見出し画像

永遠のサイコロ ~お題2つでショートショート その3~ 『図書館』『サイコロ』

 俺は家の近くにある図書館に向かっていた。
 図書館といっても都市部にあるような大きいものではなく、昔からある小さな図書館である。
 俺は学校のない毎週末そこで本を読むことにしているのだ。

 図書館に着くと、俺はあたりを見渡したが、人は一人もいない。
 以前はここも、俺みたいに本好きな人がよく集まっていた。
 しかし最近、大きくてきれいな図書館が新しくできたのでみんなそっちに行ってしまったようだ。そのせいでこの図書館の客は大幅に減ってしまっている。

 俺も最初はその新しくできた図書館に行こうと思っていた。
 だが、何年もこの図書館に通っている俺にとって、いつしかこの図書館は第二の家のようなものになっていた。
 そう簡単に別の図書館に移ることは出来ない。
 だから今日もこうして、この古くて小さな図書館にやってきている。


 早速俺は、気になる本を探しに本棚へ向かった。
 一冊の本が目に入った。

 ……ずいぶん古い本だ。
 表紙には何も書かれていない。

 俺は気になってその本を開くと、中から一つのサイコロが現れ、地面に落ちた。
 ――ん? サイコロ?
 そう思った次の瞬間、思いがけないことが起こった。

 落ちたサイコロから、新しいサイコロが一つ飛び出したのである。

 ――え? サイコロがサイコロから飛び出した?
 驚いたのも束の間、飛び出したサイコロが地面に落ちると、今度はそこから新しくサイコロが四つ飛び出した。
 その四つのサイコロが地面に落ちると、さらにそれぞれから三、四個のサイコロが飛び出した。

 ――え……これもしかして無限に増えていくのか?
 俺は慌ててさっきの古い本を見た。
 最初のサイコロはこの本から出てきたのだから、この本になら何かしら今起こっている現象についての記述があるのではないかと思ったのである。
 本にはこう書いてあった。
 『この本を開くと、中からサイコロが出てきます。そのサイコロを振ると、出た目の数と同じ数のサイコロが飛び出します』
 えっと……じゃあ例えばこのサイコロを振って三の目が出たらそのサイコロから三つサイコロが飛び出すっていうことか?
 ならば、サイコロを振らなければ良いのではないかと思ったのだが、それは不可能に近かった。
 なぜならサイコロが飛び出して地面に落ちるとサイコロを振ったという判定になるようなのだ。
 つまり、一度振り出したら増殖はもう止まらない。
 このまま放っておいてはこの世界がサイコロだらけになってしまう。
 もちろん今もこうしている間にサイコロは増え続けている。

 なんとかして増殖を止めなければ。

 ――でもどうすれば?

 俺は本にこう書かれていたことを思い出す。
 『出た目の数と同じ数のサイコロが飛び出します』

 出た目の数と同じ数……そうか、目を読み取ることが出来ない状態であれば、サイコロは飛び出さないということである。
 ということは、増殖を止めるにはサイコロの目を読み取ることができない状況を作り出せばいい。

 でも、サイコロの目を読み取ることができない状況ってどんな状況だろうか?
 サイコロの目を読み取るためには、そのサイコロが傾いたりせずに読み取る面がピタリと地面の上に止まる必要がある。
 だったらもしかして…………。

 俺は図書館の受付のお姉さんの所に行き、こう言った。
 「すみません! 何か大きな袋ってありませんか?」
 「え? 大きな袋ですか? ゴミ袋ならありますけど……」
 「それで構いません。それを頂けませんか? できるだけ早く」
 「分かりました」
 受付のお姉さんはそう言って奥の部屋からビニールでできたゴミ袋を取り出して俺に手渡した。

 俺はゴミ袋を受け取ると、すぐにサイコロが増殖している現場に行ってサイコロを手あたり次第袋の中に詰め込んだ。

 全て詰め込み終わると、俺は急いでその袋を持ち上げた。

 ――その瞬間、増殖が止まった。

 よし。成功だ。
 袋の中に詰め込んでしまえばサイコロが傾くので目が読み取れなくなると考えたのだ。

 俺は再度受付に行き、お姉さんに状況を説明し、サイコロを詰め込んだ袋とあの本を預けた。
 お姉さんは何を言っているんだと言わんばかりの目でこちらを見てきた。
 だが、もともとこのサイコロは図書館の本から出たものだ。
 だから持ち帰るべきではないし、図書館の人に返すのは間違ったことではないだろう。
 俺は受付のお姉さんに「この袋と本は絶対に開けないでください!」と釘を刺し、図書館をあとにした。
 
 ――結局あの本はなんだったのだろうか?
 ――そもそも何故あの場所にあったのだろうか?

 帰り道、そんなことを考えていると、急に妙な胸騒ぎがした。
 俺は嫌な予感がして図書館に戻ることにした。

 図書館の前に着いた。
 いや、違う。
 図書館があったはずの場所と言った方がいいだろうか。
 そこにはもう図書館はなく、代わりに目に飛び込んできたのは…………サイコロの山だった。しかもまだ増殖が続いている。
 きっとあのお姉さんが袋を開けてしまったのだろう。
 そんなことを考えている間にも増殖を続けるサイコロはもう俺の目の前にまで迫ってきていた。

 ――まずい! 飲み込まれる!

 俺は急いでその場から逃げる。
 しかし、サイコロはすさまじい勢いで迫ってくる。

 ――やばい! 追いつかれる!

 そう思い後ろを振り返った瞬間――俺は…………

<了>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?