ブラック・ミュージック史における一つの革命となったニュー・ソウル/プログレッシヴ・ソウル
今回、ご紹介するのは、70年代のニュー・ソウル/プログレッシヴ・ソウルです。
70年代の初頭、R&B/ソウル・ミュージックは、重要な転機を迎える事となりました。
60年代の同ジャンルは、主として商業的な野心を持ったレコード会社の主導の下、シンガー/アーティストとプロデューサー/ソングライターによる分業制からレコードが制作されていました。
ところが、70年代前後を境にして、作品のプロデュース/ソングライティングを自ら手掛けるR&B/ソウル・シンガー達が台頭し、更には自身のキャリアをより飛躍させるべく、自主レーベルを興すイノベーターも現れました。
彼らは、それまでのラブ・ソングが主体であったブラック・ミュージックの形式からも解放され、社会的な問題提起やパーソナルな精神性の反映といった現代のポピュラー・ミュージックにおけるメインテーマに取り組みました。
そして、後年、それら一連のR&B/ソウルを指し、ここ日本においては、ニュー・ソウルと分類される事となり、本国アメリカにおいては、音楽的なアプローチ含め、その構造的な発展からプログレッシヴ・ソウルと定義される事となりました。
筆者は、こうしたソウル・ミュージックの大きな変化は、ブラック・ミュージック史における一つの革命であったと考察しており、同ジャンルにおける作品の完成度やその後の同ジャンルへの影響力たるや、同歴史における頂点の一つであったと結論づけます。
『What's Going On』/Marvin Gaye(1971)
作品評価★★★★★(5stars)
聖歌隊の少年からモータウンのアイドルを経て、次なる時代の担い手へ。聖から俗へ向かった青年は、時代の転機と共に、作家としての自我に目覚め、現代的なブラック・ミュージックの礎を築き上げた。
新たなR&B/ソウル・シーンの始まりを告げる事となった名作。シンガー/アレンジャーの資質に優れていたゲイは、ホームタウン/デトロイトの交響楽団や盟友ファンク・ブラザーズらと共に、組曲的なトラックと社会的な意識と内なる宇宙を重ね合わせ、モータウンの発展形を華麗に歌い上げた。
幻の作品『You're The Man』の頓挫や二人目の妻との出会いから作品のモチーフを政治から性へと一転させたマーヴィンは、その特有のセクシャルな性質を発露させ、後期においては、憂鬱な私小説的作品でR&B/ソウルにおけるSSWの一つの在り方を赤裸々に披瀝したのである。
『Music of My Mind』/Stevie Wonder(1972)
作品評価★★★★☆(4.5stars)
モータウンの秘蔵っ子であった盲目の天才少年は、60年代における音楽的な修練の積み重ねを経て、迎えた70年代、最先端のシンセサイザーとの会遇によって潜在能力を開花させ、時代の子としてシーンへ躍り出た。
ニューヨークへと渡ってTONTOの発明者セシル/マーゴレフと共に制作された今作は、多才ワンダーのソングライター/マルチプレイヤーの本領が発揮され、ユニークなアイデアも冴え渡る多彩な表現力で自身の心模様やイマジネーションを映し出した一枚となっている。
本作の僅か半年後、神童スティーヴィーは、伝説的な三部作を啓示し、その広い視野は、ブラック・ミュージック全般に及び、その鋭い視点は、ロックをも捉えており、音楽的な普遍性と革新性を併せ持つ作品群からこれまでのR&B/ソウルやロックを凌駕していくのであった。
『Curtis』/Curtis Mayfield(1970)
作品評価★★★★(4stars)
ブルース/R&Bの伝統脈打つ大都市/シカゴが輩出したこの先駆者は、ドゥーワップ/R&Bグループのインプレッション在籍時にブラックプライドの象徴を具現化させた後、逸早く時代の転換期を察知し、インディペンデント系のアーティストとして独立を果たした。
自主レーベル/カートムからリリースされた1stにおいてメイフィールドは、セルフプロデュースの下、ソーシャリティーに関するテーマとドラマティックなアレンジワークから真摯なスタンスと独創的なスタイルを流麗かつ技巧的に提示した。
次作で手掛けたサウンド・トラックの成功を機に、映画音楽のプロデューサーとして名を馳せていくカーティスだが、数年後に上梓するアルバムにおいては、現代アメリカ社会を音楽的に写実し、ニュー・ソウルの一翼は、優れた作家としてもシーンで羽ばたいてみせた。
『Everything Is Everything(+1)』/Donny Hathaway(1970)
作品評価★★★★☆(4.5stars)
中産階級のアフリカ系米国人が漸進的に社会進出を果たしていく60年代、名門の黒人大学で音楽的な教育を受けたこのシンガー/ピアニストは、そうした社会的な恩恵も受けて洗練された素養を身につけていた。
カートムやスタックスでの下積みを経て、アトコから発表された1stは、リズム・セクションを務めるリック・パウエルと共に制作され、ゴスペルをルーツとするハサウェイは、各楽曲にその音楽性や精神性を宿らせ、クリスチャンとしての信仰や妻への愛や深刻化するゲットーついて繊細かつジャジーに歌い上げた。
次なるR&B/ソウルを自身に潜在する音楽性から学理的に模索していたダニーは、精神面の不調から寡作となり、夭逝が惜しまれるが、ハリウッドとニューヨークで遺した名演を収めたライヴ盤は、現在もなお、ブラック・ミュージック史における燦めく一枚となっている。
それでは、今日ご紹介したアルバムの中から筆者が印象的だった楽曲を!
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