分断と対立の時代の政治入門

立憲民主党・国民民主党が政権奪取するために必要なこと / 三浦瑠麗

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※本連載は第11回です。最初から読む方はこちら。

 立憲民主党と国民民主党の合流の是非をめぐる報道がさかんです。本日は、あくまでも両党が政権奪取を目指すという前提で、何が戦略的に賢いことなのかを考えてみたいと思います。

 政党が代表する価値観というのは、日本のように多くの有権者が中道に固まっている国では、曖昧になりがちです。しかし、どんなに価値観を曖昧に見せたとしても、政党が日々発信する言説によって形作られるイメージは、有権者に影響を与えます。例えば、弊社調査では、回答者の半数以上が立憲民主党を評価していませんでした。その層の外交安保政策に関わる価値観の平均値は中道よりも半歩、リアリズム寄りです。また、立憲民主党を評価する層は全体の4分の1弱にとどまります。もしも立憲民主党が支持を拡大しようと思うのならば、既に自党を評価してくれている層にささる政策だけを訴え続けても意味がないのです。

 これが、もしも支持基盤が十分に拮抗している二大政党制であれば、話は変わります。米大統領選で最後重要になる「票を掘り起こせ」(get out the vote)という戦略は、支持層にささる政策や価値観を強く打ち出すことで、自党の支持者の投票率を上げるところにあります。

 現在の日本の政党の支持率分布を考えると、自民党は「票を掘り起こせ」戦略で十分勝てますが、野党が政権を奪取しようと思えば「新たな票を開拓しに行く」態度が必要だということです。ただし、現状の日本の選挙を眺めている限りでは、どうも野党は「自民党を嫌いな人びと」にばかり訴えかけようとしているように見えます。それが、いわゆるスキャンダルや政権不信を利用した戦い方です。おそらく、消えた年金問題で一気に流れが変わった福田政権から麻生政権にかけての自民党弱体化の成功体験が念頭にあるのでしょう。

 ところが、政権不信を梃子とした野党の戦略が機能しているようには思えません。ちょうど桜を見る会問題で低下した内閣支持率が、年を越して(政権が何もしていないのに)回復したばかりです。そうした状況を受けて、「日本人はおかしい!」と嘆く評論家が目立ちますが、それこそ自分の思うとおりに行かないことに対する分析の放棄であると、私などは思います。
内閣支持率がそこそこ安定した数字をたたき出していると、野党の側はどうやって相手の支持率を下げるか、という発想になりがちです。でも、巷で言われている分析は、「他に選択肢がないから」支持率が高い、というもの。当然、野党の魅力が少ないからなのです。

 むしろ、政党や内閣の支持率というゼロイチの発想ではなくて、好感度ランキングのような考え方で物事をとらえ直してみてはいかがでしょうか。

 以下に、自民党を高く評価する層からまったく評価しない層まで、4段階の回答別に、それぞれの層の価値観分布を提示しました。投票や政党支持に影響が大きい経済政策(横軸)と外交安保政策(縦軸)をめぐる価値観の分布です。

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 自民党を評価しない、安倍政権を嫌う票に頼ることの限界は、上に示したそれぞれの層の割合が端的に示しています。高評価層は8%しかいませんが、やや評価する層を含めると46%と半数に迫ります。反対に、全く評価しない層は16%、評価していない層全体で37%です(残り17%は良く知らない、分からないと回答)。自民党に寄せられた信頼は案外鉄壁のものではなく、10ポイント程度の差であるわけですが、それでもこれをひっくり返すことは至難の業です。

 ただし、ここで気を付けておきたいのは、好感度というのはそもそもグラデーションがあるということです。野党の戦略における問題点は、マイルドな評価層やマイルドな低評価層の存在をしっかりと意識していないこと。SNSなどで目にしがちな、野党政治家やその支持者たちの自民党に対する強い反感は、右端の16%のなかの、しかも政治的にアクティブな層にしか訴求効果はないということです。

 政権交代を可能にしようとすれば、自民党を評価しないマイルド層を取り込んだうえで、さらに自民党をやや評価している層までも惹きつける必要があります。

 そこで、改めて上の価値観分布を見てください。他の層と比べて、自民党を全く評価していない層は明らかに左下の「リベラル層」に多くが位置しています。やや低評価の層は少し重点が中道リアリズム寄りにずれます。やや評価している層になると、多くがリアリズム層に分布しており、外交安保でリアリズムを、経済政策では成長を重視していることが分かります。高く評価している層になるとさらにその傾向は顕著ですが、とりわけ外交安保でのリアリズムが大きな重要性を持っていることが見て取れます。

 政党が長く存続し、支持を集め続けられるかどうかは、組織運営とリーダーシップに加えてブランド戦略が重要です。ガバナンスが良い会社だからといって継続的に商品が売れるとは限らないように、一定のイメージがあって初めて人びとは具体的な行動(この場合投票)に踏み切るからです。その意味では、共産党と日本維新の会は安定したイメージをもっており、彼らに投票する層の価値観は明確です。共産党はリベラル層、日本維新の会はリアリズム層に支持者が固まっているからです。

 さて、立憲民主党と国民民主党に話を戻しましょう。彼らは選挙戦略上も、組織運営でも、様々な課題を抱えていることが露呈しています。直近で注目されているのはガバナンスの不足です。しかし、それ以前の問題としてそもそも合流あるいは独自路線を貫いた後に、どのような価値観を代表する政党になるのか。政権交代を可能にしようと思えば、外交安保と経済政策に関しては、中道リアリズム以外の解はないということがお分かりだろうと思います。次回は、自民党をマージナライズするために可能な戦略について考えることにします。

★次週に続く

■三浦瑠麗(みうら・るり)
1980年神奈川県生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修了。東京大学政策ビジョン研究センター講師を経て、現在は山猫総合研究所代表。著書に『日本に絶望している人のための政治入門』『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)、『シビリアンの戦争』(岩波書店)、『21世紀の戦争と平和』(新潮社)などがある。
※本連載は、毎週月曜日に配信します。


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