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【前編】人も動物も共に幸福な社会を目指して

被災動物という言葉をご存知でしょうか。東日本大震災、そして原発事故で富岡町は避難を余儀なくされました。もともと富岡町で地域猫として暮らしていた子、そしてペットとして飼われていた子も、人のいなくなった町でさまようことになってしまったのです。
代田岳美さんは、震災直後から福島を定期的に訪れ、保護活動をされていたそうです。そして2019年、富岡町の中古住宅を買い上げ、保護シェルターを開設されました。
震災からまもなく10年。当時の様子や、保護活動に対する思いをおうかがいしました。


静岡から動物保護のために福島に通う日々


—最初に保護活動を始めたきっかけから教えてください

代田さん:東日本大震災が起こるまでは、静岡県で暮らしていました。震災直後から、福島県の動物たちのことがとても気になって、頭から離れない日々が続いたんです。
「福島に行きたい! 行きたい! 動物たちを助けたい! 」と強く思いました。

1〜2ヶ月経った頃に、考えていても仕方ないから、とにかく現地に行ってみようと、2011年5月の初頭に福島に向かったんです。
最初は「にゃんだーガード」という団体のボランティアとして、避難区域の動物たちの保護活動をしました。それから2〜3年間、静岡で介護士をしながら月に2、3回福島に通って、ボランティアを続けていました。

2014年、震災から3年が経とうというころ、未だ保護依頼も多く、諦めていない飼い主さんもまだまだいらっしゃいました。その方たちのためにも保護してあげたいという思いが強くなり、三春町に移住。2019年春に勤めていた動物保護団体が撤退したのをきっかけに富岡町に移り住み、保護動物シェルター栖(すみか)を開設しました。

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—富岡町で保護が必要な動物が多かったというのには、何か理由があるのでしょうか?

代田さん:夜ノ森地区に「堤公園」という場所があるんですけど、そこは元々猫が多かったらしいんですね。中央地区でも多かったようですね。富岡町では外で暮らしている猫がそもそも多かったということです。急に避難しなければならなくなったから、ペットとして飼っていた猫も置いていかざるをえなかったり。

当時は避難区域なので許可証がないと入れない場所です。地元の住民の方々の協力を得て、保護活動を続けていました。住民の方々の「猫を保護したい」という気持ちと、私の気持ちが重なって、富岡町での保護活動が多くなったのかなと思っています。

震災当時、飼っていた猫を置いてきてしまって、とても後悔している人をたくさん見てきました。そういう方々は、避難先でも保護猫の里親になったりしていますね。やっぱり不幸な境遇の猫をほっとけないみたいで。皆さん、私達が猫を保護してくれたことで、逆に自分がすごく救われたっておっしゃいます。

—連れて行きたくても連れて行けない状況だった方もたくさんいらっしゃるんでしょうね。

代田さん:保護しても、飼い主と会わせてあげることができないまま亡くなってしまう子もたくさんいます。けれど、飼い主さんは今も探し続けているかもしれない。私が富岡に移ってきたことで、飼い主さんを見つけてあげることができるかもしれないと思うと、富岡町に保護シェルターがあることが意味あることに思えます。

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動物を適正に飼育するための啓蒙活動も


—富岡町以外でも保護活動をされているんですか?

代田さん:そうですね。浪江町と葛尾村でも活動しています。TNR【Trap(トラップ): 捕獲する / Neuter(ニューター): 不妊手術をする / Return(リターン): 猫を元の場所に戻す、という一連の活動】をされている子も多いですね。私以外にも保護活動をしている方がいらっしゃるという証拠です。

猫はオスとメスがいれば、そのたった2匹からでもあっという間に数が増えてしまいます。富岡町では、避難指示が解除されてからは、まだそこまで猫の数が増えているという報告はないのですが、葛尾村は富岡町より避難指示解除の時期が早いので、猫がふえるスピードも早い。富岡町でもいつ急激に猫が増えるか分からないので、住民の方に適正な飼育法を伝えるような活動もしています。

—栖から里親に引き取られた子はどのくらいですか?

代田さん:「栖」を設立してからまだ一年ちょっとなので10件くらいですかね。「にゃんだーガード」では400件くらいかな。亡くなる子もいるので、保護された子が全員里親に引き取られるわけでもなく。でも、里親に出せる子を増やしたいので、人に慣れさせるということは重要だと思います。

富岡町でもペット可の物件がいくつかあるみたいですね。けれど、富岡町は今、復興の途中で、住民は外からきてくれている作業員の方が多いのが現状です。一時的に富岡町に来てくれた人が、その後どこか別の場所に移った時にも飼い続けられなければ意味がありません。そういうことも考えて、適正な飼育をしてくれる方が増えればいいなと思います。間違っても震災直後のような状態にならないように、ペット防災の在り方なども発信していきたいと思っています。しっかり現実を見て、大切な命を育てるという自覚を持っていただけるように。

—現在は町や県などから支援を受けて運営しているのですか?

代田さん:今は支援は受けていません。ほとんどを皆様からの寄付で賄っています。悲しいことに、今は福島県が猫の殺処分件数全国1位なんです。やっぱりそれをどうにかしたい。うちは、愛護センターからの引き取りもしているのですが、「愛護センター」とは名ばかりで、実際は犬猫の殺処分も行っている施設です。「動物愛護センター」そのものが変わっていかなければいけないと私は思っています。「愛護」という名前がついているものだから、保護してもらえるものと思い込んで犬猫を持ち込む人もいます。そういうおかしな流れをなんとかしたい。今後、行政や愛護センターともっと連携して、まずは相双地区から殺処分をなくすことに力を入れていきたいです。

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—1ヶ月間、ここにいる猫ちゃんたちのお世話をするのに、どのくらいの金額が必要なのでしょう?

代田さん:今は、支援物資でほとんどご飯などはやりくりできていますが、人件費無しで大体1ヶ月で30万円くらいでしょうか。人件費を入れると50万円くらい必要ですね。支援金だけでは足りないことも出てくるので、今後は人福祉の新規の事業にも取り組むために、今準備を行っているところです。

—富岡町では、第二小学校の跡地に福祉施設ができると聞きました。

代田さん
:はい。そういうところでアニマルセラピーのようなこともできればいいなと考えています。介護職に就いていた頃から感じていたのですが、お年寄りはどこかに「お出かけ」するという気持ちを持つことが大切なんじゃないかなと。部屋に閉じこもってしまいがちですけど、お出かけして気分を変えるということはとても大切です。

だから、保護猫シェルター兼保護猫サロンとして、この場所をもっと整備して、「栖」に来てもらって猫たちとゆったり過ごしてもらいたいですね。私自身、お年寄りの話を聞くのが大好きで。昭和の初期の頃とか明治大正の頃の話とか大好きなんですね。だから、介護と動物保護を絡めた、猫介在型のデイサービスを作りたいんです。

後編へ続く

撮影:白圡亮次
特定非営利活動法人  栖
https://xn--u8j1a4h.net/
〒979-1132 福島県双葉郡富岡町下郡山真壁182−2

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