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元記者の内部告発ノンフィクション本「朝日新聞政治部」

本(朝日新聞政治部)(長文失礼します)

朝日新聞の敏腕記者だった鮫島浩さん著の本です。将来を嘱望された政治部記者でしたが、福島原発事故の吉田調書報道問題で退社し、現在はフリーのジャーナリストとして、ツイッターなどのメディアで発信を続けています。

京大法学部を卒業後に朝日新聞に入社してから、退社するまでを異動などを交えて時系列的に綴っていますが、本の帯にもあるように内部告発のノンフィクションとなっています。

実は私も中学生の頃から朝日新聞を読んでおり(当時は入試問題で朝日新聞が多用されるので、受験に有利ということで読み始めた記憶があります)、今でも購読しています。勿論日経流通新聞などの専門紙も併読していますが、総合紙は一貫して朝日を読んでいます。

内部告発として先ず筆者が指摘するのは、「朝日新聞には役所以上に内向きで足を引っ張り合う官僚体質がある」というものです。これは私が大学生の頃には、一部識者の間では半ば常識として認識されていました。
さらに「民主党政権の頃までは、社内に管理統制を好む官僚的な人々と、個々の記者の意思を尊重する人々がせめぎあっていた」とも書かれています。 

つまり官僚的な体質は社の特徴としてありながらも、権力を監視し不正を告発する新聞社本来のジャーナリズムは存在していたというものです。日本の良識と言われた朝日新聞本来の姿がそこにあり、筆者もそうした社風が好きで入社してきたと思います。

筆者が退社の原因となる吉田調書とは、福島原発の所長であった吉田氏の待機命令を聞かずに、所員が別の原発へ避難したことを、筆者がデスクの取材班がスクープした記事でした。ただ実際に命令を無視して非難したのが外部から疑問視されるようになり、筆者たちは続報で説明不足を補おうとしましたが、このスクープを新聞協会賞に申請しようとする社長は拒否、読者のための新聞ではなく、会社のための新聞に成り下がったと、筆者は糾弾しています。
そうした当時の経営陣の対応が問題を複雑・巨大化させて、ついに虚偽報道と社長会見で認めてしまうことになります。さらに社長に異議を唱えない独裁体制が確立してしまったことも背景にありました。

筆者に言わせれば、ここがリスクマネジメントの初期段階での最大の過ちであり、結果的に朝日新聞の社会的な信用を大きく失墜させることになりました。さらにその責任を筆者も含めて取材した自社の記者へと責任転嫁をしたことに対して「朝日新聞は死んだと思っている」とも語っています。

それ程までに官僚体質で硬直化した組織ではもはや発信もできないと、筆者は退社を決断します。最終章で述べていますが、「この会社に欠けているのは危機感と決断力だ」と。

朝日新聞に限らず組織が巨大化すると、官僚体質で硬直化してしまう懸念は避けられない側面もありますが、それ以前に権力に忖度せずに、自由に意見が発信できるジャーナリズムとしての基本が前提にあるはずです、
長年の朝日新聞の購読者としても、こうした内部告発で暴かれた弊害を克服して、かつての日本の良識としての朝日新聞が再生することを願ってやみません。

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