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フルーツサンドの天使、あるいは⑥

 次の日、トイレに行く途中で岡崎さんと偶然会った。部署を出た瞬間に廊下の向こうから彼女が歩いてくるのに気がついたが、目線をはずして彼女から声をかけられるのを待った。

「先輩、昨日はありがとうございます。無事帰れましたか?」
「昨日はお疲れさま。もちろん。俺男だから襲われたりしないっしょ。岡崎さんは?」
「私も男みたいなもんなので。」
おどけた調子で笑う。
どうやら、彼女は僕と距離の縮まりを受け入れてくれたようだった。

彼女に話しかけられたときに、居場所が定まらずに床の上をさ迷っていた右足を彼女の方向に踏み出し、会話に乗り出す。

「痴漢にあっても、岡崎さんなら笑いながら投げ飛ばしそうだよね。」
「先輩ひどすぎる。」
 ケラケラと明るい彼女の笑い声は、まるで魔よけの鈴か何かのように、僕の不安を一振りで蹴散らす。

 それから、岡崎さんとは廊下で会うたびに会話をするようになった。宮島が、たまに会話に入ってきて3人で冗談を言い合うこともあった。盛り上がって、廊下を通る上司に咳払いをされることがあったが、気にならなかった。
学生時代から集団に入ることが苦手で、一人や特定の友人と2人でいることが多かった僕が、初めて仲間と呼べる集団に属することができたような気がして嬉しかったのだ。

                         ーつづくー

※画像はめでたいこさんのイラストを使用させていただきました。素敵な作品をありがとうございます。

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