超高層ビルを「電池」に変える新技術:重力蓄電システムの未来

△概要

米大手建築設計事務所スキッドモア・オウイングス・アンド・メリル(SOM)が、スイスのエナジー・ボールト・ホールディングスと提携し、超高層ビルを再生可能エネルギーの余剰電力を蓄える「電池」に変えるプロジェクトを進めています。このプロジェクトは、重力蓄電システム(GESS)を利用し、物の重さを使ってエネルギーを貯蔵・放出する技術を超高層ビルに組み込むというものです。ブルジュ・ハリファの設計者として知られるSOMが、エナジー・ボールトの次世代GESSの構造物を設計し、脱炭素時代の新たなビル建築に挑戦します。この技術は、土地の有効利用と低コストの利点があり、数十億ドル規模の新市場を切り開く可能性があります。中国では既に商用のGESS施設が建設されており、今後は中東などでもプロジェクトが進行中です。しかし、安全性や法規制などの課題もあり、都市部での実現にはハードルが存在します。

□重力蓄電システム(GESS)とは  

○重力蓄電システム(GESS)は、物の重さを利用してエネルギーを貯蔵・放出する技術です。余剰電力を使ってブロックや水などの重りを持ち上げ、位置エネルギーを蓄えます。エネルギーが必要な時には、重りを落下させてタービンを回し、発電します。この技術は以前から知られていましたが、超高層ビルに組み込む次世代版の開発が進んでいます。SOMとエナジー・ボールトは、300mから1000mの超高層ビルを想定しており、建物の高さが2倍になれば蓄えられるエネルギーも2倍になるという特性を活かしています。

□土地の有効利用と低コストの利点  

○GESSを超高層ビルに組み込むことで、土地の有効利用が可能になります。特に都市部では土地の価格が高いため、垂直方向にエネルギーを蓄えることができるGESSは非常に有効です。また、米エネルギー省によれば、1GWh級の大規模蓄電システムの場合、リチウムイオン電池を大量に設置するよりもコストが低くなります。これにより、数十億ドル規模の新しい市場が開かれる可能性があります。

□中国での商用GESS施設の成功  

○エナジー・ボールトは既に中国江蘇省で世界初の商用GESS施設を建設中です。この施設は高さ約150mで、蓄えられる電力量は100メガワット時です。既に地域の送電網と接続し、充放電が可能な状態になっています。5月4日には試運転に成功し、中国国内で計8ヵ所の施設を建設する計画も発表されています。この成功は、GESS技術の実用性を証明するものであり、今後のプロジェクトに大きな影響を与えるでしょう。

□中東での次世代プロジェクト  

○エナジー・ボールトのロバート・ピコニCEOは、中東の不動産開発会社と次世代版のプロジェクトについて協議中であることを認めています。2026年にプロジェクトが開始できる可能性が高いとされています。中東は再生可能エネルギーの導入が進んでおり、GESS技術の適用には理想的な地域です。しかし、超高層ビルに採用する場合、建物の安全性確保がより厳格に求められるため、技術的な課題も多く存在します。

□課題と今後の展望  

○GESSを超高層ビルに組み込むには、安全性や法規制との兼ね合いが重要な課題となります。特に都市部での実現には高いハードルが存在します。スタンフォード大学の尾川氏は、「安全面や法規制との兼ね合いで、都市部での実現にはハードルがある」と指摘しています。しかし、SOMとエナジー・ボールトの協業により、脱炭素時代のビル建築の新地平を切り開く可能性があります。挑戦は正念場を迎えており、今後の進展が注目されます。

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