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日本の#MeToo のきっかけとなった伊藤詩織さんのエッセイ集「裸で泳ぐ」

本(裸で泳ぐ)

性被害を実名で公表して加害者を提訴したジャーナリスト伊藤詩織さんのエッセイ集です。前作の「Black Box」がジャーナリストとしての観点から、客観性を重視した冷静な文章だったのに対して、今回はエッセイというスタイルで、筆者の本音の部分が多く語られています。

筆者は25歳だった2015年4月3日に被害に遭い、7年後の今年に出版されたこの本には昨年6月からのエッセイが掲載されています。

事件翌日の朝にタクシーから見た桜をしばらく見ることができなかったこと、事件の夜に寿司屋で飲んだ日本酒をしばらく飲めなかったこと、悪夢にうなされたことなど、事件後の7年間は、ひたすらトラウマ(心的外傷)体験によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんだ連続であったと書かれています。

さらに実名を公表して提訴したことによるSNSでの誹謗中傷が絶えず、筆者は一時期日本を脱出してロンドンで生活する程でした。
犯罪を実名で告発したことに対するSNSでの誹謗中傷やバッシングは、SNSの大きな特徴ともいえる現象で、最近でも性被害を実名で告発した元自衛官の女性にも同様のバッシングが起きています。

被害を告発することに対してなぜ誹謗中傷するのか、大いに疑問視する所ですが、今回の伊藤さんの場合は、加害者が権力者(元首相)に近い存在だったので、その取り巻き連中が攻撃したと考えられますが、もはやモラルの欠片もない中傷攻撃だと思います。

文中、以下の文章が書いてあります。
「閉ざされた扉の中で行われた行為は、結局その当事者がどのくらい信頼できる人間なのかによって判断され、裁かれる。しかも、その「信頼」とは人間性に対するものだけではない。社会的ステータス、出身大学、役職、家柄…まるで日本にも見えないカースト制度があるかのように」

加害者を提訴した刑事訴訟では不起訴になりましたが、民事訴訟では最高裁が双方の上告を棄却したため高裁の判決が確定して勝訴となりました。

最後の「あとがきにかえて」で、この7年間でサバイビンブ(生き延びる)からリビング(生きる)に変わったと思えたのが大きかった、と述べています。トラウマから懸命に生き延びて、やがて生きることの意義を実感できるようになった。改めて女性の強さを実感した1冊でした。

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