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トシちゃん 再評価の嵐

世の動画サイトが充実してきてからかれこれ15年、何年も前に例の「ビッグ発言」の誤解は解け、トシちゃんパフォーマンスへの再評価はさんざんなされてきました。ただ、その評価はリアルタイム世代の人々によるものであって、これからの課題はその功績を次世代に受け継いでいくということでしょうね。

まず、なぜリアルタイム世代が再評価しているか。それは、ダンスの実力と歌唱力不足の克服に対するリスペクトだけではないと思っています。80年代にトシちゃんファンではなかった一般の人々は、トシちゃんを……(言葉が悪いけど書いちゃう)「おバカっぽい」と思っていたのです。当時、世間の人々はアイドルを、特にジャニーズを「中身も実力もない見た目だけの子供だまし」と思っていて、その一番の象徴がトシちゃんでした。

トシ食べる Heibon Sep. 1984 - コピー
magazine h  1984

80年代前半はキラキラ・フワフワ70年代のウェットで重い雰囲気から脱し明るく軽薄な時代が始まり、トシちゃんという素材はその世相にマッチしました。あ、近藤マッチの存在もありましたが、マッチはヤンキー担当。当時、有名なコラムニストが「日本人の9割はヤンキーとファンシーでできている」との表現を紹介していましたが、それに当て込めると、トシちゃんがファンシー担当。「こんばんわぁ☆ 田原俊彦れす」「アハハハハ、バカだね~♪」といったノリ。これが時代にピッタリ合いました。

以前の記事で「80年代前半の主役は聖子ちゃんとトシちゃん」と書きましたが、トシちゃんは「80年代そのもの」。ザ・80年代。バブルへ向けて日本が突き進んで行くとともに、トシちゃんも軽薄ヤングから大人へと成長していきました。ただ、やはり当初の「こんばんわぁ☆ 田原俊彦れす」の印象が人々に強く残ってしまってた。トシちゃんを好意的に見る人でも「ダンス上手かったよね、歌ヘタだけど」といったところでしょうか。

また別の記事で「トシちゃんにはムーンウォークの印象無いし、広めたという位置づけではないと思う」と書きましたが、それは別にトシちゃんをディスっているわけではないのです。トシちゃんは何かの技や単発の曲でイメージされる歌手ではなく、80年代という時代を体現した存在だということ。時代を創ったりリードしたりというのではなく、時代が生んだ「申し子」。でも、ただ時代に乗ったのではなく、年々着実に成長し、後期には成熟した歌とダンスで80年代を完成形で締めくくったという、成長と実力でもって80年代を担った人物だと思うのです。

Heibon 1985 - コピー
magazine h  1985

だから現在、パフォーマンスだけでなく「時代の象徴」として評価されているのだと思います。かつてのトシちゃんを見るとき、普通の懐メロのように「ああ、あの曲が流行ったとき、私はあんなことしていたな」と振り返るのではなく、まるまる80年代というスパンで当時の空気や流れに身を浸らせるようなタイムトラベルができるのです。