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機関投資家の議決権行使基準にも入っている「株主総利回り(TSR)」とは、どういう指標か?

なぜ「株主総利回り(TSR)」を理解する必要があるのか?

近年、日本企業は従来の売上や利益だけでなく、資本コストを意識した経営を求められています。つまり、投資家から預かった資金をどれだけ効率的に活用し、株主価値を高められるかが重要視されているのです。

株主総利回り(TSR)は、企業が株主に対してどれだけの利益をもたらしたかを示す重要な指標です。株価の上昇だけでなく、配当金も考慮するため、企業の総合的なパフォーマンスを測る上で欠かせません。

また、機関投資家は投資先企業を選ぶ際、TSRを重視する場合があり、議決権行使の判断基準に組み込まれることもあります。

この記事では、TSRの基礎知識から計算方法、注意点まで、わかりやすく解説します。TSRを正しく理解することで、企業の価値創造力を評価し、投資判断に役立てることができるでしょう。


概要

TSRは、企業の株主への還元度合いを総合的に評価できる指標であり、株価上昇と配当金の両方を考慮するため、企業の長期的な成長性を評価する上で非常に有用です。

また、機関投資家が投資判断の基準としてTSRを重視するケースが増えていることから、企業はTSRを向上させるための戦略を積極的に打ち出す必要があります。

一方で、TSRは過去のデータに基づいて計算されるため、将来の株価や配当金を予測するものではありません。また、企業の業種や規模によってTSRの水準は異なるため、単純な比較は難しい点に注意が必要です。

1. 株主総利回り(TSR)とは?

株主総利回り(Total Shareholder Return: TSR)とは、一定期間における株主の投資に対する総合的な収益率を指します。具体的には、株価の値上がり益と配当金を合わせたものを、投資元本で割って算出します。

TSRは、企業が株主にどれだけの価値をもたらしたかを示す指標として、投資家から注目されています。TSRが高い企業は、株主にとって魅力的な投資先とみなされ、資金が集まりやすくなる傾向があります。

2. TSRの計算方法

TSRは、以下の式で計算されます。

TSR (%) = (期末株価 - 期首株価 + 配当金) / 期首株価 × 100
  • 期末株価:一定期間の終了時点での株価

  • 期首株価:一定期間の開始時点での株価

  • 配当金:一定期間中に支払われた配当金の合計

例えば、ある企業の株価が1年間で1,000円から1,200円に上昇し、1株あたり50円の配当金が支払われた場合、TSRは次のようになります。

TSR (%) = (1,200円 - 1,000円 + 50円) / 1,000円 × 100 = 25%

つまり、この企業に投資した株主は、1年間で25%の収益を得たことになります。

3. TSRの注意点

TSRは、企業の総合的なパフォーマンスを評価する上で有用な指標ですが、以下の点に注意が必要です。

  • 過去のデータに基づく指標である:TSRは過去の株価や配当金に基づいて計算されるため、将来の株価や配当金を保証するものではありません。

  • 業種や規模によって水準が異なる:TSRは、企業の業種や規模によって大きく異なる場合があります。例えば、成長性の高いIT企業はTSRが高くなる傾向がありますが、成熟した公益企業はTSRが低くなる傾向があります。

  • 自社株買いによる影響:企業が自社株買いを実施すると、発行済み株式数が減少し、1株あたりの利益が増加するため、TSRが上昇する可能性があります。

4.株式平均利回りとの違い

株式平均利回りと株主総利回り(TSR)は、どちらも株式投資におけるリターンを表す指標ですが、計算方法や着目点が異なります。

株式平均利回り

  • 計算方法: 一定期間の配当金合計を、期中の平均株価で割って算出します。

  • 着目点: 主に配当金に着目し、投資元本に対する配当金の割合を示します。

  • 特徴:

    • 配当利回りの平均値であり、株価の変動は考慮しません。

    • 企業の配当政策を評価する際に役立ちます。

    • 日本取引所グループなどが公表している「株式平均利回り」は、この株式平均利回りを指します。

株主総利回り(TSR)

  • 計算方法: 一定期間の株価上昇(キャピタルゲイン)と配当金合計を、期首株価で割って算出します。

  • 着目点: 株価上昇と配当金の両方を考慮し、投資元本に対する総合的なリターンを示します。

  • 特徴:

    • 企業の総合的な株主価値創造能力を評価する際に役立ちます。

    • 機関投資家などが投資判断を行う際の重要な指標となります。

    • 金融庁が定める「企業内容等の開示に関する内閣府令」において、計算方法が定められています。

まとめ

株式平均利回りは、配当金に着目した指標であり、主にインカムゲインを重視する投資家に活用されます。
一方、株主総利回り(TSR)は株価上昇と配当金の両方を考慮した指標であり、企業の総合的な価値創造能力を評価したい投資家や、長期的な視点で投資を行う投資家に活用されます。

5. TSR向上のための企業の取り組み

企業は、TSRを向上させるために、以下のような取り組みを行うことができます。

  • 収益性の向上:売上高の増加やコスト削減などを通じて、利益を増やす。

  • 成長投資:新規事業への投資やM&Aなどを通じて、将来の収益拡大を目指す。

  • 株主還元の強化:増配や自社株買いなどを通じて、株主に利益を還元する。

  • IR活動の強化:投資家向け広報活動を通じて、企業の価値を適切に伝える。

6.TSRの平均値

こちらのサイトによると、2023年で中央値97.9%、平均値113.4%のようです。日経平均やTOPIXは上昇しましたが、指数に入っていない銘柄の上昇率が高くないということを示唆していると思われます。

上記のサイトでは業種別の平均値や個別企業のランキングなども紹介されていますので、ご覧いただけるとよいかと思います。

まとめ

株主総利回り(TSR)は、企業の株主に対する総合的な還元度合いを示す重要な指標です。TSRを理解し、適切に活用することで、企業は投資家からより多くの支持を得て、持続的な成長を実現できるでしょう。

皆様も、TSRを参考にしながら、企業の価値創造力を評価し、企業分析及び投資判断に役立てていただければ幸いです。

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