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団地

5歳くらいの頃までは家族で団地に住んでいた。
元々はグリーンだったであろう外壁の塗装は剥げまくり、まだ名前のつけられていない色をしていたし、ボロボロのくせして棟の数と大きさで地域一帯に威圧感を与えるような、そんな団地だった。

近くのコンビニまで歩いて15分。
たしか、初めてのコンビニは近所の兄ちゃんのトシくんに自転車の後ろに乗せて連れて行ってもらったような記憶がある。
その頃のトシくんはたぶん高校生くらいだったけど、
学校にはいかずに団地の公園でよくタバコをふかしていた。
左腕には何かの模様が入っていたけど、
何だったのかはもう思い出せない。
トシくんの家からはよく怒声や、物が割れる音が聞こえたり、たまにパトカーが来たりしていた。
母親からは、あまりトシくんと話したらあかんと言われていたけど、僕にとっては優しい兄ちゃんだったから、当時はなぜそんなことを言うのか分からなかった。

最後にトシくんと会ったのは、いつもの公園だった。
「俺は明日から遠くに行くから、これでバイバイや」
トシくんはそう言って、ポケットから100円を取り出して僕に渡した。
「引っ越すん?」と僕が聞くと、「そうそう、引っ越しや。ほな元気でな」と言って去っていった。

しばらく経ったある日、トシくんを知らないかと家に警察が訪ねてきたと母親から聞いた。
トシくんがなぜいなくなったのかは、分からずじまいだ。

ふと、団地を見て思い出した、昔の記憶。

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