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「へぇ~、それ知らないんだ~」

アメリカで暮らすようになって9年目になりますが、日本で日本人の家庭に生まれ、日本の習慣で育ち、日本の学校教育を受け、日本文化に触れ、日本で仕事をしていたのが、9年前までの私の三十数年間。この9年で、アメリカの日常生活にもそれなりに馴染み、大きな不自由もなく、普段の生活は送れるようにはなりました。とはいえ、子供時代~学生時代~社会人時代の前半戦のアメリカ生活を経験していないため、加えて、文化や習慣の違いによるため、まわりの人に「へぇ~、それ知らなんだ~」とプチ驚きを与えることも、まだまだ発生します。ここでの鍵は「そんなことも知らないのは恥ずかしい」ではなく「知らなくて当然。ならば知ればいい」という気持ちの持ちよう。時には難しいこともありますが、そうでも思わないと、せっかくこんない広々としてアメリカにいるのに、気分が委縮してしまいますからね。

とか言いながらも、それはあくまでも理想論に留まっている部分もあり、勤務中にお店でお客さんから「知らないこと」を聞かれるのに、正直、居心地が悪く感じることもあります。そのお客さんがどんな人かによって、感じ方も大分変わるものです。「そんなことも知らないの?」と言いたげな視線が痛かったり、理不尽に見下された気分になることがあるのも事実。でも多くの場合は、お客さんが好意的に質問内容をもう少しかみ砕いて説明してくれて、私が更に他の人に質問をつないで一件落着パターンすることの方が多いです。お客さんが求めているものが、実はかなり専門的な内容であったりすることもありますが、時として、私にはそれが常識レベルなのか、それとも、知らなくても仕方ないレベルなのかの判断がしづらいのです。例えば、ホリデーシーズンに込み合った店内を歩いていたときのこと。予想通り、お客さんに呼び止められました。質問は「ターキーのブレイニングバッグ(Turkey Brining Bag)はどこですか?」というものでした。私は「ブレイニング」という言葉自体知りませんでしたので、ターキー関連のなんらかのバッグなのだろう、というのが最大限の推測。頭に「?」が浮かんだ瞬間に周りを見渡すと、ラッキーなことに精肉コーナーがすぐそばだったのです。そして、カウンターには顔見知りのおじさん店員を発見。速攻でヘルプを求め、無事に一件落着したものの、私に残ったのは「ブレイニングバッグとは何ぞや?」という疑問。忙しい時間帯に、それ以上お肉のおじさんの邪魔をするのも気が引けましたので、ベーカリーへ持ち帰ってアメリカ人の女の子の同僚に聞いてみました。彼女によると、ターキーの丸焼きをする前に、塩水につける行程があり、そのときに使う専用のバッグがブレイニングバッグなのだそうです。彼女の優しさなのかもしれませんが、その彼女も、初めてターキーの丸焼きを作るまで、ブレイニングという行程すら知らなかったと言っていました。想像するに、誰もが知っているレベルという訳でもないようで、アメリカのホリデーシーズン関連のプチ知識といったところでしょうか。私としては「勉強になりました」の一言につきます。日本時代から、どういう訳か、お店や道端で人に何かを聞かれることが多い私。お客さんとして買い物をしているのに、なぜか店員さんだと思われて呼び止められることはしょっちゅうでした。そしてそれは、アメリカでもそう変わらないようで「なんで私に聞くかなぁ」とか「よく見て!私はアジア人。それを知っているようには見えないでしょう?」なんて思うこともたびたび。苦い経験をすることもありますが、結果的に「勉強になりました」と新しい知識の蓄積につながるのも事実ですからよしとしましょう。なんといっても、アメリカではまだ9歳ですからね。学ぶことも多いわけです。

というように、言葉、文化、習慣、育った環境や受けた教育の違いによって、アメリカでは小さな子供でも当たり前に知っていることが、日本人には「何のことやら?」ということがあるのは当然です。私もアメリカへ来たばかりの頃はそうでした。あ、今でもそうですね。そんなアメリカでは子供でも知っているのに、日本人には「???」という例をいくつか紹介したいと思います。

まずは、日本人が得意とする略語から。「PB」が何の略語か分かりますか?ちなみに日本語で「PB」を検索してみたところ、プライベートブランドとのことでした。実際にどれほど使われているのかは定かではありませんが、私は聞いたこともありませんでしたね。アメリカで「PB」といったらピーナッツバター「Peanut Butter」で決まり。過去に『アメリカ人の「ピーナッツバター」=日本人の「XX」』の記事にも書いたように、アメリカ人はピーナッツバターがとにかく大好き。子供から大人まで、ピーナッツバター味はとにかく王道中の王道なのです。

「PB」の進化版が「PB&J」。はて「&J」の部分は何でしょうか?「ピーナッツバターと〇〇〇」ということですね。ここでの「J」はJellyの「J」。Jellyというのは、いわゆるパンに塗るジャムのこと。よって「PB&J」は、ピーナッツバターとジャムを挟んだサンドイッチになります。フルーツと生クリームがたっぷり挟まって、見た目にもおしゃれなのが、日本バージョンの甘いサンドイッチ。たっぷりのピーナッツバターとたっぷりのジャムを大胆に挟んだのがアメリカバージョンの甘いサンドイッチなのです。

続いては「PJs」。ピーナッツジャム?いえいえ。「PJs」とはパジャマ(pajamas) の略語です。こちらも日本語で検索してみたところ「パパ活女子」らしい…(笑)。なんともまぁ、日本っぽいこと。私の印象としては、アメリカ人が特にパジャマ好きということもなく、アメリカ人が愛して止まないのは、むしろブランケット(毛布)。寒い時期には、寝るときに使っているブランケットをずるずると引き出して、羽織ったり体に巻き付けた状態でソファに座ってテレビを見る、なんていうのはよくある光景。部屋から部屋へ移動するときだってブランケットにくるまれて… どんだけ好きなんか!って感じですよ。

次は、アメリカの子供がよく口にする決まり言葉です。まずは「Easy peasy lemon squeezy (イージーピージー、レモンスクイージー)」。とても簡単で単純なことに対してこのように表現しますが、ひとえに語呂の良さからくるものなのでしょう。是非、口に出してみてくださいね。日本語だったら「おちゃのこさいさい」とでもいったところでしょうか。「ほら、簡単でしょ?」とか「そんなの簡単過ぎてあっというまさ!」みたいな感覚で使います。

もう一つは、子供たちがバイバイするときのやりとりです。「See you later, alligator. 」「After while, crocodile」。片方が「シィーユーレイター、アリゲーター」と言い、それに答える形でもう一方が「アフターホァイル、クロコダイル」と言います。なんでも「See you later, alligator. 」という歌が語源らしいですが「またね!」「またね!」の楽しい言葉遊びバージョンですね。ちなみに、アリゲーターもクロコダイルも鰐のこと。見分け方はいろいろあるようですが、昔、オーストラリアの動物園に行った時に「口を閉じた状態でも歯が見えるのがクロコダイルで、歯が見えないのがアリゲーター」と教わったような… この「See you later, alligator. 」「After while, crocodile」はアメリカで子供時代を過ごしていれば、当たり前のやりとりなのでしょうが、新参者の私としては、同僚にちょっとふざけて「See you later, alligator. 」と言われても、自然に返答するのはかなりの高難度。“子供が使う”という部分はおいておいたとして、感覚としては「お疲れ様」「お疲れ様」にも近い気がします。日本人にとっては極々自然な「お疲れ様」ですが、それにあたる挨拶自体が英語には存在しないので、アメリカ人が日本で暮らすようになったとしても、なかなか身につかないフレーズのような気がします。逆に「お疲れ様」を使いこなす在日アメリカ人はレベルが高い(笑)。

さてさて。アメリカでは子供ですら知っているこんなことを知らないんだ、という、日本人側が引け目を感じかねない例を挙げましたが、もちろんその逆もありますのでご安心を。先日のこと。ベーカリーでパンを作るのが仕事の私は、余ったパン生地で好きなカタチを成型する実験&練習を兼ねた“遊び”パンを作るのが得意技(笑)。作るパンは動物のことが多いのですが、思ったように焼きあがらないことも多々あり、それなりに発見や学びがあるものです。一緒に働く仲間も、いつからか私の"遊び"を楽しみにしてくれるようになり、できあがったものを見て、これはウサギだ、いいやネコだ、いやいやカエルじゃない?、と好き勝手なことを言って盛り上がるのがお約束。先日、たまたまインスタグラムで見つけた動画にヒントを得て、タコを作ったところ、これがこれまでにない会心の出来。「今回が今までの中でも一番だね!」と、みんなが口をそろえたほど。それがこれ↓

暫定のベスト作品

そんな私の何気ない行動から生まれた予定外の嬉しい変化が、この私の"遊び”パン作りが、パンチームの仲間にも浸透し始めたこと。まぁ、Inspireされた(触発された)といえばカッコイイですが、どちらかと言ったら、私の作品を見て気が楽になった、というところなのでしょう。何はともあれ、自分なりに“遊び”パン作りを楽しみ始めたのです。そんな仲間のひとりが、私の完成度の高いタコパンの翌週、なんともグロテスクな(笑)イカパンを作成。私はザリガニかと思い、いつものお返しとばかりに、彼のイカパンをエサにあーだこーだ言って楽しんだのですが、何よりも気になったはイカの足が8本しかないこと。これは問題です。ところがそんな私の指摘に対し「え?そう?イカって足8本じゃないの?」というのが驚くべき彼の反応だったのです。「いやいや、タコの足は8本、イカの足は10本でしょ」というと「本当?そうなの?知らなかった~」と… タコは8本、イカは10本、子供だって知っていますよね~。その数日後、パンチームの若手メンバーとイカパンの話になったので、私が「足が8本だったのが問題だね」と言うと、彼の反応はまたしても「え?違うの?」というもの。続く私の「8本はタコ、イカは10本」に対しても「本当?そうなの?」と、まるでデジャブの反応だったのです。思わず、私まで不安になって調べてしまったくらいでした。まさかと思い、家に帰って旦那さんに聞いてみると「知らない。知らなくても問題ないし」とばっさり。何を隠そう、うちの旦那さん、大のトリビア好きなので知っていてもおかしくない内容だと思ったんですけどね。どうやらアメリカでは「タコの足が8本」というのは、かろうじて聞いたことがあるレベルのようですが、イカの足の数に関しては全くの無関心のよう。「イカもタコみたいなもんだから、8本なんじゃないの~?」って感じですね。まぁ、アメリカでは、イカはまず食されませんしね。それにしても、日本なら子供でも知っているイカの足の数を、アメリカでは大人でもほとんど知らないのが事実。そう、日本を離れて生活している私が「へぇ~、そんなこと知らないんだ~」とちょっぴり優越感を感じられる小さな事実を発見。まさかイカの足の本数に気分が救われることがあろうとは… 

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