nobara(1)
沖田
息苦しさで目が覚めた。午前3時、気付けば自室のベッドで眠っていた。
もうあの事件から3日は経ったか、友人の篠永はまだ病院のベッドで管に繋がれている。生死を彷徨う友人を目にしたのはつい昨日の事。事件現場を目撃した俺はその場に来たパトカーに乗せられ事情聴取を行うため警察署へ運ばれた。
手のひらで額の汗を拭い、ベッドから上体を起こす。リビングに向かいテーブルに置いてあったマグカップを手に取り温いコーヒーを勢いよく喉へ流し込んだ。
窓を開けて外気に当たると汗が引いていく、頭もほんの少しづつ冴えてきた。
3日前の深夜0時を回る頃、篠永の妻(遙子)から連絡があった。
「沖田さん、ごめんなさい遅くに」
なぜか息が切れたような少し荒い息をしながら続ける。
「直くんが急に家を飛び出して…あの、何か連絡なかったですか?」
携帯電話を耳から少し話して着信やチャットアプリを開く。
「いや、篠永から連絡…無いですね。飛び出して行ったと言うのは…?」
「私が買い物から帰ってきたら直くんがソファで携帯を見ていて…しばらく無言で、急に立ち上がったと思ったら何も言わずに玄関へ向かって行ってて。」
息継ぎなしで慌てている事が伝わってきた。息を整え続ける。
「なんかよくわからないけど余りにも唐突だったから私もしばらくその場に立ち尽くしてしまって、で、急に不安になって追いかけたんです、このところ色々あったから…。」
篠永の妻は声を震わせていた。涙ぐんでいるようだ、時折鼻を啜る音が聞こえる。
「今どちらに?」
「家を出てとりあえず駅方向に歩いています。」
嫌な予感がした、俺は遥子さんに「一人で外にいるのは危ない。家に戻って朝になっても連絡がなければ警察へ連絡してください、何か分かれば僕からも連絡入れます」と伝え通話を切った。
篠永に電話、応答なし。「今何処にいる」とメッセージを送ったが10分待って返答なし。玄関を出て階下の駐車場へ向かいながらさっき送ったメッセージの画面を開いた。既読は付いていない。バイクに跨りメッセージ画面をスクロールしていく。一番最後のやり取りは
篠永「沖田さん、尾向虚無二の野薔薇姫知ってる?」
俺「知らんなあ、小説か何か?」
篠永「昔の怪談作家の一作」
「明日奥さん連れて実家に帰るから探して持ってくるわ」
俺「いやいらんよ(笑)」
俺の何気ない返信の後、1週間ほど連絡はなかった。そして先程送ったメッセージに既読マークは、無い。
俺はバイクに乗るのをやめ、アプリでタクシーを呼び運転手に篠永の会社、住所を伝えた。道中、車内で野薔薇姫を検索。ヒットしたホラー系まとめサイトを開く。
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