個人と組織を活性化させるジョブ・クラフティング(2)

※2018年7月~2019年4月に『地方公務員 安全と健康フォーラム』に掲載したジョブ・クラフティングに関する連載を転載します(全4回)。なお,同誌発行元の地方公務員安全衛生推進協会より転載許可を得ています。同協会のご厚意に感謝いたします。

第2回:JCの実行を左右する3つの要因「仕事の特性」「職場環境」「個人の持つ考え方や性格」

 連載第1回では、メンタルヘルスの0次予防に役立つものとして、ジョブ・クラフティング(以下、JC)という新しい概念を提示しました。
 JCとはひらたく言えば、働く人たち一人ひとりが主体的に、仕事や職場での人間関係に小さな変化を加えることで自らの仕事の経験をつくり上げていくことです。そして、JCを促進することにより、「仕事の有意味感を感じやすくなる」「仕事とのミスマッチ感の減少につながる」「ワーク・エンゲイジメントの増進につながる」などのポジティブな効果がもたらされることも示しました。今回は、職場のメンタルヘルス増進に向けたマネジメントを考える前に、まずJCがどのような要因に左右されているのかを確認していきます。

たいていの労働者はJCを行う動機を持っている
 JCを左右する要因を詳しく見ていく前に、なぜJCを行うのか、その動機を確認しておきます。JCの理論モデルでは、すべての人が以下に挙げるような3つの欲求を本来的にもっており、それらがJCを行う動機になっていると考えています。
◆仕事についてのコントロールや仕事の意味に対する欲求
◆肯定的な自己イメージを持ちたいという欲求
◆他者との人間関係に対する欲求
 第1回では、「病院の掃除スタッフが、患者の治癒プロセスにかかわっていると自分の仕事を理解すること」をJCの例として紹介しました。この例は、JCを通じて、病院の掃除という自らの仕事をとらえ直すことで仕事の意味を獲得するとともに、肯定的な自己イメージを保持し、患者やその家族などとの関係を求めようとしていると理解することができます。
 仕事は生計を得る手段であると割り切っている人はもちろんいますが、そうした人たちでも、自分の仕事をまったく自分でコントロールできず、自分のやっていることにどんな意味があるのかわからないことや、仕事によって自己イメージが否定されることを望ましいとは思わないでしょう。また、職場の悩みにおいて人間関係に関するものがかなりの比重を占めているように、程度の差はあっても、職場で良質の人間関係を持ちたいという欲求も持っていることでしょう。
 こうしたことからも、JCを行う原動力となっている欲求は、たいていの勤労者が持っているといえます。したがって、潜在的には、多くの人たちがJCを行いたいという動機を有しているといえるでしょう。

JCを実際に行うかどうか要因を考える
 しかし、JCをよく行っている人もいれば、そうでない人もいます。したがって、JCを実際に行うかどうかを左右している要因があると考えられます。
 ここでは、JCの実行に影響を与える要因を、①仕事の特性、②職場環境、③個人の持つ考え方・性格――の3つに分けて取り上げます。

①仕事の特性
 JCに最も影響する仕事の特性として、仕事の自律性が挙げられています。
 仕事の自律性とは仕事の進め方や方法、スケジュール、判断などについての裁量の有無です。自分で仕事のやり方が決められる余地があれば、自分に合った段取りを採用したり、ちょっとした新しい工夫を盛り込んだりしやすくなるでしょう。
 したがって、管理者がJCを促進するためには、部下に対してエンパワーメント(権限移譲)を図ることが望ましいといえます。少なくともマイクロ・マネジメントといわれるような、細かすぎるコントロールを行うことは避けるべきでしょう。

②職場環境
 職場環境といってもさまざまな側面がありますが、ここでは上司や同僚との関係に焦点を当てます。
 上司や同僚などからさまざまなサポートを得られていると、JCを行いやすくなります。なぜなら、自分に合うように仕事を少し変えてみようとするときに、普段から周りのサポートがなければ、自分のアイディアへの理解が得られないと思い、やめてしまうかもしれないからです。
 お互いにサポートし合うような職場風土は、メンタルヘルスの維持・改善に有利に働きますが、JCにおいてもプラスの影響を及ぼします。そうした風土の醸成は管理者の大事な課題といえます。

③個人の持つ考え方や性格
 その動機が個人の欲求に根ざしているように、JCはもともと個人的な色彩をもつものであり、JCの実行には個人差が反映されます。
 たとえば、仕事に意味や生きがいを見出そうとする仕事観を持っていればJCを促進するように影響します。また、変化を先取りして主体的に動こうとする性格(プロアクティブ・パーソナリティ)も、JCにプラスに作用します。

メンタルヘルスを増進させるフィードバック・ループ
 前述したように、JCが人間の基本的な欲求に根ざしたものであることから、JCは一回きりで終わるわけではありません。
 「自分発のアイディアで仕事のやり方を手直しする」といった、JCを試してみたことが、次の機会でのJCを誘発する、というように循環性を持つものととらえられます(図)。すなわち、自分自身で仕事に関する何かを変えたことが、仕事における自分のとらえ方(仕事上のアイデンティティ)の変化を呼び起こし、それがJCへの動機を高めることがあります。

画像1

 これまで上司から言われるとおりに仕事をしていた人が、あるときに自分の仕事に対して主体的に小さな変化を与えたとします。そのことを通じて、仕事にかかわる有能感が芽生えるとともに、自分でコントロールできることを増やしたい、もっとポジティブな自己イメージを持ちたいと思い、さらなるJCが生まれていくかもしれません。こうしたプロセスをたどる中で、仕事の意味づけも変わっていくでしょう。
 このようなフィードバック・ループが作動すると、メンタルヘルスを増進する効果が期待できます。一つひとつのJCがもたらす、仕事や人間関係の変化が大きいかどうかは必ずしも問題ではありません。重要なのは、「自分起点で仕事にかかわる何かを変えられる」という手ごたえを何度も得ることです。このことにより、仕事や自分自身に対するとらえ方にポジティブな変化が生じてきます。こうしたサイクルを回していくことは、メンタルヘルスの改善にとっても重要だと考えられます。

 今回は、JCの動機を確認したうえで、その実践に影響を与える要因を3つに分けて取り上げるとともに、JCが循環性を持つことを示しました。これらを踏まえて次回はJCの促進を図るマネジメントについて、検討していきたいと思います。

初出:『地方公務員 安全と健康フォーラム』第107号

他の回へのリンク

第1回 メンタルヘルス0次予防推進の重要な視点となるジョブ・クラフティング
第3回:さまざまな機会をとらえ自分らしさが発揮できるよう部下を促し、変化を観察しよう
第4回:JCのマネジメントの注意点とキャリアステージに応じたJCの必要性について

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?