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光媒の花/道尾秀介

いやはや面白い本でした。この本の構成がとても良かったです。最新刊「N」なんかでも分かるように、やはり秀逸ですね、道尾さん。

この本は、6話の短編集なのですが、1話にちょい役で登場していた人物が次の1話で主人公となっていく、という構成で書かれています。前の章のどの人なんだろうと予想しながら読める章もありました。

おぞましく、思わずゾワっとしてしまうような人間の罪、守るものを守るために犯したやるせない罪、殺人という罪でなくとも、胸に秘めたどうしようもない思いなどが書かれています。

◆第1章:隠れ鬼

認知症の母親を介護しながら、祖父の代から営んでいる印章店を経営している正文。父親は正文が高校生の時に自殺している。正文の中学時代から父親は夏になると別荘に家族を連れて出掛けた。

認知症の母がいきなり描き始めた絵が、その当時の出来事をその場にいなければ描くことの出来ないその絵が、正文に中学から高校、父親の自殺と当時を振り返させる。夏だけの思い出、ワンピースを着た女の人、30年に一度咲くらしい笹の花。

◆第2章:虫送り

小学生の兄妹お話し。兄妹の両親は共働きで帰宅が遅い。兄妹そろって虫が好きで、両親が帰ってくるまでの間、近所の河原へ行って虫採りをする。川を挟んだ「あっち側」にも虫を採りに来ている人がいるのか、懐中電灯を振るといつも灯りを振り返してくれた。兄妹はそれがとても好きだった。

その日は、あっち側の人の懐中電灯がすぐ消えて、早々に虫採りをやめて帰ったのだろうと兄妹が話していると、そこにホームレスの男性か兄妹に近付き、虫送りについて語り出し、悲劇が起こる。

◆第3章:冬の蝶

中学生の頃は本気で昆虫学者を目指していた。だが、挫折した。その当時、一人にだけ昆虫学者という夢を明かした人がいた。あの幼い兄妹のように自分もその当時はよく河原で虫を採り観察していた。その河原でクラスメートの「サチ」に初めて話しかけられ、その日から河原でのサチとの時間を楽しみにしていた。

サチはある時間まで河原で毎日時間を潰し、時間がくると家に帰ってゆく。サチが隠し通してきた日常を知ってしまい、悲しい事件が起きてしまう。

◆第4章:春の蝶

「わたし」と同じアパートに住む牧川という老人宅が泥棒に入られたらしい。牧川は一人暮らしのはずであったが、小さな女の子と中年の女性が一緒だった。牧川の娘が離婚したあとに牧川宅に転がり込んできたという。女の子は牧川の孫にあたるが、両親の離婚が原因で突発的に耳が聞こえなくなってしまったのだという。

このお話しの主人公「わたし」が第3章に登場するどの人物にあたるのか、この人だったらいいなぁなど、名前が明かされるまで想像しながら読んでいました。この章のラストはとっても良かったです。

◆第5章:風媒花

姉が入院することになった。父親は癌で亡くなっていて、父親の死後、何かの反発心があり母親とはぎくしゃくしてしまい疎遠に。姉とはいまだに仲が良く、仕事を抜けてすぐ病院へ駆け付けた。のどのあたりか、食道のあたりかにポリープが見つかったそうで、手術をすることになったが、姉は日が経つごとにみるみる衰弱していった。

このお話しの主人公も第4章に登場するどの人か想像しながら読むと楽しめました。この章では、殺人などの大きな事件は起きない。父親の死をきっかけにぎくしゃくしてしまった家族仲、素直になれない心情、反抗心なんかが描かれているのだと思います。このお話しもとても良かったです。

◆第6章:遠い光

このお話しでは第5章で入院した姉が主人公です。小学校教員でクラス担任として働いている。生徒の女子「朝代」が母親の再婚を機に名字が変わるということだった。朝代は頭がよく、とても物静かで感情が表に出されることがまずない。担任としてもどう扱ってよいかが分からなかった。

そんなとき、朝代が仔猫に石を投げつけ殺そうとした、という事件を起こす。その仔猫は野良猫なのだが、民家で飼っている犬の元へお乳を飲みにやってきて、犬が猫を育てているということで地元紙にも取り上げられ、学校の全校朝礼で校長がその記事について話していた。人を差別したり、誰かだけを贔屓したり、そういったことはしていけないと。

朝代が仔猫に対して抱いていた感情、名字が変わることでお母さんに抱いている思い、お母さんが朝代に抱く思い。

そして、担任として問題を起こした生徒に対し、何も出来ず「逃げ」を選択しそうになる自分が少しずつ成長し、生徒と向き合えるようになっていく過程。

このお話しもとても良かったです。最後の章だからでしょうか、少しだけ前の章で主人公となった人物たちが複数出てきますので、お楽しみに。
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道尾さんの本はいくつか読んでいますが、今のところ、どれも当たりです。わたしがまだ読んだことのない本で、「向日葵の咲かない夏」は、聞くところによるとかなり賛否あるようで、グロすぎて無理派と、素晴らしい派に真っ二つ。わたしも読まにゃ!と思っています。果たしてわたしはどっち派になるのでしょうか。

この本は、グロいなどはまったく無く、万人ウケするものかと思います。第1章の真相で多少の衝撃を食らいますが、あとはどんどん衝撃レベルが下がっていくので、比較的読みやすいかと思います。

後半の3章はどれも素晴らしく、素敵な終わり方でした。山本周五郎賞を受賞されているのだそうです。なんとなく分かると思いました。1冊の本としても、1章1章の構成も本当に素晴らしいです、本当に秀逸。

2章、4章、6章は幼い子どもが抱く痛みが書かれているので、読む方によっては辛い部分もあるかもしれませんが、大丈夫。最後の最後の最後の方で明るい兆しを感じていただけることでしょう。

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