本当にあった恐ろし〜い話し(改)【ミス❌敗血症❌隠蔽】

読みやすいよう、ノンフィクションをベースに、小説風に書いてみました。起きた内容はほとんど変えず、登場人物とセリフだけ一部フィクションです。

有希がベッドで寝ているところに、指導医の鶴亀先生が入る。

鶴亀「こんにちは。学生さんに入ってもらってもいい?ベトナムからの留学生さん。あなたのこと勉強したいって。とても熱心な方よ。」

有希:「いいですよ」とうなづく。

病棟に来た学生に指導医が説明する。〇〇で入院中の〇〇歳女児。寝たきりで、最近まで永久気切孔から人工呼吸器ついてた患者さん。

今は、気切にカニューレ入ってる。入院中の時、大腿静脈に中心静脈カテーテルから24時間点滴が入ってる。質問ある?

学生:中心静脈とはなんですか?

鶴亀先生:ああ、留学生さん日本語だとあれか。ごめんね。私ベトナム語は喋れないから、日本語の説明になっちゃうけど。中心静脈は、首の大きい血管、太腿の付け根の下大静脈に流れ込む血管、鎖骨下の大きくて深い静脈。中心静脈カテーテルは、このいずれかの血管にいずれかに10cm以上の長いカテーテルを入れる。首から入れた場合には、心臓の直前までカテーテルを進める。

学生:大丈夫。分かりました。中心静脈カテーテルは、Central Lineのことですね。

鶴亀先生:ん?え、ああ。そうね。(今なんて言ったか聞き取れなかったわ。英語でも分かるのよね。まぁ、そうよね。)

学生:気管切開?

鶴亀先生:首の穴よ。首を切って、気管に穴を開けたの。何回か人工呼吸器に乗ってるから、手術して閉じない穴にしたのよ。Permanent Trachyostomaって言うのかしら?

学生:あ〜!Trachyotomy!分かります。キセツは?

鶴亀先生:気管切開の略よ。漢字は分からないものね。失礼。気をつけるわ。

学生:カニューレ?

鶴亀先生:それは、英語でしょ?

と、左手の平に綴りをもじる。

学生:あー!Cannula!(キャーニュラ)と納得。

鶴亀先生の心の声:(発音が全然違うのね…)

鶴亀先生「じゃぁね、有希ちゃん。また来るわ。」

鶴亀先生は学生を連れて別室へ向かう。

有希はまだトイレには行けないので、差し込み便器を使うためにナースコールを押す。

全て終わって気がつくと、中心静脈カテーテルを覆うカバーが捲れている。そして、以前よりも白色でツルツルしている、女性の小指の骨くらいの太さのカテーテルが1cm程度多く血管外の脚の皮膚に露出している。

有希:「剥がれてる。消毒して。」

有希は、長期間人工呼吸器を装着し、発音しやすい単語で簡潔明瞭に要点だけを言う癖がまだ抜けていない。

看護師A:「これくらい大丈夫だから」

少しイラッとした看護師Aさん。

そのまま、慌てた様子で、トイレ介助後の手袋でカテを少し血管内に押し入れる。

大きく捲れたそのカテーテルのカバーも、何もなかったかのように元の位置に戻した。

本来、清潔操作で消毒やカバーの交換が行われるところだ。挿入時も、医師は手術の時のように滅菌ガウンを着用し、手には手術用と同じ滅菌手袋、挿入場所もヨードで念入りに消毒したのち、手術同様の滅菌ドレープをかけて、汚染を予防し、挿入される。

大きな血管に直接入るそのカテーテルは、細菌などに汚染されてしまうと、その大きな血管に直接菌を運んでしまう。

普段の主治医の丁寧な清潔操作を目の当たりにし、都度説明や会話で汚染しないように細心の注意を払っていることを聞いている有希は、不信に思う。これでは、細菌が大血管に押し込まれてしまったのではないか。

その晩家族に有希は告げる。言葉足らずだが、一言、「敗血症になるかもしれない」と。

その後、上の状況を説明した。

それは良くないのではないかと、主治医が翌日の昼頃には消毒し直し、カバーを交換した。

その数日後有希は敗血症になってしまった。

激しい悪寒で、ガクガクとてんかん発作かのように激しい震えが止まらない。悪寒戦慄と呼ばれるやつだ。

40度を超える発熱。

鶴亀先生:CRP(炎症反応)随分と高いわね。敗血症ね血培取って。直ぐ、抗菌薬投与開始するから。

鶴亀先生:輸液3000ml入れて。とにかく、輸液と抗菌薬どんどん入れないとだから。

学生:輸液とは?

鶴亀先生:点滴、今緊急事態だから、後で質問してちょうだい。

学生は有希の部屋でずっと見守っている。教科書を持ち込み、敗血症について勉強し始めた。

学生:血培、血液培養。あー! 抗菌薬薬で殺す前に、血培とても大切。

学生:輸液量、敗血症。血管が拡張する。血液が末梢に貯まりやすい。血管透過性の促進。ああ、血管から液が漏れやすい。血圧が下がりやすいから、一見多すぎる点滴量でも、どんどん入れた方が良い。うん。

学生:ノルアドレナリン。末梢血管を絞める。血圧を上げなければいけない時に投与。他の昇圧剤より、ノルアドレナリンが良い。

学生:ショックなのか? 意識レベル診よう。

ブツブツ呟きなながら、教科書の入ったタブレットを椅子の上に置いた。

そして、有希に近づき、話しかける。

敗血症が分かって直ぐの頃は、ある程度の会話ができていたのに、今は支離滅裂な単語をいくつか発するだけで、会話にはならない。

学生は鶴亀先生の元に走って行き、様子を伝えた。

鶴亀先生が部屋に入ると、有希の頭はバンバンに腫れている。

早急に採血が行われた。

さらに、重症化し、DIC(播種性血管内凝固症候群)という合併症を起こしている。

学生:DIC!?血栓ができると、出血が起きるが両方!? 妊婦さん、これで死んだ。この子も死んじゃうの?

鶴亀先生:何馬鹿なこと言ってるの!!全力で治療するしかないでしょ!!

鶴亀先生の心の声:(そうは言っても、もしかしたら最悪の事態もあるかもしれない。この子を可愛がってた仙壽先生にも伝えておいた方が良さそうね。)

仙壽先生が即日有希の部屋を見舞う。

仙壽先生:元気になったら、何したい? そうだな、一緒に海でも行こうか。今年の夏は退院して、きっと好きなだけ海で泳げるよ。

意識が朦朧としている有希とは、会話にはならないとはいえ、普段通りの口調で話す仙壽先生。

仙壽先生:そうそう、今年の春は桜が綺麗でね。この前行った桜見の写真、今度持ってくるからね。

仙壽先生:あんまり、長居して疲れさせちゃ悪いから、また日を改めて来るよ。

そういうと、有希の部屋を出た。

普段は何があっても、凛として聡明な眼差しが揺るがない仙壽先生でも、部屋を出た瞬間、少し視界がボヤけた。少し涙ぐんだのだ。

仙壽先生の心の声:(長い医師としてのキャリアで、数えきれないほどの患者さんが亡くなった。しかし、思い入れの強い患者さんが危険な状態の時の気持ちに慣れることはない。慣れたくもない。)

仙壽先生の心の声:(鶴亀先生を有希ちゃんの生命力と、鶴亀先生の対応を信じるしかない。)

懸命な処置の甲斐もあり、有希は無事敗血症もDICも克服できた。

余談ですが、医師国家試験第112回の国家試験に上と類似した状況が問題として出ています。

MedicMediaホームページより(https://informa.medilink-study.com/web-informa/post13355.html/)

カテーテルやドレーンが動いたり、抜けたりしてしまうと、やはり焦る人が多いですよね。しかし、状況をしっかりアセスメントし、冷静に対応することは非常に大切です。

焦りやプライドが邪魔をして、現状を悪化させたり、やむおえない事態で、隠蔽も恥も不要な事態も沢山ある。

医療現場に限らず、「あ!やっちゃった」と思った時は、まずは本当にやらかしたのかから検証することをオススメします。

実際、ここでカテーテルのカバーが剥がれていたことも、多少カテーテルが露出してしまったことも、たまたま起きた現象。事故ですらない。誰の責任でもないし、そもそも起きたことを隠蔽する必要があるような事態ですらない。

肌に貼ったテープなど、剥がれて当然。だから、適宜貼り替えるのだ。10cm以上の長いカテーテルが1cmズレたからといって、何か起こるわけではない。しかし、当事者、ましてや子供は、遠慮なく追求してくる。

この時点で、カテーテルの刺入部を消毒し、カバーを貼り替えていたら、何事も起きなかった可能性もある。あるいは、何もせずに主治医に報告していても、何も起きなかったかもしれない。起きても、血中の細菌数が少なければ少ないほど、程度がマシだったかもしれない。逆に、既にカバーが捲れてしばらく経っており、誰が何をしても、敗血症は免れなかったかもしれない。

カテーテルを押し込んでしまうまでは、何一つミスは起きていなかった。

何かが起きた時、相談しやすく、ヘルプを頼みやすい環境というのは非常に大切だ。不可抗力なら、なおのこと。

気軽に先輩に相談したり、他職種に一報入れたりすることで、より明るい未来が拓けている場合もあるかもしれない。少なくとも、現実を直視するだけで、真っ先に隠蔽するよりかはずっとマシなアウトカムもあるだろう。

事故が起きることは、恥ずべきことではない。

事故はただの事故。

加害者がいる医療過誤とは違う。

分からないことも、恥ずべきことではない。

何かに直面した時に、伝えられず、聞けないというのが問題ではないだろうか。

躊躇してしまっても、先ず誰かに聞いてみよう。

案外、思っている程悪いことは起きないかもしれない。

隠蔽は良くない。

不必要な隠蔽は、そのために多々の弊害を生み、害しかない。

人間は神ではない以上、掌握できないことがあって当然だ。

まず、パーフェクト以外を恥じない意識作りこそ、より安全でオープンな世界につながるだろう。

ん? と思ったら聞いてみよう!

質問して答えが理想的ではなくとも、何も失わない。

ただ、質問をする前に戻るだけ。

臆さずコミュニケーションを取ろう!

ぜひサポートよろしくお願いします。 ・治療費 ・学費 等 に使用し、より良い未来の構築に全力で取り組みます。