八犬伝/山田風太郎
「面白い」のジャンルで今年No.1かもと思っています。
いやはやいやはや、河出文庫で山田風太郎の傑作作品が出版されるということで、有名な八犬伝を手にしてみましたが、これはもう面白すぎますー!常時興奮して読みました。
曲亭馬琴が手掛けた「南総里見八犬伝」の物語を「虚の世界」の章、現にいま南総里見八犬伝を考案している馬琴の日常を描いた「実の世界」の章として交互に書かれ、ラストは虚実混合の章!
山田風太郎さん曰く、終盤は馬琴の脳髄が狂ったみたいなストーリーで面白くない部分をガッツリ省いたらしいです。笑 が、ラストもう凄かったです。うるうる。涙涙のラストでした。南総里見八犬伝を現代語訳で最後まで読みたい、と思えました。馬琴さんの思いを感じながら。
馬琴のお友だちは、かの有名な葛飾北斎。北斎は馬琴の八犬伝の前作となる「弓張月」の挿し絵を担当したりなど、交流が深く、この南総里見八犬伝でも出版前に北斎に語り聞かせ、意見を求めたりと仲睦まじい様子がなんとも微笑ましく面白いのです。そんな裏話があったのかー!と。
「実の世界」は、馬琴が実際に遺した日記を元に、風太郎さんが現代語訳しています。ちょいちょい出てくる風太郎さん解説をおりまぜながら。馬琴の人生もまたとても良い。第1印象は「頑固で性格がひねくれもの」だったけれど、なんとも人間臭い感じでいいんです。馬琴の周りのお友だちや家族もまたまたいいんです。
なんだか八剣伝と馬琴のエッセイを交互に読んでいるような気分になります。八剣伝の章はぜんぶ親友の北斎さんやら崋山さんやらへ語り聞かせている設定となっているため、裏を返せば、もしかしたら馬琴そのもののストーリーなのかもしれませんね。
さて、南総里見八犬伝のストーリーですが、もう面白い。歴史スペクタクルファンタジー的な感じでしょうか。気付いたらページ数かなり読み進めていて我に返りビックリするという。
「犬」の名を持つ八名の剣士あり。
その者たち、漢字一文字が刻まれた珠を持ち、身体の一部に牡丹の痣あり。(我ながらイケてる口上ですー!自画自賛…笑)
<あらすじ>
里見家当主の義実は、滝田城を落城させた際に捕えた「たまずさ」という女を斬首する。たまずさは「私の呪いで、子・孫の代まで畜生道におとして、煩悩の犬と変えてやる!」と呪いを唱えて死んでいく。義実の美しい娘「伏姫」は幼い頃から「八房」という犬と育つ。八房と出会ったときに8つの珠が連なった数珠が傍らにあり、それを伏姫が幼い頃から身につけていた。
里見家落城の危機に瀕した際、義実は八房に「敵方の将軍首を持ってくれば、伏姫を嫁にやろう」と言うと、八房は妖犬のように動き出し、敵方の将軍を咬み殺し、首を咥えて戻ってくるのだった。
たまずさの呪いが八房に及んでいたのだろう。
伏姫は八房と共に山中にこもりながら暮らし、日々読経を聞かせる生活を送った。読経のせいかなぜなのか、八房の子が伏姫に宿ったのであった。伏姫は宿るはずのない子の腹の痛みに耐えきれず、数珠を飲み痛みを和らげようとするが、数珠は効き目を成さなかった。
伏姫を追ってやってきた義実含む家臣たちは、子を宿した伏姫と合間見えるが、伏姫は子は宿していないと自分の腹を切り証明して自害する。伏姫が腹を切ったとき、8つの光が四方八方へ飛び散っていった。
伏姫の自死を目の当たりにした家臣の二人は僧になり、珠の行方を探す旅を始める。
あとはもう面白いだけです。
「犬塚信乃」を筆頭に一人、また一人と犬士と出会っていく過程はもうワクワク&ドキドキの融合です。幼き頃の友であったり、あるいは斬り合いの相手であったり。どこで牡丹の痣が現れるかも分からず、「この人か?!この人か?!」「珠の漢字はなんだ?!」「牡丹の痣はどこなんだーーーっ!」という心の声が止むことはありませんでした。
ひとりひとり本当にいいキャラクターです。
わたしのお気に入りは犬山毛野と犬江新兵衛です。新兵衛は9歳犬士なのですが、めちゃくちゃ可愛い喋り方します。
「わかりソーローか」
「なんじにてソーローや」
「気づきソーローや。ならば見ソーラエ、」
かわいいぃぃ~ってもうメロメロで母性出まくりました。
敵方も毒婦「船虫」がこれまたいい味を出してます。
そして、妖魔なのか…犬の八房から始まり、たぬき、猫、馬といった動物たちがたくさん登場し、犬士たちを救ったり陥れたり、こちらはハラハラ&ドキドキの融合です。
あとはやはりですね、不思議な生命の繋がりがこの壮大な物語に感動を与え、度々おとずれるウルッとポイントがもうなんともたまらないのです。
笑えて、ウルウルして、敵方にはハラワタ煮えくりかえって、ファンタジー感のある不思議を感じ、不気味さを感じ、あとは馬琴の生きたむかしむかしの日本の世情を感じる。たくさんある感情をこの作品で目一杯味わえることでしょう。
新刊でチェックしていなければ、絶対に読むことなかった作品でした。河出文庫さんファインプレーです。感謝でしかないですー!今後も続々山田風太郎の傑作集を出版されるようで、楽しみでなりません。ちなみに、忍者のやつ、買っちゃいました。ニンニン♪
ラストの虚実混合の章では、ほとんど馬琴さんのお話しなのです。老齢の馬琴さんは白内障でほとんど視力を失っていたのですね。馬琴さんの人生と南総里見八犬伝への執念のようなこだわりと、家族の支え…馬琴だけではなく八犬伝に想いを馳せる人々…素晴らしいラストで本当に感涙に浸り読み終えました。山田風太郎さん自身、この馬琴の人生に涙を流したのだそうです。
河出文庫さんの復刻版でぜひ皆さまも読んでいただけたらと思います。(注:河出文庫の回し者ではありません。)
さて、この八剣伝を読んで、南総里見八犬伝も最後まで読みたくなったわたしは、同じく河出文庫さんの現代語訳版「南総里見八犬伝」を買うつもりです。(注:河出文庫の回し者ではありません。)
馬琴関連本:西條奈加「曲亭の家」
馬琴の息子に嫁いだ「お路」に焦点を当てたお話しです。この八剣伝のラスト虚実混合の章を読んでしまうと、お路の人生もきっと知りたくなるはずです。
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