個人と組織を活性化させるジョブ・クラフティング(4)

※2018年7月~2019年4月に『地方公務員 安全と健康フォーラム』に掲載したジョブ・クラフティングに関する連載を転載します(全4回)。なお,同誌発行元の地方公務員安全衛生推進協会より転載許可を得ています。同協会のご厚意に感謝いたします。

第4回:JCのマネジメントの注意点とキャリアステージに応じたJCの必要性について


連載最終回である今回は、ジョブ・クラフティング(JC)のマネジメントについて取り上げます。まず、JCを促進する際に注意すべき点を3点挙げた後、キャリアステージの違いによってJCの焦点が異なることを説明します。

業務間の相互依存関係を見極めよう
 JCを促進するうえでの注意点としてまず挙げたいのは、「業務間の相互依存関係の見極め」です。
 JCは本来、働く人達一人ひとりが自ら行うものですが、仕事というものは一人で完結しているものではありません。Aさんが担っている業務の遂行が、同じ部署のBさんや隣の部署のCさんの業務遂行に影響を及ぼしたり、別の部署のDさんの業務遂行によって影響を受けたりするように、業務間に相互依存関係があることが一般的です。そのため、AさんがJCを行った結果、BさんやCさんの業務遂行に影響を及ぼすかもしれません。たとえば、Aさんが自分に合わないと感じている業務について精神的な負担を減らすためにそのやり方を少し変えてみたことが、Bさんの仕事の負担を増やすことにつながることもあり得ます。
 このように、ある人が行ったが他のメンバーにしわ寄せがくるような形で影響を与え、コンフリクト(あつれき・対立)が発生することは避けなければなりません。こうしたコンフリクトは、仕事の内容や方法を変更した際に、その仕事の遂行にかかわっている他者との関係性の変化が伴っていないときによく生じます。したがって、仕事に変更を加えようとする際には、上司や、これまであまり相談しなかった同僚に意見を求めたり、変えようと思った動機を説明したりすることが、JCによるコンフリクトの発生を減らすことに役立ちます。なぜなら、「仕事そのものの変更が及ぼす影響」よりも、「変更することを説明されていないこと」がコンフリクトのきっかけになることが多いためです。
 また、タスクの見直しが他の人たちの業務遂行や関係性にどのような影響を及ぼす可能性があるか、管理者が具体的にアドバイスすることも有用でしょう。

縄張り意識の発生を防ぐために
 JCによって、さまざまな工夫が積み重なった結果、他の人からその人の仕事が見通しにくくなることもあります。仕事を自分ごと化して改善することは望ましい姿勢ですが、極端な場合には心情的に仕事を私物化してしまい、自分の仕事に対し他の人に口を挟まれたくないという縄張り意識が生まれることもあります。
 このような事態を避けるためには、管理者がまめに声かけをして、どのようなJCをしているかを普段から把握するとともに、お互いにどんな変更をしたのかを職場内でオープンにできる機会を時々設けるとよいでしょう。それぞれが自分のこだわりや工夫を気兼ねなく話せるような風土の醸成も管理者の大事な仕事です。これが第二の注意点です。

「縮小的JC」によるマイナスの影響に注意
 これまでに取り上げてきたJCの例には、仕事に工夫を加えるといった、拡張的な性質のものが多く含まれていました。タスクや人間関係、仕事に関する見方を広げるJCは「拡張的JC」と称されることもありますが、逆に仕事の範囲や人間関係を狭くするような活動もJCに含まれ、「縮小的JC」と呼ばれています。
 人間関係についての縮小的JCは仕事の成果にマイナスの影響をもたらすという研究結果があります。後述するように、縮小的JCがモチベーションを高めるケースもありますが、JCがいつも縮小的なものばかりだとすれば、管理者にとっては注意すべきサインといえるでしょう。これが第三の注意点です。

キャリアステージにより異なるJCの焦点
 次に、キャリアステージとJCの関係を取り上げます。前回指摘したように、JCの促進にあたっては一人ひとりの個性を踏まえて個別的に考える必要があります。しかし、キャリアステージによって個人のニーズがある程度類似しているのも確かです。ここでは、近年特に問題となることが多い若手の育成とシニア層のモチベーション維持に焦点を当ててみます。

■若手の育成とJC
 仕事にやりがいを感じられず、活力を失ったり、離職してしまったりする若手職員が増えています。そのため、若手のJCにおいては、仕事に対する見方を変更するという認知的JCが相対的に重要です。そのきっかけづくりとして、やりがいを見いだせていない業務が誰にどのように役に立っているかを具体的に把握する機会を設けることが挙げられます。可能なら、その業務を担当する若手自身が、自分の仕事の出来によって影響を受ける人たちと会ったり話をしたりできるとよいでしょう。
 若手の育成に当たっては、スキルの習得がカギになりますが、自主性をもってスキルを身につけようとすることもJCに含めることができます。スキルの習得においても、些細な変化を上司や周りが認め、スキルの習得を通じて自分で仕事を変えられるという実感をもてるように応援することが最初の段階では重要です。

■シニア層の動機づけ維持とJC
 労働人口の減少等を反映した人事制度の変更とともに、シニア層が仕事を続けることが増えています。昇進や昇給が動機づけになりにくいシニア層の場合、JCの促進が仕事への意欲の維持・向上の有効な手立ての一つになる可能性があります。
 シニア層のJCの促進にあたっては、介護の負担や健康面での不安に代表される制約が、他の世代よりも大きいことを念頭に置く必要があります。さらに、経済的なニーズに加え、スキルや価値観の継承、現役世代の育成、新しい動向に関する適応遅れへの恐れ、居場所感の喪失といった、仕事に関するさまざまなニーズや思いをシニア層が持っていることを理解しておくことも重要です。
 シニア層においても、業務の改善や自己の強みの再発見といった拡張的JCはワーク・エンゲイジメントの維持・向上といった望ましい結果が期待できます。その一方で、制約や将来の退職を見据えて仕事を縮小したり、上司との距離を近づきすぎないようにしたりする、といった縮小的JCがモチベーションに望ましい影響を与えることも明らかになってきました。
 もっとも、縮小的JCが他のメンバーに対してどのような影響があるかも考慮する必要があります。したがって、管理者は、縮小的JCの背景にある狙いやニーズ、思いなどを把握し、必要に応じて他のメンバーとの業務調整に介入することが求められます。職場のダイバーシティが今後ますます拡大することを踏まえると、一人ひとりの多様なニーズに応じて仕事の再設計を支援することは、シニア層に限られることではありません。

おわりに
 第一回でも紹介したように、仕事環境が厳しくなる中で、メンタルヘルスの0次予防は多くの管理者にとっていっそう重要な課題になっており、JCという視点をもつことは、0次予防への取り組みに役立ちます。「隗より始めよ」という言葉があるように、まず管理者自身が身近な小さいことからJCを始めてみることが他の人たちのJCを誘発し、メンタルヘルスの次予防につながるきっかけになるのではないでしょうか。
 JCを行うことを通じて、「仕事というものは自分の意思や思いとは無関係にできあがっているものだけではない」と、多くの職員の方々が気づくことが、個人と組織の活性化の第一歩であるように思います。

初出:『地方公務員 安全と健康フォーラム』第108号

他の回へのリンク

第1回 メンタルヘルス0次予防推進の重要な視点となるジョブ・クラフティング

第2回:JCの実行を左右する3つの要因「仕事の特性」「職場環境」「個人の持つ考え方や性格」

第3回:さまざまな機会をとらえ自分らしさが発揮できるよう部下を促し、変化を観察しよう

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