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猫と出会った昼下がり ~お題2つでショートショート その1~ 『猫』『コンビニ』

 初夏の日差しが眩しい六月最初の月曜日の朝、俺はコンビニにいた。
祝日だから中学校は休み。
 今日は家でゆっくりくつろぐことに決めていたのに、母がお菓子を買ってこいというから仕方なく家の前の道路をはさんで向かい側にあるコンビニへとやってきたわけだ。
 さっさとテキトーにお菓子を買って帰ろう。
 そう思った俺はちょうど目の前にあったチョコレートを取り、レジに並んだ。

 ――その時、なんとコンビニに猫が入ってきた。

 なんだ? 誰かの飼い猫か? 
 初めはそう思ったのだがコンビニには今俺以外に一人しかおらず、その人は飼い主らしい素振りを全く見せなかった。
 よく見たら首輪もついてないし、野良猫なのかもしれない。
 
 ――その猫はゆっくりと俺に近づいてきた。

 え? なんで近づいてくるの? 
 そして猫は俺の足元に座り、ニャーと甘えるような声で鳴いた。
 店内にいたもう一人の客は俺の飼い猫だと勘違いしたらしく、迷惑そうな目で俺を見た。
 いや、そんな目で見られても俺の猫じゃないし……。
 その客は商品を買うと、すぐに外へ出て行ってしまった。
 
 俺は深くため息をつき、手に持っているチョコレートを買ってすぐにコンビニを出た。
 すぐに家に帰ろうとしたのだが、一つ問題があった。

 あの猫がついてきていたのだ。
 今も俺の足元で「連れてって」と言わんばかりにこちらを見上げてくる。
 どうやら俺はなつかれてしまったらしい。
 俺はしゃがんで猫に言った。
 「ついてこないでくれ。さっきはお前のせいで誤解されたんだぞ」
 そして、俺はまた歩きだした。
 ……が、まだついてくる。俺はもう一度しゃがんで少し大きな声で言った。
 「ついてくるなって! 家に連れて行くわけにはいかないんだ」
 
 しかし、そこで俺はあることに気づいた。
 この猫、野良猫にしてはキレイ過ぎないか?
 ふつう野良猫は泥やほこりなどで汚れているはず……なのに、この猫にはそのような汚れは見受けられない。あまりにもキレイ過ぎるのだ。
 ということはつまり、この猫は…………もしかして捨て猫か? それも捨てられたばかりの。
 少し可哀そうに思った俺はその猫を公園に連れて行き、少し遊んでやることにした。
 ねこじゃらしを使って一緒に戯れたり、一緒に走ったりした。
 猫と遊ぶのも悪いものではなく、いつも休日は家に引きこもっている俺にとっては新鮮なものだった。
 
 気づけばもう昼近くなっていた。もうその頃には猫と大分仲良くなっていたが、ここで俺は母にお菓子を買うのを頼まれたことを思い出した。帰りが遅いのを心配しているかもしれない。
 「やべっ……完全に忘れてた」
 俺は家に帰ることにした。一刻も早く家に帰りたかったが、あの猫がついて来てしまう。
 家に連れて帰るわけにもいかない。俺はあのコンビニの前でお別れをしようと考えた。

 さっきのコンビニの前に着くと、猫に「じゃあな」と別れの挨拶をし、猫に追いつかれないように全速力で向かいにある自分の家へと走り、信号を渡った。
 向かい側の歩行者用道路へ着いたと思ったその時だった。

 耳が引き裂けそうなブレーキ音のあと、ドンと重い音が鳴り響いた。
 俺は驚いて後ろを振り返った。

 そこには、さっきまで元気に俺と遊んでいたあの猫が倒れている姿と、猫と衝突したと思われるトラックがあった。

 俺はただ茫然と立ち尽くしていた。

 何が起こったか分からなかった。
 さっきまであんなに元気だった猫が全く動かずに道路の上に倒れている。

 俺の……せいだ……。
 きっと走り出した俺の後を追って道路に出てしまい、トラックと衝突したんだ。
 他にも別れる方法なんていくらでもあっただろうに。急いでいたために強引な別れ方をしてしまった。
 
 俺は猫のもとへ駆け寄り、そっとその体を抱きしめた。

<了>


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