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「ダンナ様はFBI」より、ダーリンの憂いと教え、そして予言

前回の 「日本人男性が子供すぎる」 を書きながら、昔読んだ本を思い出していた。 「ダンナ様はFBI」(田中ミエ著) という。 2014年にドラマにもなっているみたいだからご存知の人も多いでしょう。
 
ただ自分はドラマを見ていなくて、文庫本を読んだだけなのだけど、自分の読書史上でもかなりインパクト強い 1冊だ。 何たって本当に本物の(元)FBI の人の話なんだもんね。 そんなこと本にしていいのか?って、最初は驚いたんだけどもね。
 
この本を読んだ 2012年頃、一番共感して記憶に残ったのが、ダンナ様が語る日本人の 「腹の立つマナー」 のくだり。

-----(引用)-----
ダーリンは日本で暮らし始めてから、よからぬ人間ばかりに目がいく、と言っていた。尊敬という感情を、日本のみんなに対して持てないんだよね、とも。やさしく、礼儀正しい人はまだまだ多いし、それが日本に住む幸福の一つだけれども、やっぱりいろんなやつがいるんだなあ、とダーリンはため息をつくことがあった。とくに電車の中や繁華街で、腹の立つマナーの人間が多いと言い、アメリカ型の犯罪が遠からず日本でも当たり前になってしまうと心配していた。
(中略)
 
 「一番気がかりなのは、大人の男性が、どうも自分のこと以外には関心がないってことだな。僕はね、仕事に熱心なことはとてもいいと思ってるよ。僕だって24時間仕事したいと思うほうだから。でも今の日本人男性って、仕事場の中だけで閉じている気がする。昨日さ、新橋で中年の女性がしゃがんでいたんだよ。具合が悪いのかと思って声をかけたけど、言葉が通じないし、外人だから向こうもびっくりしてね。これじゃまずいと思って、通りがかりのサラリーマンに、彼女は具合が悪そうだから救急車を呼んでほしい、と声かけたんだけど、知らんぷりなんだ。何人もだよ」
 
 ダーリンが懸命に人を呼び止めている様子が目に浮かぶ。こういうことを絶対に見過ごしにできない人なのだ。結局、誰一人応じてくれないので、仕方なく彼女を抱え、近くの交番まで歩いてもらって巡査に頼んできたのだと言った。
-----(引用おわり)-----

(「ダンナ様はFBI」 幻冬舎文庫 p161-p163)

そうなんだよ! すっごいわかるよね。 こういうことって本当によくあるんだよ!! 具合が悪い人にも何もしないし、声をかけているのに誰一人応じてくれないって。 「大人の男性が、どうも自分のこと以外には関心がない」 っていうのは事実だね。 客観的に日本を見るとそうなのだ。 この本ではだいぶ抑えて書いてあるけど、ダーリンもショックだっただろう。 この状況で知らんぷりできるなんて、人間の心がないゾンビの群れを見ているようだ。
 
まわりの人に対する無関心ぶりが恐ろしい。 「でも今の日本人男性って、仕事場の中だけで閉じている気がする」 という通り、彼らにとって仕事場以外の人間はどうでもいいんだ。 中年女性を助けたって何の得にもならないし、面倒なことに巻き込まれたら困るからね、ってか。
 
「ダーリンが懸命に人を呼び止めている様子が目に浮かぶ。こういうことを絶対に見過ごしにできない人なのだ」 とあるけど、こういう人が珍しいのではなく、マジョリティであるのが普通だよ。 ニューヨークはそうだったし、自分の旅行体験とかネットにあふれてる体験談を見ても、世界中でそうなんだと思う。 っていうか人間の本能だよ? 決してダーリンが特別なのではない(でも日本でこれをするのは勇気がいるね!)。 そして日本のほうがおかしいんだよ。
 
ダーリン(と著者) の素晴らしいことに、原因と対策というフォローが続いている。

-----(引用)-----
「明らかに困っている人に手を貸さないって、危ない国だよ。犯罪って、無関心が引き金になって蔓延していく。それって、尊敬の交換をしないことにも原因があるんだ。せめて、君はビジネスの渦中にいる男性に会ったら、君から彼らに対して尊敬の態度を見せてほしいね。彼らにはまず人から尊敬されるという体験が必要だよ」
 
(中略)
 
「心地いいものなんだよね、自分のことを聞かれると。子どものときもそうだったけれど大人になってもそれは変わらない。世界中、同じだよ。そのことに大人の男性が気づいて、自分の部下や家族にできるようになると、社会も変わると思うんだけど。日本は無関心に向かって走っているのが気がかりだなあ」
-----(引用おわり)-----

(「ダンナ様はFBI」 幻冬舎文庫 p163-p164)

日本の男性は自己肯定感が低い、と言っているのだ。 そうなんだよ。 あれがダメ、これがダメ、と批判するばかりのギスギスした社会にいたら、どうしたってそうなる。 悪循環だ。
 
そうじゃなくて、お互いを認めて尊重し合うことが必要なのだ。 単純に、ちょっとしたことをほめたり、お礼を言ったりするだけでもいいのだ。 詳細は省略したけど、引用した中でも 「相手に関心を持って質問しろ」 とある。 質問を向けられて答えるという会話があると、自分の存在を肯定された気持ちになる。 心が安定して自分に余裕が生まれる。 余裕が生まれると、周りを見ることができるようになる。
 
周りを見ることができる人が集まっているのが、健全な社会だよね。 ダーリンの教えのとおり、部下や家族に尊敬(尊重) を込めたコミュニケーションができるようになってほしい。 そしてそういう男性が増えてほしい。 良い循環が生まれる社会になってほしい。
 
現在、オレオレ詐欺に始まる特殊詐欺やら、簡単に人を殺める強盗やら、非情で冷酷な犯罪が増えた。 他人に無関心な社会だから起こる犯罪だと言えまいか。 隣近所やアパートメントの隣人の顔を知っていて、普段から挨拶のひとつも交わせるような地域社会であったら、そもそも犯罪者は生まれにくい。
 
もし犯罪が起きても、住民同士が顔見知りなら何か変わったことがあれば誰かが気づくし、いざというときに助け合える下地がある。 心無い犯罪がはびこる余地はないだろう。 でも今の日本はどうだ。 ダーリンの予言どおりになっていないか。 ダーリンの教えは何だったかな。
 


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