レコードと部屋と彼2 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-
レコードが好きなんだ。
最近、買い始めたんだけど。
ちょっと風変わりだな、と思った。
31歳で独身。九州出身で東京に来る前は大阪で働いてた。東京に来て、2年くらい。接客販売の仕事をしていて、コロナ禍とか関係なしにリモートではなく現場で働いてるって。
昔から音楽は好きだったけれど、レコードで聴き始めたのは最近なんだって。
下北沢のお店に行って、一枚ずつ選んで買ってきてる、と。
レコードで、モノラルの音源を聴くと、すごいらしい。
音の衝撃が、ステレオとは比較にならない。
ロックを聴くなら、ステレオサウンドよりモノラルサウンドの方がいいって。
音源って、ステレオの方が絶対いいと、思ってた。
CDとは別に、わざわざモノラルのレコードを出すアーティストもいるんだって。
ロックが好きで、好きなバンドのことはブログとか読み漁って、その音楽をつくっているのがどんな人なのか、とことん理解したい。
そういう話は、知り合って1週間目、2時間の長電話をした時に、全部聞いた。
最初は、当たり障りのない話をしてくる人だった。
どんな音楽が好き?とか。どんな映画が好き?とか。どんなアニメが好き?なんて話を、一日2,3通やり取りする。
向こうからという積極性があるわけでもなく、私からも結構質問して話題を提供した。
同時並行でもっと密にやり取りしてる人はいたから、そこまで気になる存在じゃなかった。
ちょうど、アプリを始めて3日目くらいに、学生時代に社交ダンスをやってたというすらりとした細身の男性とやり取りを始めた。
顔写真ははっきりと載せてなかったけど、全体的な雰囲気がものすごくタイプだなと思ってたから、1、2日やり取りした後に、彼から「電話したい」と言われた時にものすごく嬉しかった。
たまたま、私のLINEが調子の悪い時期で、何度も電波が悪くなって、最終的には40分くらいで電話が切れてしまったのだけれど。
声も素敵で、いい感じの人だなと思ってた。
でも、最初の電話なのに、「付き合ったら手は繋ぎたいほうですか?」
「キスはしたい方?」とかって聞いてこられるのに、上手く答えられなくて。
これは、付き合いたいとかより、ただ、やりたいだけ!?
結局、その人とはその電話の後、私のメッセージに彼が返信しなくなって、途切れた。
他にも、すごく熱烈にメッセージで「魅力的ですね」と伝えてくる人とか、話は会うんだけど、実際に会おうということにはならない人とか。分単位で返信が来る人とか。いろんなタイプの人がいる中で、やり取りの頻度が高いわけではないのに、穏やかなやり取りができる彼の存在が、なんとなく心を温かくしてくれてた。日に2,3度だけど、彼から短い返事が来るのが嬉しかった。
元社交ダンス部の人との電話の失敗の後。
彼とのやり取りの中で、こんなことがあって。
結構いつも、短い文章のやり取りで、穏やかに、ある意味淡々と自分の好きなものを語るなぁと思っていた彼が。
好きなアニメの話になった時。
明らかに文章に熱がこもっていて、そのアニメのことがすごく好きなんだな、ということが良く伝わってきた。
返信で、「テンションあがってますよ(笑)」と伝えると、
「恥ずかしい!テンションあがってましたか!・・・クールを装おうと表ったのにな」
と返ってきて、この人、可愛いなぁと思ったのが、好意を持ったきっかけ。
このやり取りの後、少しだけ彼のメッセージの内容がくだけてきた気がする。
ほかにも、いろんな当たり障りのない話をしている時に、
「映画の好み、合うかもしれませんね」
と言ってきたこと。
言葉遣いが穏やかで、際どい話題は避け、ふわっとお互いの趣味が分かるような会話を続けてきたこと。
何となく、彼とやり取りをしていると落ち着くなぁと思っていた。
そうして1週間ほど、アプリでのメッセージのやり取りを続けていたら、返信の最後に、
「もし良かったらお暇な時に電話でお話しませんか」
と書かれていた。
前の失敗があったから、どうかなぁと思ったけど、彼のことをもう少し知りたいと思ったから、いいですよと答えて、翌日の夜、電話をした。
九州出身の彼は、しゃべるとほんの少しだけ、なまってた。
普通にしゃべってるつもりなんだろうけど、少し、イントネーションが違う。
とても穏やかな声音で、素朴な人柄が声に表れてた。
話し始めてすぐに、アプリの話になって(笑)
「女性の場合はどうかな、男性にはアドバイスが来るんですよ。それで、そろそろ電話してみたらどうですか?って言われたから、電話してみました」
自分的には、知り合って1週間じゃ早いと思った、って。計算してるのか。素なのか。
正直に話す姿が好ましくて、この日は2時間、話した。
彼がロックを好きな話を聞いた。今の家に住んでから、レコードを買って聴き始めているということも。
こだわりのある人だと思った。
少年のような心を大事にしてる人なんだ、ということはメッセージのやり取りの時から思っていた。
この時は、彼も私に興味を示してくれて、いろいろ聞かれたんだけど、一体私は何を話したんだろう。
私の方から、「会いたいですね」と切り出したことは覚えている。
彼が、仕事のシフトを確認して、会う日を決めましょうと言った。
そんなにすぐじゃ、早すぎるかな、みたいなことを呟いてた。
意外と、硬派なのかしら。
彼が作った「彼」なのか、そのままで「彼」だったのか。
私はこの最初の電話の時点ですでに彼に惹かれ始めてた。
会いたい。
会って、いいなと思ったら、この人と付き合いたいな。
そういうところまで、漠然と考えてたように思う。
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