個人と組織を活性化させるジョブ・クラフティング(3)

※2018年7月~2019年4月に『地方公務員 安全と健康フォーラム』に掲載したジョブ・クラフティングに関する連載を転載します(全4回)。なお,同誌発行元の地方公務員安全衛生推進協会より転載許可を得ています。同協会のご厚意に感謝いたします。

第3回:さまざまな機会をとらえ自分らしさが発揮できるよう部下を促し、変化を観察しよう


今回は、「仕事やそこでの人間関係に小さな変化を加えることで自らの仕事の経験をつくり上げていく」という、ジョブ・クラフティング(JC)を、職場で促進する手がかりを取り上げます。

3点から引き出すJC促進を考える手がかり
 JCは本来、働く人たち一人ひとりが自ら行うものです。したがって、上司が的確な指示を与えればJCが実施されるという具合には進みません。JC促進には、一人ひとりの個性を踏まえた後押しが求められます。
 しかし、JC促進に有効なマネジメント手法は十分に確立されてきたとはいえません。そこで、J促進を考える手がかりを、以下の3点から引き出し、それを基に実践への落とし込みを検討します。最初は、JCを行おうとする個人のために作成されたエクササイズです。第二は、JC促進の介入研究の手続きから得られます。第三の手がかりは、前回取り上げたJCへの影響要因です。こうした要因に変化を加えることを通じて、JC促進を図ることができるからです。

ジョブ・クラフティング・エクササイズ
 JC概念の提唱者であるレズネスキーらは、JCを計画するための、4ステップからなるエクササイズを開発しています(図)。

画像1

 最初は、仕事の棚卸しです。業務ごとにかかる時間やエネルギーを確認し視覚化します。この作業でさまざまな業務に携わっていることが改めて認識されることも多いでしょう。
 次に、自分の動機、強み、情熱を改めて分析します。他の人と同じ仕事を担当しているように思えても、取り組みに当たり、何に情熱やモチベーションを注いでいるかは、それぞれ異なります。新しいスキルを伸ばすことが情熱になっている人もいれば、顧客との関係構築がモチベーションになっている人もいます。また、それぞれの強みが違っていることもよくあります。
 以上の分析を踏まえて、ステップ3では自分の強みを生かしたり、仕事から充実感を得やすくなったりするように、業務や人間関係の境界の見直しに取りかかります。たとえば、強みを生かせるような業務に対してもう少しエネルギーを費やす、情熱を持って取り組める新たな業務を追加してわずかな時間を配分する、自分の動機から外れている業務に充てる時間を絞るといったアイデアを出し、業務の再構成を図ります。併せて、業務の変化に伴う人間関係の境界の変化についても思い描きます。
 最後に、見直した業務全体を俯瞰し、グループ分けしてみます。自分の動機や強み、情熱を踏まえつつ業務をグループ分けすることを通じて、自分の役割や担当する仕事の意味をとらえ直します。
 このエクササイズから得られるJC促進に向けたヒントとしては、「仕事の棚卸しをしてから、自分の強みや情熱を再確認するという流れ」を取ることです。自分の強みや動機を仕事に生かすことを考えるように言われても、戸惑ってしまう人は少なくないでしょう。具体的な業務とそれに要する時間を整理したうえで、何について自分が情熱を持てるのか、強みを発揮できるのかを考えてみることで、JCのアイデアが浮かびやすくなります。近年では「働き方改革」推進の一環として業務の棚卸しが推奨されています。そうした機会を活用し、業務内容の見直しに当たって「自分らしさ」をひと匙入れるように誘導し、後押しすすれば、JCを促進する機会になるでしょう。

介入型ワークショップからの知見
 JCエクササイズなどを活用し、現場に介入してJCの促進を図る研究が少しずつなされています。このような研究ではワークショップなどを行い、その効果を測定しています。こうしたワークショップを職場で実施することは難しいかもしれませんが、ワークショップの手法にはJC促進のヒントが含まれています。
 ワークショップでは、最初にJCについて説明を受けた後、グループをつくってこれまでの個人的なJC経験を思い起こし、紹介し合います。そのうえで、先に紹介したようなエクササイズを実施し、どのようなJCをこれから実行するか、具体的な計画を立てます。数週間経ってから、計画のフォローアップのために再度集まり、計画が実行されたかどうかを振り返ります。こうしたワークショップの実施がJC促進に対して効果があることは検証されています。
 ここから得られるJC促進に向けたヒントとしては、通常業務のPDCAのように、JCの実行についても計画を立て、その進捗を確認することの意義です。たとえば、多くの組織で実施されている目標管理制度の運用において、自分の強みを活かす形で業務に何か変化を生み出すといったことを目標の一つに組み込むことが考えられます。
 また、ワークショップでなされているように、お互いに個人的なJC経験を話すことも、JCを実施することへのハードルを下げる効果があります。目標管理やキャリア開発についての面談などで、上司が自らのJC経験を語れば、部下がJCを行う後押しになると考えられます。過去に行ったJCがきっかけとなって、上司自身の仕事に対するかかわり方や周りとの関係性などがポジティブに変化した経験を共有すれば、部下にとってよい刺激になるでしょう。

自律性の向上とフィードバック
 JCに影響を与える要因(前号・連載第2回)の一つに、仕事の自律性があります。そこでも指摘したように、管理者が部下に対してエンパワーメント(権限移譲)を図ることで、部下は自分自身の工夫や思いを仕事に反映させやすくなります。どの程度エンパワーメントできるかは、業務の特性や部下の能力などによって異なりますが、部下が「これまでよりも、自分で物事を決められるようになった」と感じられれば、JC促進にとって効果的です。
 同じく前回紹介したように、JCを一度試してみたことが次のJCを誘発する可能性もあります。こうしたJCの循環性を踏まえ、部下自身が自発的に何らかの変化を生み出したならば、たとえそれが少しずれたものであったとしても、頭ごなしに否定せずに肯定的に受け止めて、次のJCの芽へと育つように助言を与えるとよいでしょう。最初の変化は、些細なもので十分です。部下が、自分で仕事を変えられるという実感をもつことで、JCの動機が高まることが期待できます。

 ポジティブ・メンタルヘルスの増進に寄与するJCの促進に関して、「こうすれば必ずうまく進む」という絶対的な処方せんはありません。今回取り上げたように、さまざまな機会をとらえて部下が自分らしさを発揮できるように促し、現れた変化を丁寧にフォローすることがJC
促進の基本といえるでしょう。
 JCは個人が行う活動ですが、JCが他のメンバーの業務にどのように影響を与えているか観察することも必要となります。そうしたチーム内の影響なども含めた、JC促進を行う際に注意するポイントなどを次回に取り上げたいと思います。

初出:『地方公務員 安全と健康フォーラム』第108号

他の回へのリンク

第1回 メンタルヘルス0次予防推進の重要な視点となるジョブ・クラフティング
第2回:JCの実行を左右する3つの要因「仕事の特性」「職場環境」「個人の持つ考え方や性格」
第4回:JCのマネジメントの注意点とキャリアステージに応じたJCの必要性について

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?