も出てきたなと思いました。

滝口さんの公園事業は、“思ったら行動する”それまでのフットワークの軽さと地続きなんだと思います。「普通」というものがなくなっていく社会で、何をつくり出すことが面白くて楽しいもので、人の役に立つのか。自分の答えを探るヒントとしていただければ幸いです。
(構成、文責:丹野)

丹野加奈子:大学で美術史を学び、主に楽譜などを編集する音楽関係の出版物の制作会社で営業や編集、アートディレクションに携わる。27歳頃、SNSに投稿した読書感想文約200本分を編集プロダクションに持ち込んだところ、広告記事執筆の取材に誘われてライターに。定期購読誌やwebメディアでの記事執筆、書籍の編集・構成(ブックライティング)を行なっている。得意分野はアート、デザイン、漫画など。趣味は、地域の銘菓の写真を撮ることと、デジタルイラスト作画。

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machimin4の様子。時々よく遊び、よく休む働き方。



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