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【読影のポイント基礎編】避け続けてきた心電図

はじめに

 心電図って難しいですよね。何度か勉強しようと意気込むものの、その人それぞれ微妙に違う波形ですし、貼る位置によっても波形は変わって来るので参考書通りにはなかなか行かず、「まぁ、有名どころと致死的不整脈さえ押さえておけはなんとかなるか」と自分に言い聞かせ、避けてきました。そんな断念してきた自分への戒めで今回まとめていきたいと思います。自分なりにわかりやすく噛み砕いてまとめていきますので、同じように断念した方もぜひ一緒に戒めとしてお付き合い下さい。


心電図とは

 心臓はごくわずかな電気刺激によって興奮することで収縮と拡張を繰り返しています。この電気の流れを体表から読み取り記録したものが心電図です。そして、この電気刺激はちゃんと通り道が決まっており、その一連の通り道のことを刺激伝導系と言います。電気刺激の伝わり方は図1の通りです。

刺激伝導系
図1:刺激伝道系

 この心電図の波形から、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患、不整脈、心房負荷や心臓肥大、電解質異常などの可能性を予測でき、多岐にわたる疾患の診断に役立ちます。侵襲も少ないため心疾患を疑う時にまず行うべき検査として活用されています。

心電図波形と心臓の動きの関係

 心電図波形はどのような意味を表しているのか、心臓の動きとリンクしてみるとわかりやすいです(図2)。
 まず、洞結節で発生した電気刺激は右房と左房へ伝わりそれぞれの心房を収縮させます。この時の波形がP波です。洞結節は右房に存在するため、実は左房よりも右房の方が早く収縮しています。この観点は後述するP波の解説時に役立つので覚えておくと理解がスムーズです。
 次に、電気刺激は房室結節、ヒス束を通って右脚と左脚からプルキンエ線維へ伝わり、それぞれの房室が収縮します。この時の波形がQRS波です。そして最後に心室の興奮が回復する過程でT波となります。この一連の流れが正常に行われることを洞調律と言います。
 つまり、P波は心房の興奮を、QRS波からT波は心室の興奮を表しています。

刺激伝導系
図2:刺激伝導系と心臓の動き

心電図の基礎知識

 心電図を判読する為には必ず知っておかないといけない2つの知識があります。ここはまず覚えましょう。

記録紙の目盛りの単位

 記録紙は図3のような方眼紙になっていて、1mm間隔の細い線、5mm間隔の太い線で構成されており、横軸が時間、縦軸が電位を表しています。ここで抑えるポイントは、横軸1mm=0.04秒、縦軸1mm=0.1mVという点です。記録紙の目盛りがわかるようになれば心電図の波形が正確に読み取れるようになります。

心電図の記録紙
図3:心電図の記録紙

心電図波形の基準値

 心電図を判読する際に波形の形だけではなく幅や高さも診断材料になります。いきなり図4のような基準値を全て覚えるのは難しいと思いますが、最低限押さえておきたい点は“PQ間隔・QRS波の幅・QT間隔”の3点です。自分はそれぞれを“0.2秒・0.1秒・0.46秒”と覚えていますが皆さんの覚えやすい方法でいいと思います。また上向の波形を陽性波、下向きの波形を陰性波と言います。

図4:心電図波形の基準値

各誘導と心臓の電気刺激を観察する方向

 これはもう視覚的に見た方が理解がしやすいと思います。図の矢印の方向に向かう電気刺激が陽性波、逆が陰性波として記録されます。

基本波形の判読

心電図に関する基本を押さえたところで、ようやく判読に臨めます。基本波形のそれぞれの特徴や視点をまとめていきます。

P波から分かること

 簡潔に表すと“興奮が心房に正しく伝わっているかどうか”がP波の全てです。実はP波は二つの波からできています。図5のように前半部分が右房の興奮、後半部分が左房の興奮を表しています。正常な洞調律の場合、洞結節のある右房から左房や心尖部へと興奮していきます。そのため、電気刺激は左方・下方を示すⅠ、Ⅱ、aVF、V5誘導の方へと向かい、これらの誘導で陽性波になるはずです。

図5:P波の構成

 一方、右房のすぐ前に位置するV1誘導は興奮が近づいた後に遠ざかるためP波の前半が陽性、後半が陰性の二層性波になります。図6を見るとイメージしやすいです。

図6:V1からみた興奮の様子

 つまり洞調律と判断する為の条件とは、以下の3点を満たす時になります。

  • Ⅰ、Ⅱ、aVF、V5誘導で陽性波

  • V1誘導で二相性波

  • 各心拍で同じ形をしている

図7:洞調律の12誘導心電図

 次に異常な形のP波を判読していきます。P波の変化を読み取るときは、まずⅡ誘導を判読し、次にV1誘導でより詳細に判読していくと分かりやすいです。
 P波は小さな波形ですがよく見ると3つの形に分類できます。図8にあるように、1つは正常波形で2つ目が高く尖った尖鋭P波と呼ばれる異常波形、3つ目がふたこぶに分かれた二峰性P波と呼ばれる異常波形です。尖鋭P波は右房に負荷が、ニ峰性P波は左房に負荷がかかった状態です。

図8:Ⅱ誘導で見られる異常な

 右房に負荷がかかる病態は肺気腫をはじめとするCOPDや肺塞栓、気管支喘息などの肺疾患、右心不全などが挙げられます。対して左房へ負荷がかかる病態は僧帽弁閉鎖不全症や狭窄症などの弁膜症、心筋梗塞、心筋症、高血圧、左心不全などが挙げられます。それぞれの12誘導心電図を図9.10で示します。

図9:右房負荷の心電図波形
図10:左房負荷の心電図波形

 また、P波がⅠ、Ⅱ、aVF、V5誘導のいずれかで陰性波であった場合、同結節とは異なる心房のどこか別の場所から刺激が発生し心臓が動いていることになり、この状態を異所性心房調律と言います。本来の洞結節からの刺激が異所性心房調律よりも遅い際によく見られ、この場合運動などで洞結節からの刺激頻度が増加すると正常の洞調律のP波が現れます。
 さらに、Ⅰ誘導でP波が陰性で、かつQRS波も下向きの場合、電極のつけ間違え(図11)か右胸心と判断できます。右胸心の場合、特徴的な波形変化があるためこの2つはその点で見分けていきます。通常、胸部誘導のR波はV1−6誘導にかけて徐々に高くなりますが、右胸心の場合は徐々に低くなります。(図12)

図11:電極のつけ間違え
図12:右胸心の心電図

 右胸心とは心臓が左右逆に位置し、心尖部が右側を向いている状態です。(図13)1000人に1人の発生頻度で、心臓のみが左右逆の場合と、その他すべての臓器が左右逆に位置する完全内臓逆位があります。右胸心の方へは電極やAEDパットは左右逆に貼付します。

図13:右胸心のレントゲン写真

QRS波から分かること

 心室の興奮を表しているのがQRS波であり向きや幅に注目すると寝室へ興奮が正しく伝わっているかが分かります。大きく尖った上向きの波形をR波、R波の前にある下向きの波形をQ波、R波の後ろにある下向きの波形をS波といいこれらをまとめてQRS波と言います。QRS波と一言で言っても形はさまざまであり、それぞれ図14のように呼称の定義もありますので確認しておいてください。また、QRS波形からは心臓が体内でどのような状態で位置しているか(回転方向や心臓の軸)を読み解くこともできますが今回は割愛します。

図14:QRS波の呼称と波形

 よく臨床で心電図に関してブロックという言葉を耳にします。刺激の伝導障害のことで、右脚ブロックと左脚ブロックという言葉は一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。実際に興奮がどのような過程で行われているかイメージできるよう図を用いて解説していきたいと思います。

図15:完全右脚ブロック
図16:右脚ブロックの刺激伝導系の様子

 まず図15に示したものが完全右脚ブロックの心電図です。ここでの判読のポイントは右側胸部誘導V1−3誘導でR波がジグザグと二つに分かれていたら図16のように心室に興奮が伝導する際に右脚に伝導障害、つまりブロックがあることを表しています。この所見を見たら右脚ブロックと判読します。右脚ブロックはしばしば健常者にも見られます。

図17:完全左脚ブロック
図18:左脚ブロックの刺激伝導系の様子

 次に図17に完全左脚ブロックの波形を示します。この判読のポイントはV5−6誘導でQRS波の幅が3㎜以上に広くなっていたら左脚ブロックと判読します。
 図18のように右室から左室へと伝導するためV1−3誘導から見ると遠ざかる興奮を表しR波は小さくなります。一方で左室へ向かう刺激はブロックにより時間がかかるためV5−6のQRS波は3㎜以上になります。左脚ブロックは健常者ではあまり見られず背景に何らかの原因疾患がある可能性が高いため精査が必要です。

 最後に、図14にあるQS波と異常Q波についてまとめます。R波がないのでQともSとも名付けられない大きく下向きに尖った波形をQS波と言います。また、幅が1㎜以上でR波の高さの1/4以上の深さのQ波を異常Q波と言います。
 まずこれらの波形を見つけたら、陳旧性心筋梗塞を疑います。QS波が認める誘導から梗塞領域が診断できます(図19)。

図19:QS波、異常Q波と心筋梗塞部位の関係

 いくつか心筋梗塞の心電図をもとに見ていきましょう。

図20:陳旧性心筋梗塞


図20の心電図を判読していくとV1−4誘導にQS波が見られます。この領域を図19と照らし合わせて見ていくと陳旧性前壁中隔心筋梗塞と判読できます。

図21:陳旧性心筋梗塞

 続いて図21の心電図を見ていきます。Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導に、幅が1㎜以上あり、
深さがR波の1/4以上の異常Q波を認めます。この領域は下壁と分かるので陳旧性下壁梗塞と判読できます。

 このようにQRS波からもさまざまな情報を得ることができます。他にも低電位から心タンポナーデが予測されたり、心肥大など心臓の状態の予測につながる情報を得ることができQRS波だけでも重要な情報がたくさん得られますね。

ST部分から分かること

 QRS波の終わりからT波の始まりまでがST部分です心室の興奮が回復するまでの過程を表しています。正常では基線と同じ高さになりますが、ST部分が上昇または低下している時は異常と判読します。    
 心筋の虚血の程度によってST部分に変化が生じます。狭心症などで心内膜側のみに限局した虚血に対してST低下を認めます。さらにこれが心筋梗塞などで心内膜側から心外膜側まで全層に渡り生じる(貫壁性虚血)と心電図ではST上昇を認めます(図22)。 

図22:心筋虚血とST変化の仕組み

 梗塞部位と異常波形の関係は前項での図19で示した部位とほとんど同様ですのでどの誘導でST変化が起きているかを判読することができれば梗塞部位の予測へも繋がります。
 特に学んでいく中で知って良かったと思った内容が、Ⅱ,Ⅲ,aVF誘導にST上昇を認めた際、急性下壁梗塞と判読できますがこの場合は右側誘導の記録も重要ということです。一般に右冠動脈の近位部中間部は右室領域を灌流し、遠位部は左室の下壁領域を灌流します(図23)。その為、遠位部である下壁梗塞の疑いがある際は、近位部である右室梗塞も併発している可能性があることを考えなくてはいけません。

図23:右冠動脈の灌流領域

T波から分かること

 QRS波の後のなだらかな山がT波で、心室興奮の回復を表しています。この過程を再分極と言います。正常なT波はⅢ,aVR,V1誘導以外でなだらかな陽性波になります。上りが緩やかで下りが急な左右非対称となっています(図24)。
 そのため、高さが1mV以上の場合や陰性波、左右対称の場合は異常と判読します。T波は心筋の電気現象を反映しやすい波形のため心筋障害や心室筋の電気的な安定性の判定に有用です。

図24:さまざまな異常T波

 異常T波をきたす原因は沢山ありますが前項でいくつか載せた心筋梗塞の心電図波形の図にも陰性T波や尖鋭T波は多くありますね。また、左右対称のT波のことを冠性T波といい虚血によって現れるのが特徴です。

図25:異常T波をきたす原因

QT間隔から分かること

 QRS波の始まりからT波の終わりまでの間隔をQT間隔といい心室の興奮の始まりから終わりまでを表しています。しかし、QT間隔は心拍数の影響を受けて変化するため補正した補正QT間隔(QTc)を用いて評価します。これはBazettの式で求められます。

 一般的にQTcはⅡ誘導かV5誘導で計測が推奨されています。QTcが男性で0.44秒以上、女性で0.46秒以上をQT延長と言います。ですが臨床的には“0.46秒以上で注意、0.5秒以上で危険”と覚えておくといいでしょう。
 QT延長はRonT型心室期外収縮が誘因となって発生するトルサード・ド・ポワンツ型心室頻拍や最も危険な心室細動など、失神や突然死を招くリスクが高くなります。失神を主訴に来た患者にはMRIだけでは無く心電図も要注意ですね。QT延長の誘因は主に薬剤性や電解質異常で多く見られます(図26)

図26:QT延長の誘因因子

まとめ

 少しボリューミーになってしまいましたが、今回の内容は結構さらっとまとめた上に基本的なものになるので、いざ臨床で生かそうとなるとより深い知識が必要になります。
 ただ、私のように今まで逃げてきた人にとってはこの内容だけでも心電図を深く知るきっかけになるのではないかなと思っています。
 次回はいざ12誘導心電図を計測した際、臨床でより活かせるよう判読していくコツなどをまとめられたらと思っています。最後までお付き合い頂きありがとうございました。


参考文献
大島一太 これならわかる!心電図の読み方 

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