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ファンクとレゲエの時代へ/フィリー・ソウルの脚光/ニューオーリンズR&Bの再発見

©English Wikipedia

70年代、ソウル・ミュージックは、新たな時代を迎える事となりました。

60年代、二つの都市/北部のデトロイトと南部のメンフィス、つまりベリー・ゴーディ率いるモータウンとジム・スチュアート設立のスタックスを中心に発展した同ジャンルは、時代や社会の移り変わりと共に、転換期に差し掛かります。

マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーらの革新的なアルバムによって、作品における作家性やテーマ性が確立され、画期的なサウンド含め、ニュー・ソウルとして成熟を果たします。

そして、同時期、ブラック・ミュージックの世界において二つのジャンルが目覚ましい発展を遂げていました。

その二つジャンルとは、ソウルにアフリカ音楽に共通するポリリズムやチャントのスタイルを取り入れた(1)ファンクとスカにゴスペルのスタイルやヘヴィなベース・ラインや速いテンポを取り入れた(2)レゲエです。

また、時期を同じくして、R&B/ソウル・シーンにおいて二つの都市/北部のフィラデルフィアと南部のニューオーリンズに注目が集まり、先述の二つの都市と同様に、各々の地域性の反映と共に、対照的なスタイルを表しました。

時代の寵児であるニュー・ソウルの作家達と共に、各ジャンルを牽引するアーティストや各都市を象徴するミュージシャンが現れた同時代、筆者は、ブラック・ミュージック史において最も重要な年代であったと考察しており、ソウル・ミュージックの頂点として位置付けています。

『There’s A Riot Goin’On』/Sly&The Family Stone(1971)
作品評価★★★★☆(4.5stars)

西海岸/サンフランシスコのDJ/プロデューサーとして活動するシルヴェスター・スチュアートは、フラワー・ムーヴメント期、その文化的な思想と共鳴する白人黒人の男女によって編成された一団を率いて、鮮烈なパフォーマンスを披露するが、サマー・オブ・ラヴの終焉と共に、掲げた理念も瓦解し始めていた。

スライ&ザ・ファミリー・ストーンのこの問題作は、実質スライ・ストーン単独で制作され、深くドラッグに溺れた彼は、過剰なオーバーダビングとイレギュラーなリズムボックス等によって圧縮させたサウンドを構築し、そこへ崩れゆく自身とアメリカ黒人社会を投影した。

所属レーベルや社会運動家らの圧力による疲弊も重なっていたファンクの牽引者は、活動の不安定化によってシーンの主役の座を後進に譲ったが、同時期におけるスライのその特異なスタイルは、あらゆるジャンルへの派生や拡散が示す通り、既に一つの到達点にあった。

『Back Stabbers』/The O’Jays(1972)
作品評価★★★★(4stars)

中西部/オハイオ州で結成されたエディ・リヴァート率いるヴォーカルグループは、R&B/ソウルの発展期、米国の各地に散らばる数々のレーベルを渡り歩いてきたが、この三人が眩しいスポットライトを浴びたのは、北東部/ペンシルベニア州フィラデルフィアであった。

音楽プロデューサー・コンビ/ギャンブル&ハフが主宰するPIRからリリースされたオージェイズの今作は、ハウス・バンド/MFSB擁するシグマ・サウンドにて制作され、大衆性と社会性を併せ持つ彼らは、華やかで彩り豊かな編曲に乗せて、その両面をエモーショナルに発揮した。

一世を風靡したフィリー・ソウルの代表格は、同時代のニュー・ソウルとも共通するメッセージ性を持つ作品群の積極的な発表と共に、ジャンルの多様化にも意欲的に応えつつ、同レーベルの看板アクトとしてソウル・シーンの成熟期を精力的に駆け抜けた。

『Dr.John's Gumbo』/Dr.John(1972)
作品評価★★★★☆(4.5stars)

活動の場を求めて南部/ルイジアナ州から西海岸/L.A.へ移ったマック・レベナックは、サイケデリック・ロック期、ブードゥー教なる文化から着想を得た異色の作品群を創作していたが、プロデューサー/ジェリー・ウェクスラーの進言を機に、自身の故郷における音楽文化の案内役を務めた。

ドクター・ジョンが上梓したこの記念碑的作品は、プロデュースを務めたハロルド・バティストを始めとするニューオリンズのミュージシャン達と制作され、セカンド・ラインと呼ばれる独特のグルーヴ感を齎す一座は、当地におけるR&B/ジャズ/ブルース/ロックンロールの古典によって構成された愉快なパレードを披露した。

南部志向のロック・シーンに驚きを与えた伝道師は、盟友であるアラン・トゥーサンやミーターズらと共演した次作においても、ニューオリンズ・サウンドの伝統を継承すると同時に、自身の独創性をより発揮し、ルーツ回帰を主流とする潮流において最も重要な作家の一人となったのである。

『Catch A Fire』/Bob Marley&The Wailers(1973)
作品評価★★★★★(5stars)
参考
『Catch A Fire(Jamaican Version)』/Bob Marley&The Wailers
作品評価★★★★★(5stars)

カリブ海の島国/ジャマイカの首都キングストンで始動したボブ・マーリー/ピーター・トッシュ/バニー・ウェイラー擁するヴォーカル・トリオは、同国における音楽文化の発展において非常に重要な役割を果たしたコクソン・ドッドやリー・ペリーによるプロデュース作品を経て、英国経由で大きな飛躍を遂げてみせた。

アイランドからリリースされたレゲエの聖典は、ウェイラーズの現地での録音とプロデューサー/クリス・ブラックウェルによる編集作業によって完成し、やや土着性が失われた反面、より革新性が築かれた彼らのサウンドは、ラスタファリズムの精神性を宿すレゲエ・ロックとして提示されている。

メジャーへの進出を果たしたレゲエの申し子達は、その代償としてグループの解散へと至ったが、ウェイラーズ再編成後のマーリーの奮闘は、ライヴ盤に凝縮され、トッシュとウェイラーの特性は、各ソロ作でより反映され、同ジャンルは、国際的な広がりの始まりと共に、一つの完成を見る事となった。


註(1)(2)キャサリン・チャールトン『ロック・ミュージックの歴史 下 スタイル&アーティスト』佐藤実訳、音楽乃友社(1997)


それでは、今回ご紹介したアルバムの中から筆者が印象的だった楽曲を♪

おまけ♪



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