珠玉の60sアメリカン・ポップス”モータウン/ウォール・オブ・サウンド”の躍進
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60年代の米国ポップ・シーンにおける最も重要なトピックの1つ、それは、R&Bやニューヨーク・ポップスの潮流に属する黒人グループの活躍でした。
当時、米国社会は、南部の黒人と北部の白人の学生達を中心に、公民権運動(1)が活発化していました。
メディアから南部各地の白人系団体/警察による暴動の発生が報道される中、デトロイトのレーベル/モータウンやロサンゼルスのレーベル/フィレスは、洗練された都会的な黒人グループ達を世に送り出し、白人の運営が中心の音楽業界へと乗り込んでいきます。
「あらゆる人種、宗教、政治的信条の人びとが共鳴できる愛」(2)を主な題材とする彼らの楽曲は、黒人的なセンスに興味を持つ10代の白人を魅了し、瞬く間にヒットチャートを制する事で、米国各地で生活する黒人達の社会進出を後押しする要因の一つとなりました。
そして、優秀な経営者や音楽プロデューサー、ソングライターやハウスバンドらによって制作されたモータウンサウンドとウォール・オブ・サウンドの影響は、ロック・ミュージックにも及んでいきます。
前者は、ブリティッシュ・ビートのカヴァー曲の定番として定着、後者は、チェンバー・ポップ/バロック・ポップの手本として浸透し、ロックの進展に寄与した事は見逃せません。
Smokey Robinson & The Miracles/『Going To A Go-Go』(1965)
作品評価★★★★(4stars)
それまでのブラック・ミュージックのイメージを変えたこのロマンティックなアルバムは、初期モータウンの立役者がプロデュースだけでなく、自らリードヴォーカルを務めることで誕生した。
ヒット曲の量産だけでなく、所属歌手の指導も兼任していた副社長スモーキー・ロビンソンは、丁寧に織り成した甘いバラードの数々で、存在感を放ちながら、同レーベルの時代をより彩らせた。
彼らは、ディランが評価したロビンソンの洗練されたリリックやマッカートニーに影響を与えたファンク・ブラザーズの技巧的なプレイなど職人技を光らせながら、ポップなR&Bを社会へアピールした。
The Supremes/『Where Did Our Love Go 』(1964)
作品評価★★★☆(3.5stars)
60年代半ば以降におけるモータウンの快進撃。その象徴的なグループを挙げるとするならば、男性グループではフォー・トップスであり、そして、女性グループではスプリームスである。
ダイアナ・ロスという米国の新たなポップアイコンを中心に巻き起こった彼女達の旋風は、国際的な範囲にまで及ぶ事となり、ヒットチャート面での勢いという点においては、ビートルズにさえ接近する。
ホーランド=ドジャー=ホーランドという名ライタートリオ/制作チームが手掛けた楽曲をキュートに歌うスプリームスは、ファッショナブルなスタイルでストリートを賑わせ、デトロイトを離れるまでに残した足跡は、その後の女性ポップユニットの雛形となった。
Various Artists/『A Christmas Gift for You from Philles Records』(1963)作品評価★★★★(4stars)
ティーン・ポップスの巨匠として名を知らしめた一人の奇才が60年代前半から半ばまでにプロデュースした約20曲を数えるシングル群は、文字通り時代を象徴するサウンドトラックであった。
ゴールドスターという名の異様な環境で制作されたフィル・スペクターによる独創的なサウンドは、19Cドイツ・ロマン派の偉大な作曲家ワーグナーに対する憧憬から生まれ、徹底的なオーバーダビングとミキシングによって築き上げられている。
年末商戦に合わせて発表された今作は、圧倒的なウォール・オブ・サウンドをバックに、スペクターの秘蔵っ子/ロネッツらがクリスマスの定番ソングを華やかに演じた好企画盤であると同時に、ある意味、狂気的なR&B/ポップスがコンパイルされた一枚でもある。
The Beach Boys/『The Beach Boys Today!』(1965)
作品評価★★★★☆(4.5stars)
ウィルソン家の三兄弟から構成されるカルフォルニアの好青年達の今作は、メインソングライターであるバンドの長男の異変から創作されたが、結果的に、下火となっていた西海岸のサーフロック・ブームとの距離を置く事に成功した。
度重なるリリースとツアーから疲弊していたブライアンは、スタジオ作業の専念からウォール・オブ・サウンドを習得し、従来のBBの型式に導入させる事によって、陽光溢れるカルフォルニアの風景をより眩く描いてみせた。
オーケストラが導入されたチェンバー・ポップの先駆をなしたビーチ・ボーイズは、パーティー用の商業的なアルバムの制作に追われながら、ビートルズに対抗しうる一手を提示すると同時に、実験的でプログレシッヴなポップ・ミュージックの創作に先鞭をつける事となった。
註(1)有賀夏紀『アメリカの20世紀(下)』中公新書(2002)
註(2)キャサリン・チャールトン『ロック・ミュージックの歴史 上 スタイル&アーティスト』佐藤実訳、音楽乃友社(1996)
それでは、最後に、今日ご紹介したアルバムの中で筆者が最も印象的だった楽曲をご紹介!
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