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一年越しの『クララとお日さま』の話

昨年、"Klara and the Sun"を読んだ。
AIが主人公というと、スピルバーグ監督の「A.I.」を思い出す。それから、学習塾で勤務しているときに高校生に教えてもらったゲーム「Detroit: Become Human」。A.I.が顔を与えられて、人間と同じように動き出したとき、フィクションであればなおさら、必ずや悲劇になるのではないかという恐怖を感じる。

"Klara and the Sun"を読んでいる最中も、100%隅々までわかっていないだろうこともあって、いつ悲劇が起きるのかとドキドキしながら読んだ。衝撃的な悲劇は起こらなかったけれど、ラストに向かうにつれて、なんともいえない切なさで胸がいっぱいになったことを(今回邦訳を読んで)思い出した。

邦訳が出たら読もうと思って、一年以上経ってしまった。

『クララとお日さま』を読んで、はっきりとした設定については明示されていなかったことを確認。どうやら、こういう世界で、こういう選択肢があって、それを選ぶ、選ばないで、どういう違いが生まれるのか、といったぼんやりとした設定が見えてくる。(『私を離さないで』も、何の事前情報もなしに読み始めれば、同じように小説内世界の設定を探りつつ読むことになったであろう。)設定としては、SF的で、とてもフィクショナルで、漫画的とさえ言えるかもしれないけれど、中心にあるのは、人の心、心の動き、その複雑さ、心が変わっていくことの不思議、なのだろう。AFのクララの目を通すことによって、人間の感情(がにじみ出る表情、しぐさ、動作)について細かい描写をしても不自然ではなくなる。とてもぴったりな(?)設定を生み出したのだなぁと思う。

ある人を特別な、唯一無二の存在にしているものの鍵は、その人を思う人たちの心の中にある。

顔を与えられたA.I.には幸せな人生を送ってほしいと思ってしまう不思議。クララはこの先、どうなったら寿命が尽きるのだろうか。リックについていったら、新しい世界を知ることができたのではないだろうか。クララは幸せだったのだろうか。読後感はやはり切なかった。

カズオ・イシグロ作品をすべて読んだわけではないけれど、デビュー作の『遠い山なみの光』はなんだか恐ろしかったし、『わたしたちが孤児だったころ』は終始騙されているような、狐につままれているような感覚だったし(『遠い山なみの光』もそうだが)、再読三読した『日の名残り』が一番好きかもしれない。(おすすめ作品があれば教えてください)








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