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時計が実際の時間よりも進んでいたことに気がついたので直そうと思って針を戻すのだが同時に時間もその分だけ戻ってしまうので一向にずれが直せないでいる。
下を向いて歩いていたらとんでもない美脚が視界に入ったから思わず目を上げたがどういうわけか上半身が見当たらず「脚の他になにか必要かしら」とでも言わんばかりの気高さで美脚はつかつか歩いていくのだった。
隣室の夫婦喧嘩の音があまりにひどいので警察を呼んだ方がいいんじゃないのかと思ってとりあえず大家さんに連絡してみたところ「警察を呼べば成仏するとでも思っているのか」と強い口調で言われて驚いたのだが、そういえば入居前に「隣にはSMが趣味だった夫婦の幽霊が住んでいるけど実害はありませんので」という説明を聞いていたのだった。
豪邸から飛び出してきた女の子が偶然近くを通りかかったぼくに「誘拐して誘拐して」と何度もせがむものだからとりあえず話を聞いてあげようと思って公園に連れていくと近くの交番に向かって大声で「助けて!助けて!」などと女の子が叫んだため慌てて逃げ出したのだけど女の子を小脇に抱えて全力疾走している成人男性の姿はどう見ても不審者であって、そのことにあまりに自覚的だったぼくは「もう誘拐犯になってしまったのだろうか……」と頭を抱えてしまったのだがふと見ると女の子の背中から乾電池がはみ出しており
シャンプーを頭に塗りたくっている最中に肩を叩く者がいるので「いま忙しいの!あとにして!」と邪険にしたら「相変わらずヒステリーなんだな」と聞き慣れた声がしたので、まさかと思いながらも慌てて洗い流して後ろを振り向くと案の定先月亡くなった恋人だったのだが、驚くより先に「向こうは肉食べ放題だぜ、身体がないから太りようもねえし」という彼の言葉に目が眩んで「何でこんな変なタイミングに来るのよ」と不満を言いながらも喜んでこの世を後にしたのだった。
ひとりで残業していたらすっかり遅くなってしまいそろそろ切り上げようかと思って背伸びした瞬間、15階の窓の外を一匹の象がのしのし横切っていった。
面倒でしばらく散髪に行っていなかったある日の帰り道でなにかの悪戯かはたまた神の恩寵か数名の美容師がどこからともなく現れてぼくの身体を引っ捕らえたと思ったらあっという間にぼさぼさの頭を流行の髪型に変えて無言で立ち去っていった。
人と知り合うきっかけもないのに突然好きな人ができてしまったのだけれどそれが誰だかどうしても思い出せずに考えこんでいたら、昨日の夢に出てきた人だということを思い出したので「会えるなら作り話でもなんでもいい」と思い立って架空の人を探す架空の旅に出ることにした。
入院したクラスメートのためにひとりで鶴を折っていたら根を詰めすぎてノイローゼになってしまったというのに千羽出来上がる前に恩知らずにも退院してしまったクラスメートの髪の毛を一本引き抜いて丑三つ時に神社で逆恨みしている。
就職しようと思ってスーツを着て真面目に面接を受けていたら、とつぜん警官が踏み込んできて台なしにされた挙句、面接官がひとり残らず15階の窓から飛び降りてしまったため、わたしが重要参考人として連行される羽目になった。
ふらふらと道を歩いていたら通りすがりの幼い子どもがはしゃいでまとわりついてきたのでなんだろうと思ったらついさっき飲んだミネラルウォーターのペットボトルのなかで小さい金魚が泳いでいた。
ただ生きているだけでは運命の人に会えなかったため女装をして鏡のなかに運命を探していたらいつのまにか自分が誰だかわからなくなってしまっていた。
わたしが鏡の前に立つと決まって映り込んでくる同居人がひとり居るのだが、「悪いけれどその習慣はよしてくれない?」と言ってみても返事はなく改める素振りもまったくなかったのだが、どうしたわけかあるときからわたし自身が鏡に映るようになり、同居人はとうとうこの世から姿を消してしまった。
プラネタリウムに行くお金がなかったから仕方なく寝床の天井に穴を開けて星空を見ようとしたらそこから星が次々降ってくるようになってしまい今晩より安眠のためにヘルメットを被らなければならなくなった。