【エッセイ】夏と教え子と、私
言葉にし尽くせない、いろいろな気持ちがいま私の中を渦巻いている。
取り留めのない、収集のつかないことになりそうだけれど、今日はそれを、そのまま書き連ねてみようと思う。
いつか彼らにここの存在を知らせるときがきたとき、思っていることを真っ直ぐ届けるために。
この夏、帰省のタイミングで私は複数人の教え子に会ってきた。
気まぐれに某SNSで帰省する旨を告げたら、本当にありがたいことに「会いたいです」と申し出てくれた人たちがいた。
基本的に、私はあまり外出が好きではない。
人混みが苦手だし、いっときのことを思うと落ち着いたが電車移動も不安がある。
それでも、「人と話す」ことを求めていた心の声に従って、無理をしない程度に行動をしてみた。
結果として、それは非常に有意義な時間を私にもたらした。
教え子と話すと、その度に「過去」が舞い戻る。
一瞬にしてタイムトリップするような、不思議を毎度体験する。
お互い年を重ね、立派な大人同士になっても、変わらない「何か」がそこにはあって、私はその感覚を、いつも非常に愛おしいと思いながら彼らと話しをする。
かつて「教師だった私」と、かつて「生徒だった彼ら」を、猫のように膝に乗せて撫でながらコミュニケーションを取るような、あたたかくて言葉にし尽くせない感覚を抱く。
あの頃は…なんて語るほど遠い昔ではないはずなのに、油断をするとすぐ「あの頃は」とか「あの時は」とかいう言葉が出てくる。
共通した時間を過ごしてきたもの同士の、キーワードのようなものだと少し嬉しくも思う。
いま自分がしていること。抱えている不安、悩み。これからへの期待、未来への困惑、迷い…。
過ごした時間の長さによって、それぞれの話しの深さは変われど、話す内容は誰と話してもさほど変わらない。
わかる。わかるよ本当に。
彼らの思うことは、かつて私が思ってきたことだし、何ならいまなお、同じように悩んでもがいていることだ。
だから、ほんの少し先を生きている身として、ここまでしてきたことや考えてきたことを伝えてみる。
答えを探すわけじゃない、それは彼らが自分ですることだ。
私にできることは、策や手立ての一案を伝えることだけだということを、私はよく知っている。
いいじゃないか。
やることなすこと、「それ良いなあ」「めちゃくちゃ素敵だなあ」と手放しに褒める大人がいても。
…彼らの可能性を本気で信じることは、無責任だろうか?
失敗も何もかも、巡り巡って自分の糧になることを、私は知っている。
だからこそ私は、こと教え子に関して「彼らの人生を全肯定する大人」でいたいといつも思っている。
そりゃあ褒められないような失敗もあるかもしれない。悔やんでも悔やみきれないミスもあるだろう。
いいのよ、それでも。
ずっと向き合っているそれを、ここまでに乗り越えてきたそれを、いまこの瞬間「私」を前にして語る「あなた」ごと、私はまるっと受け止めるだけなのだ。
私たちは、それでも「今」を生きていく必要があるし、それでいうといま同じ空の下に「あなた」がいることそのものが、私にとっては「すべて」なのだ。
心の底からふつふつと湧き上がる、何もかもを肯定したくなる気持ちでいっぱいになるのだ。
ときどき投げやりな子が、「自分一人が死んだって世界は変わらない」なんて言う。
そりゃそうだ、きっとそれは私も同じだ。
世界が揺らぐような有名人でもあるまいし、誰か一人がいなくなったとしても世界は何も変わらず動き続ける。
ただ。
そうだとしても、だよ。
少なくとも、あなたがいなくなったら「私の世界」は揺らぐよ。変わるよ。
つまり、「あなたの存在」は少なくとも絶対に「私の世界」を変える存在ではあるわけだ。
容易に変えてくれるな、私の世界を。
私の大切な教え子の人生を、蔑ろにしてくれるな。
あなたの人生を、諦めてくれるな。
そんなことも考えて、切ない気持ちにも、なる。
彼らをみていると、いつだって心が動いてすぐ泣きそうになる。
高校生だった頃から、変わらない感覚だ。
いつだっていくつになったって、彼らは私の心を大いに動かす。
彼らに散々「また泣いてる!」と笑われた。
私の泣き虫はいまも健在である。
話しをいろいろしている中で、「それで、先生は何を頑張っているの?」と問うてくれた子がいた。
少しぼやかしたけど、いま日々文章を練り、言葉を紡ぎ続けている旨を伝えると、その子は「やっぱり」と笑った。
卒業しても変わらず、私の身近にいる存在の一人だ。
していることに予想がついていたのはさすがだなあと思った。
その子を含めて、ちらほら私の挑戦を把握している人たちのためにも、弛まぬ努力を続けたいなとも、思った。
言葉は、チカラだ。
この夏の束の間に、泣いたり笑ったりしながら、私はこれから先も、意味のあるチカラのある言葉を綴り続けていきたいと改めて思った。
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