レコードと部屋と彼7 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-
私も話したいことがあるんだ。
彼が2度目の電話で自分がフリーターだと打ち明けてくれた時。
これは、タイミングだと思った。
自分の病気のことを話す、いいタイミングだと。
彼と会う話になってから、ずっと考えてた。
いつ、乳がんのことを言おう。
言わなくてもいいのかもしれないけれど。
マッチングアプリの場合、真剣に婚活をしている人もいる。次、付き合う人と結婚したいって思っている人も。
私は、薬を飲んでいる関係で、この先5年間は妊娠することができない。
将来、自分の子どもを産むことはできないかもしれない。
それは、子どもを望んでいる人の場合、ちゃんと知っておきたい事実じゃないかな、と思っていた。
真面目過ぎるのかもしれないけれど。
相手が本気で考える前に、一つの情報としてきちんと伝えておきたかった。
2度目のデートの時くらいだろうか。
でもどのタイミングで切り出せばいいんだろう。
別に相手が結婚を望んでいるわけでもないだろうに。
どういうきっかけで。どんな話の流れで。
いつ、言おう。
実際に会う、という話になった時から、ずっと頭の中を巡っている問題だった。
彼が打ち明け話をしてくれたことで、私も言いやすくなった。
話すなら、今だと。
あのね。私も話しておきたいことがあるの。
私、乳がんなんだ。3ヵ月前に右胸全摘出の手術をしたばかりなの。
全部話を聞いて、彼はこう言った。
「そういうことは、実際に付き合って、事が起きる前に話すのでも遅くないと思うよ」
彼は気にしていないようだったし、私を気遣っての一言だった。
そうか。
男の人は、そんなに気にしないものか。
でも、真剣に婚活してから、子どもが欲しいって思う人もいるかもしれないから。
「別に僕は子ども欲しいとか結婚とか思っていないし、気にしないよ」
そう言ってもらえて、どれだけ気が楽になったことか。
私だって、いきなり結婚とか見据えてお付き合いしたいわけじゃない。
まず、自分自身が男性にきちんと受け入れられるのか。
それを知りたかった。
そして、断ち切りたい想いを、断ち切るために。
彼が、こう続けた。
「僕も、前にうつ病だったんだ。実は高校卒業してすぐ、警察官になって。それも就職浪人して。警察官になってすぐ、うつ病になったんだ」
薬、飲んだの?治療はどうしたの?
「薬は飲んだんだけど、飲み続けるとこれはやばいな(依存するな)って思ったから、飲むの止めて治したんだ」
病気を得たことのある人は、病気の人の気持ちが分かる。
彼のこのエピソードは、私に親近感を抱かせる以外のものではなかった。
「共感しかない」
彼がぽろっと言った。
「いや、変な言い方かもしれないけど。共感しかないね」
こういう話をしてから、彼が言った。
「もしかしたら、Mさんも何か打ち明けることがあるかなぁってちょっと思ってた。Mさんも何か隠しているかも、って思ったっていうより、打ち明け大会みたいになったら言いたいことあるかも、って思って」
なんか、こういう、見透かしているというか、見通しているというか。
そういうところが、子憎たらしいような。愛おしいような。
そういう人だった。
素直に、自分が思っていることを、相手がどう斟酌するかとか考えずに口にしてしまう、ちょっと子どもっぽいところがある人。
いや、もしかしたら、無意識下で「計算」してたのかもしれない。本人にはそのつもりはなくても。後から考えると、そういう気がする。
相手の気持ちを引き寄せるために。自分への心象を操作するために。
本人も気付いていないから、子どもっぽさとして映る。それは悪い印象ではなくて、むしろ好感を抱かせる。
私の中での一つ目のハードル、
「病気のことを話す」
は、こうしてあっさりクリアされてしまった。
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