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スイングバイIPOの潮流

ソラコムを筆頭にスタートアップM&A⇒IPOのトレンドとなっている、「スイングバイIPO」についてまとめます。後段ではYutoriの事例についても分析します。

スイングバイIPOの定義

スイングバイIPOとは、スタートアップが一度大企業の傘下に入り、その支援を受けて成長した後に独立してIPO(新規株式公開)を目指す成長戦略です。この手法は、宇宙探査機が惑星の重力を利用して加速する「スイングバイ」技術に由来しています。スタートアップが大企業の資金力や信用力、販売網を活用して急成長を遂げる様子を表しています。

スイングバイIPOが生まれた過程

スイングバイIPOという概念は、KDDIがIoTプラットフォームを提供するソラコムを買収した際に生まれました。ソラコムの玉川憲社長が、KDDIの高橋誠社長にIPOを含めた成長戦略を相談した際、外部からの見え方をポジティブにするために「スイングバイ」という言葉を提案し、採用されました。

スイングバイIPOの具体例

  • ソラコム: 2017年にKDDIに買収され、2024年3月26日に東京証券取引所グロース市場に上場しました。KDDIの支援を受けて急成長し、契約回線数を大幅に増やしました。

  • Yutori: アパレルD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)企業として、創業からわずか5年で東京証券取引所グロース市場への上場を果たしました。

  • カンム: 三菱UFJ銀行の子会社化を経て、将来的なIPOを目指しています。MUFGの支援を受けて成長し、スイングバイIPOを目指しています 。

スイングバイIPOのメリット・デメリット

メリット

  • 成長加速: 大企業の資金力や信用力、販売網を活用できるため、スタートアップの成長が加速します。

  • リスク分散: 大企業の支援により、スタートアップの経営リスクが分散されます。

  • 資金調達: 大企業の傘下に入ることで、資金調達が容易になります。短期的な運転資金の確保、ベンチャーデットが発達していない中での黒字化、機関投資家からのネガティブな評価を回避

デメリット

  • 独立性の喪失: 大企業の傘下に入ることで、スタートアップの独立性が一時的に失われる可能性があります。

  • 親子上場の問題: 親会社と子会社の利益相反やガバナンスの問題が発生する可能性があります。

スイングバイIPOの留意点

  • ガバナンスの確保: 親子上場に伴うガバナンスの問題を解決するため、透明性の高い経営が求められます。

  • 成長戦略の明確化: 大企業の支援を受ける際には、明確な成長戦略とビジョンを持つことが重要です。

  • 市場の理解: スイングバイIPOの概念を市場に理解してもらうためのコミュニケーションが必要です。

スイングバイIPOは、スタートアップが大企業の支援を受けて成長し、最終的に独立上場を果たす新しい成長モデルとして注目されています。

スイングバイIPOのメリットを活かすための検討事項

1. 大企業との戦略的提携

スイングバイIPOの成功には、大企業との戦略的な提携が不可欠です。大企業の資金力、信用力、販売網などのリソースを活用することで、スタートアップは急速に成長できます。提携先の大企業が提供するリソースを最大限に活用するための具体的な計画を立てることが重要です。

2. 明確な成長戦略とビジョン

大企業の支援を受ける際には、スタートアップ自身が明確な成長戦略とビジョンを持つことが求められます。これにより、提携先の大企業と共通の目標に向かって進むことができ、効果的な支援を受けることができます。

3. ガバナンスの確保

スイングバイIPOでは、親会社と子会社の利益相反やガバナンスの問題が発生する可能性があります。これを防ぐために、透明性の高い経営とガバナンス体制の確立が必要です。特に、親子上場に伴うガバナンスの問題を解決するための具体的な対策を講じることが重要です。

4. 資金調達の計画

大企業の支援を受けつつ、必要な資金をタイムリーに調達するための計画を立て、資金調達の柔軟性を活かすことが重要です。これにより、成長のための資金を確保しやすくなります。なお、スイングバイIPOを目指す場合、エクイティ資金調達の自由度が下がることがあります。これに対して、デットでカバーするなどの対策が必要です。

5. 市場信頼の獲得

大企業の子会社としての信用力を活用し、取引先や顧客からの信頼を獲得することが重要です。市場での信頼を高めるための具体的な施策を講じることで、ビジネスの拡大が容易になります。

6. 上場準備の効率化

大企業のノウハウを活用して、IPO準備を効率的に進めることができます。上場に向けた準備をスムーズに進めるための具体的な計画を立て、必要な手続きを迅速に行うことが重要です。

7. 持分比率の管理

持分比率の管理: IPO時の持分比率を適切に管理し、関連当事者取引を早期に排除することが重要です。これにより、IPOの準備がスムーズに進行します。

留意点

1. デューデリジェンスの徹底

  • 法的・財務的リスクの評価: 買収対象企業の法的および財務的リスクを徹底的に評価することが重要です。これには、訴訟リスク、契約の有効性、規制遵守状況などが含まれます。

  • 技術的デューデリジェンス: 技術的な評価も重要です。コードの品質、技術インフラのスケーラビリティ、セキュリティの脆弱性などを確認します。

2. 経営陣と従業員の評価

  • 経営陣の評価: 経営陣の経験、スキルセット、ビジョンの一致を確認します。特に、買収後の統合において重要な役割を果たすキーマンの評価が重要です。

  • 従業員の統合: 買収後の従業員の統合計画を立て、文化的なフィット感を確認します。従業員の離職率を低下させるための対策も必要です。

3. ガバナンスと統合計画

  • ガバナンスの確立: 買収後のガバナンス体制を整え、取締役会の構成や役割を明確にします。これにより、買収後の運営がスムーズに進行します。

  • 統合計画の策定: 統合計画を詳細に策定し、各ステップのタイムラインとマイルストーンを設定します。これにより、統合プロセスが円滑に進行します。

4. 資本政策と投資戦略

  • 資本政策の選択: マイノリティ投資とマジョリティ投資のどちらが適しているかを判断します。マイノリティ投資は経営陣の独立性を保つ一方、マジョリティ投資はより大きな資金提供と経営への影響力を持つことができます。

  • 投資の目的理解: 買収の目的を明確にし、ターゲット企業がどのように自社の成長戦略に貢献できるかを理解します。これにより、買収後のシナジーを最大化します。

5. リスク管理と法的対応

  • リスク管理: 買収には多くのリスクが伴うため、リスク管理の枠組みを確立し、潜在的な問題に対処するための計画を立てます。

  • 法的対応: 買収プロセス全体を通じて、法的な助言を求め、契約書や合意書の内容を慎重に検討します。これにより、法的リスクを最小限に抑えます。

6. 経営陣と従業員の確保

  • キーマンの確保: 買収後もキーマンが抜けないようにするためのインセンティブを提供し、経営陣のモチベーションを維持します。

  • 従業員のリテンション: 従業員の離職を防ぐためのリテンションプランを策定し、買収後の統合プロセスを円滑に進めます。

7. VCとのコミュニケーション

  • VCとのコミュニケーションを強化し、アップサイドを求めるVCとバランスを取ることが重要です。

Yutoriの事例分析

Yutoriは、アパレルD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)企業として、創業からわずか5年で東京証券取引所グロース市場への上場を果たしました。その上場までの資本政策について、以下のポイントが重要です。

上場までの資本政策


1. 初期資金調達と成長

  • 創業と初期資金調達: Yutoriは2018年に創業され、初期投資0円でインスタグラムアカウント「古着女子」を立ち上げ、フォロワーを急速に増やしました。この初期段階では、自己資金や少額のエンジェル投資家からの資金調達が中心でした。

2. VCおよびCVCからの資金調達

  • ベンチャーキャピタル(VC)からの支援: Yutoriは、成長の過程で複数のVCから資金を調達しました。これにより、事業拡大やマーケティング活動を強化し、売上を急速に伸ばしました。

  • コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)との連携: 特に、ZOZOからの出資を受けたことが大きな転機となりました。2020年8月にZOZOからの第三者割当増資を受け、発行価格は472円でした。この資金調達により、Yutoriはさらに成長を加速させました。

3. スイングバイIPOの戦略

  • スイングバイIPOの採用: Yutoriは、スイングバイIPOの戦略を採用しました。これは、大企業の傘下で成長した後に再度IPOを目指すモデルです。ZOZOからの出資を受けたことで、Yutoriは大企業のリソースを活用し、成長を加速させることができました。

4. 上場準備とIPO

  • 上場準備: 上場に向けた準備として、Yutoriはガバナンス体制の強化や財務の透明性を高めるための取り組みを行いました。これには、取締役会の構成や役割の明確化、関連当事者取引の排除などが含まれます。

  • IPOの実施: 2023年11月24日に東京証券取引所グロース市場への新規上場が承認され、2023年12月27日に上場を果たしました。上場時の公募価格は2520円で、初値は2829円となり、初値騰落率は+12.26%でした。

ZOZOとの関係性

  • 上場前は51%を保有し、株主間契約を締結していましたが(重要事項の事前承認、事後通知等が規定されております)。上場後は株主間契約は終了いたします。

  • 上場後、ZOZOの保有比率は30%未満(24%)となり、関連会社となる予定です。

  • 取締役1名はZOZOの方を受け入れます。出向契約は今後も原則として行いません。

  • 関連当事者取引は、合理性等を確認の上、取締役会の決議事項としております。

  • 販売チャネルは、ZOZOが約3割を占めております。今後は自社ECサイト強化により比率を低減する予定です。

引用

  • https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/connect/ipo/202311242101.pdf

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