【エッセイ】悩める君へ
風の強い日。
連絡が途絶えた君の返事を待つ間、言いたいことを忘れぬように書き散らしてみようと思う。
──人生の迷子になったときは、深呼吸をして、世の中をぐるりと見てみること。まずはそこから。
どうしようもないことや、どうしても仕方のないことは、この世にはゴマンとある。
偶然と必然が張り巡らされた人生を、ゆるりと歩いているだけ。
そんな中、ふと気がついたら、私は「高校教師」という扉の前にいた。
その扉の先に、何があるのか。
他に別な扉も見えたけれど、私は何となくその扉を開ける気になった。
就職活動も、こう見えて、一応本当にきちんとしていたのよ。
根は真面目だし、きちんとするところはしたいタイプだからね。
よくあるじゃない。
大きなホールや会議室に、いろんな企業が集められて、一斉にいろんなお話を聞けますよ!とかいうイベント。
きちんとそれらしい格好をして、それらしい顔をして、たくさんの似たような戦士たちに紛れて、アリガタイお話を聞きに行ったような日が、私にもあったのよ。
全く興味のない話しを、一生懸命メモに取ってみたり、愛想笑いで大人に媚びを売ってみたり。そんな日は、確かにあったのよ。
でもね。
何も、したいと思わなかったのよ。
今の君と同じように。
したくないことでも、生きるためにはしなくちゃいけない…。「人間」をしていたらそんなことも、あるでしょう。
それでもまあ、無理はし続けてはいられないものなのよ。
だから、私はいわゆる一般的な就職活動から離れたの。
どこにも「光るもの」が見つけられなくてね。周りはいろいろ見つけて、掴んでどんどん次に進んでいくのにね。焦るねえ。
ただ、他の人がいくら「これは光っている!」と言っても、私には小石にしか見えなくてね。
たまに「本当だね」と話しを合わせてみたり、光っていると思い込もうとしたりなんてことも、もちろんあったよ。
でも、結局私にとって小石は小石でしかなくてね。
この先何年も何十年も、そのただの小石を「光っている」と自分に言い聞かせて生きて行く未来が、私には全然見えなかったのよね。
ただの小石でも、誰かにとっては「光るもの」。
それそのものを否定する気はない、それを是とする生き方も否定はしない。そんな権利、私にはないからね。
ただただ、私の中の「正解」ではなかっただけ。
そもそもこの世に、万人にとっての「正解」なんてどこにもないのよ。
君が悩んで決めたのだとしたら、それがきっとそのときの正解だし、進む先で君が「正解」にすることができるのよ。
そんなわけで私は、ご存知の通り「高校教師」というものに光を見て、それを掴んだの。
その先で、君に出会い、その他もう本当に言葉にし尽くせないくらいの出会いを経て、今がある。
選んだからには、頑張りたいじゃない。
どうせやるなら楽しみたいじゃない。
やり始めたなら、やり遂げたいじゃない。
それらの糸で編み上げた袋に、私なりに「光るもの」を集めて集めて、今に至っているのよ。
あなたはどんな意図を持って、どんな糸を紡ぐの。
あなたのことは、あなたが決めて良いのよ。
結局は「自分で」決めることに意味があると思うのよ。
自分の意志で、選ぶのよ。
選んだものを信じて進むのよ。
そういうことを、繰り返す中でふと気がついたら「ああこれが正解かもしれないな」ってなる。それだけのことなのよ。
頑張れないなら、頑張れる場所を探すのよ。
探し方がわからないなら、探す場所を変えるのよ。
海の中にりんごはないの。
山の上に魚はいないの。
あなたが探しているものは、何なのか。
今いる場所で、見つけられないなら移動しても良いのよ。
移動の仕方がわからないなら、他人を頼ってもいい。
あなたの人生の「正解」は、あなたが決めるの。
今宵もなかなか風が、強い。
人生にはそんな夜もある。
取り留めのない文章と、思いが渦巻く。
糸の切れた凧は、風に翻弄される。
もみくちゃになる前に、意志ある帰りを静かに待つ。