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あらためて「なぜ、学校を核とした地域創生なのか」

2017年度の1年間、学校管理職向けの月刊誌「教職研修」(教育開発研究所発行)で「しまね発!学校を核とした地域創生」という連載をさせていただいた。ちょっと時間は経ってしまったが、自分なりにそれまでの5年間の島での仕事をまとめた集大成だったので、あらためて、編集者の方に許可をいただいて、広く公開させていただくことにした。

2年前とは状況が様変わりしている。当時はまだ、地方創生の会議の中でも高校がそこまで大きく取り上げられることはなかったし、ここ数年で、大きく教育や世の中が動いた部分もあるので、そのあたりは、コメントさせていただきながら。

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まず、以下「教職研修」2017年4月号からの引用。
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「地方消滅」という衝撃的な言葉とともに、日本創成会議によって示された2040年の人口推計。地方から東京への人口流出が進むと、将来的に地方が衰退するのみならず日本全体の人口減少が加速すると言う。このような危機感から、2014年に政府による「地方創生」の取り組みは始まった。

「地域創生」と学校がどうつながるのか、と思われる方もいらっしゃるかもしれない(この連載では「地方」だけの問題ではないという意味で「地域創生」という言葉を使いたい)。地域における学校の存在意義はいくつもあるが、人口という観点で言うと、通える範囲に学校があるかどうかが定住人口維持に影響するという研究結果(*1)が報告されている。また、東京圏への転入・転出超過数を年齢階層別に見てみると、その大半は15~19歳、20~24歳が占めており、大学等進学時、大学卒業後就職時の転出入の影響だと考えられる(*2)。

これらの年齢での人口移動は、大学定員数や求人数の偏りの影響もあるだろうが、それまでの教育が生み出しているとも言えないだろうか。つまり、日本の教育が目指してきた「いい大学を出て、いい会社に入る」という価値観のある種の「成果」なのだ。ただ、この「成果」が必ずしも本人たちの幸せを実現しているかと言うと、大手企業のリストラなどの例をあげるまでもなくその限りではない。ましてや、グローバル化や情報化など急速な社会の変化が予想されるなかで、教育はこの価値観にとどまってはいられないだろう。

では、学校はどうすればよいのか。そのヒントが「学校を核とした地域創生」にあるのではないか。多文化協働力や問題発見・解決力など、これからの時代を生きていく子どもたちが必要とする資質・能力を育む観点からも、学校と地域の連携は重要である。実際に私は、隠岐島前高校での実践において、教室にとどまらず地域も学びのフィールドとしながら、教師以外の多様な大人とかかわる機会をつくることで、生徒たちが身近な地域の課題を学びにつなげたり、問題解決のために自身の資質・能力をどう活かすか、リアルな社会とどうかかわっていくかなどを認識したりする様子を見てきた。

多くの地域では、大学進学者の半分以上が他の都道府県に流出(*3)している。多くの子どもたちにとって、地元で学ぶ期間は高校までということになる。進路を選択する時期である高校時代までに、地域で学び魅力や課題に気付けば、将来そこで働き暮らすことを選択肢に入れる子どもたちも出てくる。そうすれば、いつか地元に活かすためにと外で学び、将来的に戻ってくることも期待できる。学校が地域活性の原動力になりうるのだ。

本連載では、隠岐島前高校の取り組みを振り返りながら、「学校を核とした地域創生」のために各学校ができるはじめの一歩を考えていきたい。

(引用終了)
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補足として参考資料を。
(*1)人口減少社会における学校制度の設計と教育形態の開発のための総合的研究最終報告書/平成 26 年(2014 年)3 月/国立教育政策研究所 第17章
(*2)東京一極集中の現状について/平成29年10月6日/内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局(※当時参考にしたデータが見つからないので類似資料)
(*3)県別 大学進学「流入 v.s.流出」37 県で流出超過/平成28 年9 月/(株)旺文社 教育情報センター
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ここにも書いた地方創生の流れの中で、私は海士町の地域おこし協力隊(当時)として、有識者会議に呼んでいただくことになった。当時最初の会議でお伝えした資料がこちら。5年間、切り口は違うけど同じような事を言い続けていたと思う。

昨年は、教育改革の流れや各地の動き、いろいろな方々の尽力の中で、文部科学省で「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」が始まった。各地で高校と地域が協働する基盤としてのコンソーシアムが構築されはじめた。

そして、昨年末ついに、第2期の「まち・ひと・しごと総合戦略」の「地方への移住・定着を促進」の項目の中で、若者の修学・就業による地方への定着の推進に向けた「高等学校の機能強化等」が掲げられた。この項目には以下の内容が書かれている。

出身市町村へ親しみを持つ者、高校時代までの間に地元企業を知っていた者は、将来的に出身市町村へのUターンを希望する割合が高い傾向にあるなど、自らの地域を知ることが、将来的なUターン、そして、地域の将来を支える人材の確保につながる可能性がある。小学校・中学校・高等学校では、関係する各教科等において地域に関する内容が実施されているほか、総合的な学習の時間においても、「地域の人々の暮らし」や「伝統と文化」をテーマとした取組も行われている。このように、小学校・中学校・高等学校において、各教科等の学習を通じて、地域の産業や文化等への理解を深める「ふるさと教育」等により、地域に誇りを持つ人材の育成を推進する。

これに加え、地域への課題意識や貢献意識を持ち、将来、地域ならではの新しい価値を創造し、地域を支えることができる人材の育成に向けて、高等学校の段階で地域を知り、親しむ機会を創出することが重要である。

このため、地域と高等学校の協働によるコンソーシアムの構築や、地域と高等学校をつなぐコーディネーターの配置・活用、キャリア教育、RESAS を用いた地域学習など、地域と高等学校が連携・協働して、地域課題の解決等の探究的な学びを実現する取組等を推進する。あわせて、全国から高校生が集まるような魅力的な高校づくりを支援し、高校生が他の地域の高校で学ぶ「地域留学」を推進する。また、地域経済の活性化を担う人材を養成する農業高校、工業高校、商業高校などの専門高校等においては、地方公共団体や産業界、大学等との連携・協働による実践的な職業教育を推進するとともに、実験・実習に必要となる産業教育施設・設備の充実を図り、質の高い専門的な教育を推進する。

若者が地方の魅力を知る機会が少ないことにより、東京での進学、就職を選択していることも東京圏への一極集中の要因の1つであると考えられる。このため、中高生等の早い段階から職業意識の形成を図り、地元で暮らすことの魅力や地元企業の魅力等が若者に浸透するよう地域社会全体で取組を推進する。

これまで各地で行われたきた取り組みの意義が公的にも認められた形になる。これを受けて、来年度から「高校生の地域留学推進のための高校魅力化支援事業」も始まる。

時を同じくして、昨年11月には、こうした取り組みの価値を見える化した調査結果も発表させていただいた。

こうした流れの中で、「学校と地域をつなぐ人材の在り方に関する研究会」の事務局をさせていただきながら、委員の皆さんとこれからの高校と地域に必要なコーディネート機能について、議論させていただいてきた。

詳しくは議事録も見ていただきたいが、先日今年度最後の会議を終え、改めて思うのは、これまで言ってきたような、高校生の成長にとっての地域での学びという観点、地方創生的な人づくり・新たな人の流れの観点に加え、これが「これからの社会をどうつくっていくのか」ということに直結する話なのではないかという事だ。

人口ではなく人材の時代ということをこの研究会の座長をしてくださった小田切先生も仰っている。

高校生は未来のではなく、今現在の地域社会のつくり手である。一人ひとりがつくり手になっていける地域社会を学校を一つの起点としてつくっていく。
それがこれからの「学校を核とした地域創生」なのではないかという予感を持っている。

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