夢うつつになりながら眠るのだ

 限りなく虚無に近しい感情を抱えながら、その日は夜を迎えた。最近はやっと暑さが収まってきたというのに、今宵はどうも肌寒さを感じる。布団を取りに行くにも億劫で、半ば不機嫌のまま毛布に包まる。どうにもこうにも機嫌が悪いのだ。
 眼を閉じながら、夢の入り口を探す。それはパズルのピースを一つ一つ丁寧に確かめながら合わせていく作業にそっくりだった。全てのピースが完全的に飽和状態になった時、夢へと誘う使者が現れるのだ。
 彼は水面に映る人影のようにゆらゆら揺れて、しかしその場にとどまることなく一歩ずつ近づいてくる。最後のきっかけが埋まるのを、舌なめずりしながら待っている。
 それは彼にとっては人をそこに引きずり込むための、証明書のようなものだ。若しくは食券のようなものかもしれない。とにかく彼はすぐそばまで来て、僕の境界がまばらになるのを荒い息づかいで待っているのだ。
 眼を閉じてからゆっくりと埋まっていったピースは、車が加速をするように急速に埋まり始めていた。あともう少しで僕は、彼に両肩を掴まれて水面の奥底に消え去ることができる。
 僕は今すぐにでもそうなることを望んでいた。彼は僕にとっては救世主で、僕も彼にとってはそうなのだ。
 その時肩をつかまれた気がした。水面から湖の奥底まで彼は僕を押し込んでくれるだろう。それが何よりも今は心地よいのだ。
 彼に触れた時僕は空洞なる渇きを彼に見た。

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