見出し画像

建築家と建築士の違いは⁉️「建築家として生きる」

本(建築家として生きる)(長文失礼します)

副題が「職業としての建築家の社会学」という、建築家の仕事を社会学的に分析し考察した本です。筆者の松村淳氏は、関西学院大学社会学部准教授の社会学者ですが、この本の内容を理解する上で、筆者の経歴を知っておく必要があると考え、概略を紹介しておきます。

筆者は上記の同大社会学部を卒業後、芸術大学建築学科の通信課程に入学し、卒業後は建築設計の仕事に従事しながら、独立に備えて1級建築士免許を5年がかりで受験することになります。
1級建築士免許には受験資格があり、建築系の大学であれば実務2年で受験資格を所得できますが、筆者の場合は建築設計の実務経験が全くないので、先ず2級建築士からの免許取得をめざします。

2級建築士免許取得後、1級建築士を受験しましたが、2回の不合格の後、新制度への移行で負担が増すため受験を断念し、結果的に建築の仕事も辞めて、35歳で大学院に入学、博士課程修了後に研究者への道を選択することになります。

よってこの本は、私も含めて建築界に従事している経験者には、分かりすぎるぐらい現状に対する説得力がありますが、逆に建築界以外の部外者の方には実感がないので、なかなかわかりにくい面もあると思います。

先ず筆者が実務経験を通して疑問を抱いたのは、建築家という職業が医師や弁護士と違い、説明根拠の最終審級がないので定義がしにくいという点です。医師や弁護士のように国家試験による免許で定義できないか1級建築士との関係も分析していますが、これも回答には至りませんでした。

逆に序章で筆者が「建築家とは、建築家に特有の信念を共有する人たちであること」と述べていますが、この特有の信念という言葉が「建築家のエートス」というもので、この言葉が建築家と定義する共通言語として、全編に出てきます。

また「建築家とは、建築家界における卓越化のゲームに掛け金を持って参加する者である」とも書いています。先ず建築家の学歴(東大や早大などの有名大学)や社歴(有名アトリエ事務所での勤務)、受賞歴(各種コンペでの受賞)などが資本となり、自らの建築作品が掛け金となります。作品が賭けに勝つとレートがあがり、さらにゲームを勝ち続けるという訳です。

この本にもたびたび登場する安藤忠雄氏や隈研吾氏などのスターアーキテクト(つまり有名建築家)と「周辺」(スター以外の存在)建築家のギャップ。さらに零細企業が多い建築設計事務所の厳しい経営状況などを分析しながらも「建築家のエートス」を貫いて、赤字になりながらも作品を作り続けると分析しています。

以下は設計事務所を主宰する建築家の言葉ですが、
「食えないがやりがいのある仕事」「儲からなくても仕方がない」「お金よりも大事なものがある」云々です。

建築家が芸術家であるのに対して、建築士が技術者であること。1級建築士が建築設計にとって必要条件であっても決して十分条件ではないこと。建築家と設計者は別の次元の職業であり、前者が上位に位置することなど、建築界ではもはや誰もが認識している常識な訳です。

建築家の今後の展望について、「建築家のエートス」にこだわらない、設計だけに留まらない地域に根付いた幅広い職能の「建築師」や、設計と施工も分離しなくて何でも行う「まち医者的建築家」、地域とのコミュニケーションを通して街作りに貢献する「タウンアーキテクト」などの例を挙げています。

もはや従来の有名建築家や周辺建築家の価値観であるエートスだけでは、職業としての将来性も展望が見通せないのではと、同じ建築学科を卒業して設計事務所を経営している先輩や知り合いからのヒヤリングなどを加味して、そう実感しました。

#本 #建築家として生きる #建築家 #建築士 #安藤忠雄 #隈研吾 #晃洋書房

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?