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和裁技能士の今後について考えてみた

少し前に、着物ユーザさんや和裁職人さんに
お仕立て代について聞いてみた結果をまとめてみました。

その前に、袷の着物を1枚縫うのに、どれくらいの時間がかかるかですが
反物が手元に届いて、検反して、地直しして、見積もりして
標つけして、縫って、仕上げして、たとう紙にいれるまで
私の場合、30時間くらいかかります。
この時間の中には、ご要望をお聞きするやりとりや
寸法を細かく決めていくやりとりや
柄合わせの好みをおうかがいするため
実際に写真を撮ってお見せするやりとりなど
一切含まれていません。
全てが決まってから、あとは仕立てるだけ、の状態から30時間かかります。
柄合わせの難しいものや、絵羽のものだともっとかかります。
そこを頭の隅に置いて、読んでいただけるとありがたいです。

【着物ユーザさんがお店に払っている小紋のお仕立て代】
2万円台が多い結果でした。


【和裁職人さんが、お店から頂いている小紋のお仕立て代】

1万円台が半数以上でした。


【着物の工料について】
和裁職人仲間に協力してもらい
小紋以外の工料を、調査した結果が以下の通りです。
黒字が、呉服屋さんや悉皆屋さんからいただいている工料です。
お客様が呉服屋さんや悉皆屋さんに支払っている金額ではなく
呉服屋さんや悉皆屋さんが、職人に支払っている金額です。

ピンク字は、ネットに載っていた海外縫製でお願いした場合
お客様がお店に支払う金額です。

2024年4月の段階で、海外縫製の価格を下回っている職人が多いということに驚いたのはいうまでもありません。

2024年4月調査

なぜ、このようなことになっているのか…

職人の情報収集不足

時代と共に、ネットで仕立て代がいくらくらいか収集できるが
自分で調べず、数十年前のまま現在に至る。

交渉できない

他の職人がもらってい金額をなんとなく知ってはいるものの
仕事をもらっている立場から、工料について交渉できない。
交渉しても、鼻であしらわれたことがあり、交渉する気持ちが萎えてしまった。
納期や枚数を融通してもらっているため、そもそも交渉できない。

交渉しにくい背景

お店と、契約書のようなものを交わしおらず
全てが曖昧なまま仕事をしている、という点も挙げられます。
呉服屋さんや悉皆屋さんから仕事を受ける時には、
書面で契約を交わし
「工料は、毎年見直す」
という一文を加えると良いかと思います。
この一文だけに限らず
仕立てにかかる糸代他の付属品はどうするか
出来上がったものは持ち込みか、取りにきてもらうのか
仕立て代は、取りに行くのか、振り込みか、などなど…

ちなみに、こういう交渉の仕方や、契約書の書き方の他に
確定申告のやり方、開業届の出し方など
自営していく上で、必要なことを
技能士協会や士会、和裁学校で、教えてくれても良いと思うのですが
そういうことを、これまでにやったことがあると聞いたことがありません。
ただ、「個別に質問してもらえればお答えすることは可能」
という話も小耳に挟みました。
聞きたいことがある場合には、協会や士会に入会して
どんどん質問してみてはいかがでしょうか。


【和裁職人の年齢について】
和裁職人に年齢を調べてみた結果です。
概ね、想像通りでした。
これから10年したら、ぐんと減り
20年したら、本当に、絶滅危惧種。
海外縫製か、外国人技能実習生に頼るか…
着物ユーザーも減っているから
困らない程度で、細々続く業界になるか…

和裁職人の数が、どんどん減っている資料としては
技能検定の受験者数を見ればわかります。
下記記事の、下の方に、受験者数の推移を載せています。
全国での数字で、受験者数であって、合格者数ではありません。


日本全体での若者の減少率や、他の職業の減少率に比べて
和裁職人の減少率がどうなのか気になるところです。
ただ、食べていけない職業なら、減って当然…

和裁で、どう生活していくかが課題であり
これからの職人が、普通に仕事をすれば、普通に食べていけるよう
少し先をいく私はなんとかしなければと
お仕立て代を、上げていこうと思いました。

私個人が、お仕立て代を上げたとしても何の効力も持ちません。
ただ、同じ考えの職人も少なからずいてあげていく努力をしています。
また、呉服屋さんの中にも、減っていく職人に危機感を持って
仕立て代アップに賛同してくれているところもあります。

お客様には
着物を気軽に楽しめる価格でなくなってしまうため大変心苦しい…
それでも、依頼してよかったと思っていただける仕事をするしかないです。
和裁の技術を、途絶えさせないように、細々と。

これが、和裁の未来のために、私ができること。

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