ロスジャの話。

遅ればせてクリアしました。

※ネタバレ全開です。ご注意ください。

まず、現実に起きたいじめ凍死事件(旭川の事件)にて、中学校教頭が発した言葉を読んでください。

「10人の加害者の未来と、1人の被害者の未来、どっちが大切ですか。10人ですよ。1人のために10人の未来をつぶしていいんですか。どっちが将来の日本のためになりますか。もう一度、冷静に考えてみて下さい」

これが教育現場のリアルです。功利主義と考えますか?加害者たちは殺人者ではないと言い切れますか?一種の人殺しの10人の未来が果たして将来のこの国の『未来』とやらになるのでしょうか?


・龍が如くとは別のスタンダードとして。

私PS2で発売された龍が如く1から、7までリアルタイムでプレイしており、ゲームでは小島監督作品、エースコンバットシリーズと並んで好きな長期シリーズ作品です。それが特に4での多人数主人公システムから陰りが見え始め、以降消化不良の作品が続き、最高傑作ともいわれる龍が如く0やシリーズファンにはたまらない維新(特に峯のファンには!)などがありながら、5や6、いわゆる桐生さんの物語はしりすぼみになってゆきました。特に6は非常に豪華なゲストに恵まれながらも、あまりに胸糞の悪い終わり方と、1から出ていた遥にもフラストレーションが大きくなる物語でした。そうして0、1の錦の声優さんである中谷一博さんを主人公に添えた龍が如く7にて新境地の開拓に至るのですが、そんな時期に登場したのが木村拓哉さんを主人公に迎えた極道ではなく元弁護士・現探偵である八神隆之を主人公に迎えたジャッジシリーズです。現時点でジャッジアイズはフリープレイ(ピエール瀧さんが演じた羽村は事情柄別の顔と役者さんになりました。)になり、続編のロストジャッジメントの2作が発売されましたが、エグゼクティブプロデューサーの名越監督はこれを最後に龍が如くスタジオ・及びSEGAから退社されました。以降は横山さんがおそらく指揮を執り、龍の8が公言されています。

・それぞれの正義と秩序の物語。

さて、話をジャッジシリーズに戻しまして、前作ジャッジアイズでは黒岩(モグラ)というラスボスと、狂気に落ちた科学者生野の破滅が非常に特徴的でした。そして天下りの一ノ瀬をはじめとした事業計画にのっとった厚労省という国家組織の悪も関わる大規模な物語、そしてテーマともなったアドデック9というアルツハイマー認知症特効薬とされ生野が主任で研究する、物語のカギとなる薬や現代医療といった社会テーマ、権益と保身のために無作為に殺されてしまう善良な人々、冤罪といった、現代の法律が抱える問題点を提議しましたね。

さて、ロスジャは更にその奥をついたテーマとなりました。全般を通して現代の社会問題である『いじめ』とそれに対する法や大人のエゴと、『私刑』の在り方を問う作品となりました。今回は前作のようにサッパリとした終わり方とは言えません。というのも、今回はあまりに答えのない命題だったからです。まず桑名仁(山本耕史さん)。本作におけるキーマンかつラスボスを務めます、元教師で今は情報屋、その実はかつていじめを行っていた教え子たちを使って、いじめ加害者だった人間たちを私刑で殺していくということをしていました。その背後には国家権力の新鋭たる公安と楠木玲子さんという事務次官の存在の影、そして教え子だった楠木さんの息子を植物状態に追いやっていじめ加害者たちへの復讐の念も抱いていました。そして、新しく起きた元いじめ加害者の惨殺事件と痴漢事件の公判を控えた江原(光石研さん)と結託して法の弱さを突いた立ち回りをしていきます。今回の物語でも澤先生という桑名の教え子であり江原の自殺した息子とその加害者の教師をしていた教師が大きな諍いのために殺されてしまいます。無実の人が本作でも殺されたことが八神の正義感をまた突き動かしていくこととなりました。

細かくはプレイされるかネタバレ前提で配信者の方がプレイ動画など出されている(公式認可済みです)のでそれを見ていただくとして、本作はまさに『正義』の在り方を問われる作品でした。いじめ自殺問題は未だ学校や教育委員会などの保身が目立ち、実際旭川の事件などに代表されるように死んだ当人が死んでも浮かばれない現実があります。時に教師すら手を差し伸べるどころかいじめに加担し、教え子を追い詰めてしまいます。

かくいう私も大学1年までの約13年ほどでしょうか、形式は違えど主に教師から執拗ないじめを受け、彼ら大人は分かりにくく陰湿に嫌がらせやモラルハラスメントめいたことを行ってきました。同級生は見て見ぬふりをしていました。私はそれ以来教員も、教職を目指す人も、いえ、友人と呼ばれる人たちすら信用しなくなりました。結果大学1年生を終えるころ、私はうつ病を発病しのち10年間を体調不良に棒に振り、今も抗鬱剤を飲んで暮らしています。唯一の救いはゼミの教授で、今となっては味方が増えたのでいいのですが、当時は絶望感ばかりでした。殺したいほど憎い。その気持ちは許されないながらに少しだけわかります。

ロスジャの桑名はその役割を執行する私刑人です。そして江原が公判で証言するように法律や規範はあまりに個人の問題に無力です。後述する相馬の言葉を借りれば『クズの1人殺したところで』という感覚なのかもしれません。特に桑名のやり口は、いじめ加害者によっていじめ加害者を殺させるというもので非情なやり口でもあります。ですが、いじめ加害者というのは往々にして自分の過ちを認めず開き直りすらするという現実があり、今回もそれら元加害者の1人である間宮由衣がその代弁者です。間宮自身はかつての楠木さんの息子をいじめで植物状態にしておきながら、今は普通の生活を行い家庭を持って平然と暮らしています。そして八神たちに証言を求められた際も不躾な態度でそれどころか何が悪いのか、自分たちも桑名に殺人を強いられている、自分には家族がいてその未来が大事だと保身に走るほどです。今作で実は明確に裁かれないながらに非常に嫌な立ち位置の人物でした。ですがいじめ加害者側のリアルの心情というのは結局そういうものなのかもしれません。ただし、いくらいじめが悪だとは言え殺人は殺人です。八神は澤先生がこれら事件の口封じに消されたことをきっかけに江原の殺人立証と黒幕を追います。八神にとっての正義は決して完成されないながらに法治のもとに正しく人が正しく裁かれることであり、私刑は断じて許さないスタンスでした。法の無力を実感しながらも八神は桑名との決着を経て、ひとまずの物語は楠本さんの自白によって全体的な収束を迎えますが、桑名は具体的な犯罪を立証できるものもなく、公安に突き出すべきでもない存在として、再び暗闇に消えていきます。そして、また彼なりの私刑を続けることを告げ物語の幕は降ります。正直言うと、この物語が終わった時、私は八神に共感することも桑名に共感することも戸惑いました。一長一短なのです。人を殺すことは許されません。しかし、人を自死に追いやるほど壮絶ないじめを行う人たちがいる。江原が言ったように法なんてものは形ばかりで無力、そして権益が絡めばそれぞれのエゴが絡んでもとの正義は闇に葬られるのです。八神に共感しにくかったのはあくまで八神の正義が『桑名よりはマシ』だったことによります。桑名のやり方では法治は成り立ちません。連続的な殺人の火種にしかならず怨恨の続きとなります。ですが八神のように脆弱性を持つ法律をもとに正義を振っても本当に被害者は救われるのか?といえばイエスと迂闊には答えられないのです。本作は結末における主義を二分し明確に示さないことでユーザーにその正義の天秤を委ねた作品といえます。プレイした皆さまはどう感じられましたか?

・相馬和樹という役割

相馬和樹(玉木宏さん)。前回の谷原章介さん同様甘いマスクに狂気を忍ばせた魅力的なキャラクターで、今回の黒岩役ともいえる戦闘面におけるラスボス・龍が如く6での広瀬(北野武さん)以来のナイフ一本で勝負を仕掛けてくる人物でもあります。所属は公安です。彼が本作における分かりやすいヴィランであり、実行役でもあります。公安が守るべき国家の旗手たる楠本玲子を護るために公安の命を受けて龍が如く7で解散となった東城会をあぶれた半グレ集団RKのまとめ役を潜入捜査官として行っていました。彼は躊躇なく殺人を行う事、ナイフ一本で戦うというそのスタンス柄サイコパスで無秩序な悪に見られましたが、後半で彼にもまた矜持があることを語ります。すなわち『国家』という大きな枠組みの秩序を守る事への一種の歪んだ正義感と陶酔意識です。その為であれば簡単に人を殺しますし、それが自分の役割ときっちり認識しています。その点では最後狂気を起こし錯乱した黒岩よりは常識的な部分があったのかなとも思います。ただ、彼の正義もまた目的遂行のためならば容赦なく人を殺めるものであり、八神たちは敵対していきます。結局は勝負でカタをつけましたが、その後桑名戦のあと、桑名の本音と吐露のシーンで一瞬相馬のカットがあるのですがもしかしたら彼にも何か思う所があったのかもしれませんね。

・ユースドラマという理想郷

ユースドラマというのはサブクエです。今回ボリューム凄いです。木村拓哉さん、本人が仰るように八神はなんでもやります。ロボ部の支援から暴走族からミステリ研究会からボクシング部からチアリーディング部ではお得意(?)のダンスゲーすら始まります。さて、ユースドラマで明らかになっていくのは学生を悪の道へ引き入れてやはり利益を得ようとする通称『プロフェッサー』を追いかける物語なのですが、ここも詳しくは長くなるので省きますが、ユースドラマをすべてクリアした際、そのプロフェッサーと呼ばれた学生と、その子を操る裏組織があらわになります。そして八神はそれまではぐくんだ色んな部活の子たちと力を合わせ裏組織を追い払うのです。何といってもこのユースドラマに出てくる子たちは良い子ばかりです。それぞれ最初は問題があるのですが八神の力添えによって問題を自己解決していく、そして最後は協力して巨悪に立ち向かうのですが、これはロスジャ本編とは対照的で、いじめという解決の難しい命題の解法をゆだねた本編の暗さとは逆に痛快なまでに学生たちが協力的で仲間の絆をもってして悪を倒すといった様は、もう1つの本編、まさにロスジャが求める『こうあってほしい学生たちの在り方』を提示しているように思いました。

・おわりに。

長々と書く気はなかったのですが、本作はジャッジアイズ同様に素晴らしい筆致で描かれた優秀な作品です。自供を決意した楠本さんと目を覚ました息子の充くんとの電話でのシーンなどは感涙モノでした。いじめ問題は今この瞬間でも続く、もしかすると生物の弱者淘汰機能に基づいた残酷なプログラムなのかもしれませんが、幸いにして人間は法と倫理、思考することを勝ち得た社会的生物です。だからこそ黙認されるいじめや苦しみがままあるインモラルは1つでも少なくあるべきでしょう。本作はそんな難しく厄介なテーマを考えさせられるゲームでした。プレイしてよかったです。

また主題歌のAdoさんの『螺旋』ですが、サビの歌詞『お前らのせいだ』の表現力豊かな苦しい連呼は個人的には誰しもに適合するのですが特に江原の感情のようにも感じました。

ちなみに評価の高い相馬戦BGMの『Viper』、私もお勧めの1曲です。よければ聴いてみてください。ストリングスのヒステリックさが彼をまさに体現しています。

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それはダサいよ相馬さん。

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