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真面目な性格がパニック症にどう影響するか

ちょっとおもしろい科研の報告書を読んだ。

https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-26380937/26380937seika.pdf

パニック症で認知行動療法を施行する際に、患者がどういう性格だとより効果が望めるか、という研究のようだ。で、結果として「誠実性」が高いと、より予後が良いって言えるかもーということらしい。

厳密にはパニック症そのものではなく併存症への効果を見たもののようで、パニック症患者の9割が何かしらの精神疾患を併存していることが研究の背景らしい。報告書によればそのうち、うつ病が10〜15%、社交不安障害が15〜30%、特定の恐怖症が2〜20%、全般性不安障害が15〜30%、PTSDが2〜10%、強迫性障害が30%以上とのこと。たしかに私もうつ症状は出た。全般性不安障害の傾向も出た。それはなんなら、パニック症の「全般化」として地続きで捉えていた。あと、社交不安についてはむしろパニック症の1、2年前から傾向があった。だからもろもろ肌感覚として、わかりみーと思う。

ちなみに、パニック症における薬物療法と認知行動療法の比較として、急性期の介入でどちらもほぼ同等の効果を示すものの、その後、薬物療法を続けないと再発率が40%に達する一方で、認知行動療法では20%程度に留まることが説明されていた。また、後者がうつなどの併存症にも一定の効果を示すことを含め、本文には「最近では薬物療法はパニック障害治療の第1選択としては誤った方針である可能性が高いことが指摘される」とか、「中長期的な観点も加味すると薬物療法に対する認知行動療法の優位性は明らかになりつつある」とかいう記述もあった。実践者には、とりわけとても勇気付けられる報告だ。あ、ちなみに私のうつ症状や全般化や社交不安もろもろも、パニック症回復とともに癒えた。認知行動療法の効果なのかもしれない。

さて、性格の話だ。研究では、認知行動療法の介入前に患者の人格特性をNEO Five-Factor Inventory(NEO-FFI)を使って測定し、また認知的要素をAgoraphobic Cognitions Questionnaire(ACQ)を使って測定したとのこと。ACQの方は広場恐怖に対する自己認知を測る内容で、緊張してきたときにどういう感覚になるかのリスト項目を「まったく感じない」から「毎回感じる」の5段階で評価していくもの。「吐きそうになる」や「窒息しそうになる」「自分をコントロールできなくなるような感じ」などの項目がある。

https://bpb-us-w2.wpmucdn.com/web.sas.upenn.edu/dist/6/184/files/2017/03/ACQ-178d56l.pdf

(参考/英語/ネットからの拾い物)

NEO-FFIの方が性格特性の評価尺度らしい。人間には大きくFive-Factorつまり5因子の性格特性があって、これらは文化に影響されない人類共通の特性なのだとか。もうちょっと細分化できるところを、いろいろギュッと凝縮した結果の5因子らしい。

(参考/岩手大学リポジトリ/PDFにしか辿り着けずすみません)

元々はNEO Personality Inventory-Revised(NEO PI-R)という尺度があって、そこでは240項目を「非常にそうだ」から「まったくそうでない」の5段階で評価する。その簡易版が60項目から成るNEO-FFIらしい。で、5因子の内訳と構成はこんな感じ。

  • 神経症傾向 ... 不安、敵意、抑うつ、自意識、衝動性、傷つきやすさ

  • 外向性 ... 温かさ、群居性、断行性、活動性、刺激希求性、良い感情

  • 開放性 ... 空想、審美性、感情、行為、アイデア、価値

  • 調和性 ... 信頼、実直さ、利他性、応諾、慎み深さ、優しさ

  • 誠実性 ... コンピテンス、秩序、良心性、達成追求、自己鍛錬、慎重さ

ちょっとむずい。いかにも英語を邦訳したものっぽい。ただ、神経症傾向って特性なの? 群居性ってなに? コンピテンスってなに? とかはあるが、おおむねなんとなくはイメージできる。「神経症傾向」は繊細なひと、「外向性」はみんなでワイワイ、「開放性」はアーティスト肌、「調和性」はみんなに優しいひと、「誠実性」は真面目でストイック、みたいな感じか。ちなみにコンピテンスってのは、コミュ力、リーダーシップ、協調性、向上心などの能力を意味するらしい。

報告では、パニック症で認知行動療法をやったとき、この5因子のうち「誠実性」の高い人ほど、うつなどの併存症が改善されたということだが。それってどういうことなんだろう。パニック症自体の改善には、特に性格特性で差異はないということだろうか。よく真面目な人ほどメンタルがやられやすいなんて言われがちだけど、その真面目要素が認知行動療法の介入で多少緩和したりなんかして、その影響で予後が良いのだろうか。それとも真面目は性格特性だから変わらないんだけど、その真面目さが認知行動療法と親和性が高くて、より効果が高まるみたいなことだろうか。てかそもそも、性格特性と疾患そのものの親和性とかってあるんだろうか。いや、神経症傾向だと疾患になりやすそうだよなと単純に思ったり。

いろいろ論文をディグれば、その辺もう少し分かるのかもしれない。ふむ。ともあれ、真面目っぽい要素があると、認知行動療法をやったときにパニック症以外のもろもろのメンタル疾患も改善しやすいとのことで。真面目すぎるのも良くないイメージはあるけど、それが案外治療に寄与したりする辺り、なんかおもしろい。

かくいう私は、真面目だねなどと人に評されたことは正直一度もない。もっと真面目にやれと言われたことなら何度でもある。コンピテンスもピンとこないし、何事も三日坊主で自己鍛錬傾向も弱め。NEO-FFIのテスト項目が見つけられなかったので自己判断もできないが、もし件の尺度で測ったら私は少なくとも「誠実性」以外が高く出そうな気がする。それでも認知行動療法で併存症までごそっと治ってしまったわけで、まあ、結局いろんなケースがあるんだなってところではある。

でも「誠実性」に憧れる部分はちょっとある。いや、それか本来の誠実性が家庭環境の影響で封殺されたか。幼児期は「外向性」高かった気がするけど、屈託がないのは幼児全般の基本的な傾向なのかもだし。いや、引っ込み思案で「神経症傾向」もあったな。あと、陰キャムーブをかっこよしとする時期とか層とかにハマって「開放性」に寄せてった自覚もちょっとあって、もしかすると根は陽キャなんじゃないかと最近思い始めていたりして。性格ってむずかしいよな。この5因子が不変なのか無常なのかもまた気になるが、おそらくたぶん変わっていくもののような気がしている。

あ、そういえば認知行動療法に関しては我ながら真面目にやった。達成追求、自己鍛錬なんかのワードもしっくりくる。要するに性格特性うんぬんというよりは、とにかく「がっつり」やるほどに認知行動療法の効果は高まるということだろうか。それはそれで、それなりに腑に落ちるオチではある。(おわり)

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