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ぼくのシーサイド


海は夜で、海は星で、海は空なのよ。

あなたは海からの空しか、見たことが無いでしょう?


空から見た海はね、星なの。

潮風に流れる、大きな大きな天の川。

あなたが見上げる星空よりも、月から見た海のほうが、本当はずっとキラキラしてるんだから。


「だっておれはカモメじゃないから空へは飛べないし」


翼がない?   飛べなくたって、大丈夫。

星を泳げばいいのよ、クジラのようにね。


「イルカじゃないから、海も泳げないし」


鰭がない?   泳げなくたって、平気よ。

月に浮かべばいいのよ、クラゲのようにね。



「おれはクジラでも、クラゲでもない。ただの人間だよ」


そんなことない。

だって貴方には、足があるじゃない。

どこまでも道を歩いて行ける、貴方の足が。

腕だってあるわ。

困ったとき、誰かと手を繋げる腕が。



わたしには、何も無い。
足も、腕も、鰭も、翼も。



「あるじゃないか、君にも」


「スピカ。君の名前が、あるじゃないか」



きらきら光る、いちばん星。

純白の輝きはまるで、
花嫁のウェディングドレスのよう。

誰かがくれたわけでもない、
生まれた時から『スピカ』は『スピカ』だった。

うっかり忘れてしまいそうになる『スピカ』も、貴方が呼んでくれるなら、それだけで宝物なの。


「今度は一緒に、水族館にいこう。プラネタリウムにも行こう。空でも海でもない場所に、星や魚はいるんだぜ」


知らないことが、この世界にはまだまだあるのね。

地球の七割を知り尽くしてしまったというのに、残りの三割には一体どんな世界が待っているのだろう。


『知りたい。貴方のことが』
「おれのことなら、何だってわかるさ」


「だっておれのことは、おれが誰より知っているからな」

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